【26年度農業予算案】耕作放棄地対策はどこに? 村田武・九州大学名誉教授2014年1月7日
・動き出す農地集積バンク
・新規参入者への現場の懸念
・家族農業は守れるか?
12月24日に閣議決定された2014年度政府予算案の農林水産予算案は、安倍内閣がアベノミクス「第3の矢」成長戦略で掲げた「今後10年間で農業・農村所得倍増」の実行元年だとして、農業の競争力強化に重点を置き、2兆3267億円と2年連続の増額となった。
◆動き出す農地集積バンク
その重点事項のトップとされたのが、「担い手への農地集積・集約化、担い手の育成等による構造改革の推進」のための「農地中間管理機構」事業である。これを農水省は、「農地集積バンク」とも呼んでいる。305億円が計上され、13年度補正予算と合わせて計705億円によって、全国で年間15万haの農地集積がめざされる。農地集積を進め、担い手利用面積(所有権または賃貸借等の集積面積・ストック)を10年間で8割に高めて、「効率的営農体制」を創るために必要な150万ha集積のスタートというわけである。
13年12月5日に参議院で可決され成立した「農地中間管理事業の推進に関する法律」は、「農地中間管理事業の的確な推進により、農業経営の規模の拡大、農用地の集団化、農業への参入の促進等による農用地の利用の効率化及び高度化の促進を図り、もって農業の生産性の向上に資すること」とされている。
ところで、近年の農地流動化は、1975年に創設された農用地利用増進事業による利用権(賃借権など)設定による農地流動化、1993年創設の認定農業者制度の創設、翌94年の認定農業者に対するスーパーL資金の創設、さらに2009年の農地法改正で、全市町村に農地利用円滑化団体を設置しての農地利用集積円滑化事業などによって加速し、毎年、所有権移転で3万ha、利用権設定(純増分)で6~9万haと、合計ほぼ10万ha水準に達している。その結果、農地面積に占める担い手の利用面積(ストック)も、1995年の504万haのうちの86万ha、17.1%から、2012年には459万haのうちの226万ha、49.1%にまで高まっている。20ha以上の経営体が耕作する面積シェアも、土地利用型農業の農地面積368万haのうちの119万ha、32.3%になっている。この数字は、相当のスピードで農地集積が進んでいるという農村現場での実感を反映しており、自治体、農業委員会、農協などが事業の推進で担い手を育てようとしてきた成果でもある。しかし、TPPによる関税撤廃を前提にしたアベノミクス成長戦略では、コメの生産コストの現状の60kg1万6000円から9600円への4割引き下げ、法人経営体の4倍増を目標とするので、これでも間に合わないというのであろう。
◆新規参入者への現場の懸念
農地中間管理機構法の施行に際しては、各県は結局のところ農地保有合理化法人である県公社や県農業会議に機構を指定せざるをえないであろう。機構に指定された団体には、県内で事業を重点的に実施する区域の基準や取得する農地の基準、農地中間管理権の取得方法などを盛り込んだ「農地中間管理事業規定」を定めて、知事の認可を得なければならない。機構が管理権を取得する農用地は、「農用地等として利用することが著しく困難であるものを対象に含まないこと、貸付けが確実に行われると見込まれる場合に実施すること」という縛りが掛けられている。そのうえで、農林水産省令で定めるところにより、定期的に農用地の借受け希望者を募集し、賃借権の設定を受ける者を明らかにした「農用地利用配分計画」を定め、知事の認可を受けなければならないとなっている。おそらく、実際に農村現場で起こるのは、以下のような事態ではないか。
県都M市を中心にレストラン・チェーンを展開するA社は、県下の銘柄米産地U平野のB集落で、集落営農組合による水田管理がむずかしくなっているのに目を付け、借受け希望者として公募に名乗りを上げ、中間管理機構による集落水田の一括借上げと、国費での土地改良と団地化を待って新規参入する――。
◆家族農業は守れるか?
ところで、安倍政権の「攻めの農林水産業推進本部」では、第1の重点課題として生産現場の強化のために、「人・農地プランの戦略的展開」と「担い手への農地集積/耕作放棄地の発生防止・解消の抜本的強化」を掲げ、「農地集積、耕作放棄地の解消に係る数値目標を設定」して、それを実現する政策手法として「農地の中間的受け皿」を整備・活用するとした。そこで登場したのが、この農地中間管理機構であったはずである。農水省が13年9月に産業競争力会議に提出した資料「農地中間管理機構(仮称)の検討状況」でも、問題は、[1]この20年間で、耕作放棄地は約40万ha(滋賀県全体とほぼ同じ規模)に倍増したこと、[2]担い手の農地利用は全農地の5割にとどまること、にあるとしていた。法案策定過程で、法の目的から耕作放棄地解消は完全に放棄された。これまた、安倍内閣の参議院選公約破りである。法は、農外企業を含む「新規参入者」に優良農地150万haを囲い込ませる「日本型囲い込み法」としての本質を色濃く滲ませるものになった。
国連は第66期総会で、2014年を「国際家族農業年」とすると決議した。「家族農業」とは家族農業経営それも小規模な経営に担われる家族農業である。農林漁業全体にわたって家族を土台とする小規模な経営が、世界の食料安全保障にとって不可欠であり、自然資源の持続的利用への貢献、社会的保護やコミュニティの再生などの政策とあいまって地域経済の振興を担う存在としての重要性がいよいよ明らかになっている。国連と国際社会のめざすところに逆らって、家族農業経営を潰し、法人経営を支援して、国際競争力のある農業づくりをめざすという安倍政権は、鳥獣害と耕作放棄の広がりに苦しむ現場に混乱を持ち込むだけである。
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