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迫力欠く今年の白書 激動の時こそ 着実な分析を  田代洋一・大妻女子大学教授2014年6月20日

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・米の交付金で農地集積進む
・農業貿易交渉、内容に触れず
・食料自給力はなぜ必要なのか?
・手薄で弱い農業構造分析
・地域の農業人口「多い」と人口減?
・被災地の復興と土地利用型農業

 農業・農政は激しく揺れ動いている。今こそ白書の出番だが、期待は裏切られた。白書「動向」編は平成22年度版の428ページから233ページに半減した。いたずらに長ければいいというものではないが、「軽薄短小」でも困る。
 政策効果分析より政策対応と事例紹介が多い。事例はどれだけ重ねても、「例証」「傍証」にしかならない。事例集から政策分析白書への回帰を期待したい。

◆米の交付金で農地集積進む

prop1406200304.gif 今年は、「トピックス」として「和食」の世界文化遺産化と農地中間管理機構等を取り上げ、次いで第1~3章で食料・農業・農村を、第4章で震災復興をとりあげている。
 トピックスでは、米直接支払交付金については「すべての販売農家に対して生産費を補填することは、農地の流動化のペースを遅らせること等の政策的な問題もありました」としている。しかし白書の図2-1-5をみると、利用権設定の純増は同政策の始まった2010年は横ばいだが、2011年には大幅増になっている。経営安定対策の規模要件を外しても伸びたのはむしろ上出来というべきだろう。
 また同交付金の廃止の「振替・拡充」として日本型直接支払制度等を創設したとしている。しかし農家の所得増につながる「拡充」になっているだろうか。たんに対象地目を増やして「広く薄く」しただけではないか。軽々に「日本型」を使ってしまうと、本格的な直所得支払いが必要になった時に困る。

図2-1-5 農地の権利移動面積の推移

 

◆農業貿易交渉、内容に触れず

 日豪EPAについては「大筋合意が確認」、TPP交渉については「厳しい交渉が続いています」で、日程紹介が中心で内容説明がない。4月のオバマ来日に伴う交渉等についての言及はない。TPPについては国会決議には触れているが、TPP交渉と並行して日米2国間交渉も義務付けられた点などはまったくふれていない。日豪EPAについては国会決議があることさえ紹介されておらず、牛肉関税の引き下げ等の決着と国会決議との関係、そして引き下げが畜産全体に及ぼす影響、ひいては政府が力をいれている飼料米生産等への影響などは全く触れられていない。政策選択の波及(間接)効果の分析はポイントである。

 

◆食料自給力はなぜ必要なのか?

 世界の食料需給については引き続き「ひっ迫する可能性」を指摘している。しかし2008年の価格高騰の最大の要因だった投機マネーについては触れていない。他方で国際的な「農地争奪」を規制するルール作りには日本が貢献したとしているが、肝心の実効性が語られていない。
 白書は、自給率は「緊急時における国内農業の食料供給力の程度を示すものではない」として、暗に民主党政権時代の自給率目標の設定を批判しつつ、「緊急時における安全保障を確保するため」に自給力の維持向上が必要としている。
 自給率目標を緊急時のそれと取り違えたのは誤りだが、自給力を緊急時のためとするのも別の誤りだ。自給率は国内消費と国内生産の相対関係でしかない。それに対して自給力は絶対水準を示す。「備えあれば憂いなし」で、その重要性は平時も緊急時も変わりない。
 高齢者の食をめぐって、調理食品では天ぷら・フライ・サラダ・調理パン、コーヒー飲料等の「簡単な食」が増えているという指摘は興味深い。さらに「高齢者にやさしい食」「食のユニバーサル化」等に進めてほしい。

 

◆手薄で弱い農業構造分析

 農政が構造政策に注力している割には最近の白書の構造分析は弱い。農政は農地中間管理機構に全てを賭けているが、機構さえ設立すれば何とかなるというものではない。農業構造は動くときには動くし、動かない時には動かない。その動く状況を客観的に分析するのが白書のはずだ。
 白書は、この20年間で農業所得が半減し、農業の交易条件指数(農産物価格指数/農業生産資材指数)は一路悪化をたどり、最近はマイナスになっていること示している。これらは構造政策に逆行する。
 また稲作の項では、15ha以上の生産費は平均より3割低いとして大規模化を進めるべきとしている(図2-4-3)。しかし平均規模から一足飛びに15ha以上になるわけではない。10~15haと比較すれば15ha以上への規模拡大効果はほとんどない。恐らく15ha以上層は低コスト化もさることながら、販売額を増やす高付加価値化をねらっているのだろう。その場合の経済効率は生産費の絶対水準ではなく、価格との相関、すなわち「価格/生産費」で測られる。経営実態に即した分析が必要だ。
 担い手のあり様に焦点が据えられているが、叙述の順序が[販売農家→法人→集落営農]の順になっているが気になる。一般企業の「法人」に着目してのことだが、実態としては[農家→集落営農→法人]の方が素直ではないか。

図2-4-3 作付面積規模別米の生産費(平成24(2012)年度)

 

◆地域の農業人口「多い」と人口減?

 心なしか今年の白書は3章がおもしろかった。事例が活きる分野だからだろう。
 最も注目されたのは引用図(図3-1-2)である。これは中央公論2013年12月号の「壊死する地方都市」がヒントかもしれない。同論文は出産可能な20~39歳女性人口に着目したもので、それと将来の人口減との相関は理解しうる。それに対して白書は、市町村の農林漁業就業者割合と人口減少率との相関図を示し、前者が10%以上のところが最も人口減少が激しいとしている。
 しかし両者はストレートに相関するだろうか。もしそうなら農業人口を少なくした方が人口減少率が低くなり、「農業なんかやめちゃえ」という結論になりかねない。農業人口が多い市町村は遠隔地、中山間地域等の過疎地に多く、そのことがこのような図になったとみるべきである。

図3-1-2 市区町村別人口指数の推移(農林漁業就業者割合別)(平成22(2010)年=100)

◆被災地の復興と土地利用型農業

 終章に格下げになったとはいえ、白書が被災地を忘れなかったことは特記される。
 そこでは園芸作や野菜工場等がはなばなしく取り上げられているが、海岸平野部の広大な被災面積の復興にとって決定的なのは土地利用型農業の担い手の復興である。その決め手は集落営農(法人)化だ。来年はその辺に焦点を当ててほしい。

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