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【農業改革、その狙いと背景】農業への参入企業が食料生産を担うか? 小池恒男・滋賀県立大学名誉教授2014年9月10日

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・国民に問われる農業がめざす姿
・資本参入促進で農業は下請け化
・農業の成長戦略最優先は効率化

 今回の農業改革のキャッチフレーズは「農業の成長産業化」である。企業の農業参入をてこに、企業的な農業が実現した姿を小池恒男教授は米国の農業に見る。それは「農業者の下請け化」ではないかと警鐘を鳴らす。

小池恒男・滋賀県立大学名誉教授 第二次安倍内閣の農政の基本に据えられた農林水産業・地域の活力創造本部『農林水産業・地域の活力創造プラン』(改訂版、2014年06月24日閣議決定、以下では『活力創造プラン』と略)の六本の基本施策の五番目にかかげられた「農業成長産業化に向けた農協・農業委員会等に関する改革」は唐突さのみならず、その提起のあまりの高圧的なありようは、関係者に多大の驚きと、反発と、不要の疑心暗鬼をもたらしています。
 中央会制度の見直しは官邸・農林水産省連携のむき出しの政治的意図、全農の株式会社化や信共事業の分離等々の農協改革は農林水産省の意向、農業委員会の見直し・農地を所有できる法人の見直しは財界の意向等々、当然のことながらそれぞれ思惑の違いはあるものと思われます。どの提案が「ストライク(本命)」で、どれが「見せ球で」、どれが「ピンボール」なのか読み解くことは容易ではありません。しかしやはり三者三様で、どれも恐ろしいというのが実感です。それに加えて、部分的にはすでに国家戦略特区が先取りしているという実態があることも見逃せません。

(写真)
小池恒男・滋賀県立大学名誉教授

 

◆国民に問われる農業がめざす姿

 しかし、グローバリズム、自由主義経済、TPP協定という政治経済の大きな流れがわが国の農業・農政に求めているものは何か、そしてまた、昨年6月に閣議決定、本年6月改訂の『日本再興戦略』、『骨太の基本方針』、そして昨年12月に閣議決定、本年6月改訂の『活力創造プラン』、本年6月公表の経済成長フォーラムの『「企業の農業参入促進」のための提言―参入規制の緩和と製造業の生産手法導入を―』等々で示された安倍内閣の日本経済の成長戦略と農業の産業化戦略がわが国の農業・農政に求めているものは何か。つまるところそれは、食と農の効率化最優先の市場化、企業化(一般企業の農業参入)、工場生産化、成長産業化への道ではないのか、政府や財界の提言を読めば読むほどに結局はそういうことではないのかと思えてくるのです。
 そしてこれに対抗するもう一つの道は何か。わが国の農業・農政をめぐって、根本のところで国民に問われていることは何か、このことについて考えてみたいと思います。
 食と農の効率最優先の市場化、企業化(一般企業の農業参入)、工場生産化、成長産業化による食と農の独占的支配の典型は、アメリカ型の一握りの投資家や多国籍企業の推進する企業養鶏や植物工場、遺伝子組み換え穀物等々にみることができます。堤未果さんが『(株)貧困大国アメリカ』でアメリカの養鶏業界で起こっている実態の一端を明らかにしています。その要旨はおよそ以下の通りです。

 

◆資本参入促進で農業は下請け化

 アメリカの養鶏業界に君臨する四大企業としてあげられるのは、世界最大のタイソンフーズ(牛、豚、鶏の加工業では世界第2位)、ついで世界第2位のブラジルJBS、そしてベルデュ、サンダーソンです。インティグレイターと呼ばれるこれらの親会社は、過去数十年間に飼料や種鶏の供給、生産、と畜・加工、流通等の一連の業者を買収して全機能を傘下に入れた総合事業体になっています。そして、種鶏及びその特許、飼料、抗生物質、成長ホルモン、運搬用トラック、と畜場、そしてブランド名を所有して業界を支配します。養鶏工場で成長促進剤を注射された鶏の病気や死亡率は28%にのぼるといいます。成長促進剤の効果はあまりに大きいために、内臓や骨が成長に追いつけず、大半が6週間目で足が折れたり肺疾患になってしまうというのです。そして今では、生産者の98%が親会社の条件のもとで働く契約養鶏「生産者」になっているというのです。程度の差こそあれ、豚も牛もこうした養鶏がたどった道をたどっているといいます(同書27~29ページ)。
 注意深くみておかなければならないのは、もっとも進んだ企業化、工場生産化の典型的とされるアメリカの企業養鶏においてさえ、一般企業の農業参入を言いながら、参入した一般企業が肝心の農業生産を担うわけではないという点です。農業生産そのものは、インティグレーターのもとで働く契約養鶏「生産者」によって担われているという点です。「資本の農業のとらえ方」はそういうものであって、つまり、効率最優先の市場化、企業化(一般企業の農業参入)、工場生産化、成長産業化といっても、その目指すものはインティグレーターによる生産要素市場の支配、作目(畜種)ごとの業界をインティグレーターのような総合事業体が独占的に支配することではないのかという点です。
 そのような環境のもとに置かれた下請け化された契約生産者が残された「裸の農業生産」のみを担うという姿なのではないのかという点です。グローバリズム、自由主義経済、TPP協定という政治経済の大きな流れの中にあって、政府や財界が提言する農業改革の目指すべき姿もまたそういう姿なのではないのかという点です。

 

◆農業の成長戦略 最優先は効率化

 そうみると、経済成長フォーラムがあからさまに求めている「一般企業の農地所有」の目的は、実は農業生産のためではなく、生産要素市場の独占的支配のための手段に過ぎないのではないかということになるのです。効率化最優先の市場化、企業化(一般企業の農業参入)、工場生産化、成長産業化の本質は、資本による「いいとこどり」の農業の成長産業化戦略なのではないでしょうか。このような理解に立てば、『活力創造プラン』がかかげた「農業の成長産業化に向けた農協・農業委員会等に関する改革の推進」もまた、結局は、農業の効率化最優先の市場化、企業化(一般企業の農業参入)、工場生産化、成長産業化のためには農協も農業委員会も邪魔になる、排除すべしということであったということになります。
 財界、農林水産省は1992年の「新農政」以降においてもなお、まがりなりにも農業経営体に生産の相当部分を担わせるという規模拡大路線をめざしてきました。
 しかし、第二次安倍内閣の農政の基本にすえられた「“活力創造プラン”農政」は、農業成長産業化のためには企業の参入が不可欠とする農政へと大きく舵を切ったものとみなければなりません(「企業参入で農業の成長産業化」)。

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