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【農業改革、その狙いと背景】地域・単協の声 全国へ集約を  田代洋一・大妻女子大学教授2014年10月3日

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・地域からの包囲網を
・農協の営利企業化
・共益性と公共性の分断
・農協を地域から切り離す
・中央会は要らないのか

 シリーズ最終回は改めて「農協改革」を問う。経済事業を特化すべきとの主張は実は農協の営利企業化が究極の狙いではないのか。農協の経済事業は地域の暮らしを守る公共性を持つことなどは無視され、さらには連合会・中央会解体は単協の孤立と弱体化をもたらす――そんな流れにどう抗するか。田代洋一大妻女子大学教授は「地域・単協の声を全国レベルで集約を」と強調する。

◆地域からの包囲網を

 「農業改革」(以下「改革」)に名を借りた農協・農業委員会攻撃の法制化が急がれている。新自由主義的な農水官僚が原案を作り、規制改革会議が財界意向を盛り込み、安倍官邸が権力のお墨付きを与え、自民党が微調整し、後は一瀉千里に法制化を図る。これが安倍農政の手口である。
 「改革」には二つの欺瞞がある。第一に、農家所得が半減したのは農協が経済事業に専念しなかったからだと責任転嫁し、農家所得増には農協「改革」が不可欠だとする。第二に、「自己改革」を基本にするとしながら、先に厳しいタガをはめてしまい、協同組合の民主的な討議には時間がかかることを承知のうえで短兵急に結論を急がせる。 それに対して「全中は早く方針を出すべきだ」という声もあるが、それは間違っている。まず地域・単協が、「われわれはどうなりたいのか」「全中や全農にどうなって欲しいのか」の声をあげ、それを全国レベルに集約し、農協系統の総意を結集して攻撃を跳ね返していくのが筋である。上からの分断戦略に対する地域からの包囲戦略である。
 地域が声をあげるには事の本質を正しく把握する必要がある。その点で本紙の7月10日号、30日号の森山衆議院議員や農協人の生の声は興味深い。それを受けて本稿も「改革」の本質に迫りたい。

 

◆農協の営利企業化

 「改革」の究極の狙いは、農協を協同組合から営利企業に変質させ、営利企業として成り立たない農協を潰すことである。そのための手段は二つ。第一は農協法の、農協は「営利を目的としてその事業を行ってはならない」という非営利規定を外す。第二は農協の事業を経済事業に特化させ、その他の事業を切り捨てさせて総合農協を裸にする。
 まず第一の点からみていく。農協法上の非営利規定とは出資配当制限(年8分以内)のことであり、何も農協が利益をあげてはいけないということではない。株式会社は出資配当の最大化を目的とする。それに対して「組合員のために最大の奉仕をする」農協は事業分量配当を第一とする。そのために設けられたのが出資配当制限であり、非営利の象徴的規定である。だからこれを外したら農協は株式会社と同じになってしまう。
 「改革」は、「農協が農家のために最大限に利益をあげるには、市場経済で最も企業効率の高い株式会社に移行すべきだ」という新自由主義的な考え方を根底に持っている。利益最大化か、それとも組合員の暮らしを守るための協同(組合員の組合運営への参加と事業利用結集)か、という農協の目的理解そのものが違っているのである。
 しかし現実の農協は、経営が厳しいこともあり、9割近くが出資配当を行っているが、事業分量配当を行っているのは3分の1である。事業分量配当の基準も貯金高のみのところもあれば、その他の事業も基準にするところもある。総合ポイント制も事前の事業分量配当ともいえる。攻撃をはねかえすためにも、蓄積に回した残りの剰余をどう配分するのかよく考える必要がある。

 

◆共益性と公共性の分断

 第二の攻撃手段は経済事業特化論、すなわち農協がその他の事業をすることは経済事業の妨げになるので、譲渡するか、別の企業形態として独立させ、農協は、専業的農業者のための職能組織に純化しろというものである。
 職能組合は構成員の「共益性」を追求するものであり、員外利用は厳しく制限される。しかるに日本の農協は戦前の産業組合時代から各種事業を兼営しており、今日では農業関連や信用・共済のみならず、Aコープ、直売所、ガソリンスタンド、病院、介護、葬祭など幅広く展開し、准組合員制度も設けられている。兼業農家の存在や農村と都市の混在という日本の現実に即したものである。
 これらの事業は、専業的農業者のみならず、広く地域住民のニーズに応えている。このように特定の者だけでなく広く地域住民に公開・利用され、「みんなのため」に役立つことを「公共性」と言う。「公益性」といってもよかろう。
 つまり日本の農協は、総合農協として、農業者のための「共益性」と地域住民のための「公共性」を同時追求している。公共性は、過疎化等で地域から店舗などの利便施設が撤退するなかで、ますます地域のライフライン、生活インフラとして重要になっている。
 それに対して「改革」は、そのような公共性は経済事業の妨げになるから切り捨て、職能組合として経済事業に徹しろという。
 他方で政府は、統一地方選を前に、集票基盤のテコ入れを狙って、「地方崩壊」をあおりつつ「地方創生」をいいだした。しかし農協の公共性を潰しておいて、誰が地域活性化を担うというのだろうか。農協の公共性が失われれば、地域の生活インフラが崩壊するだけでなく、地域農政も崩壊する。自治体から農協「改革」を危惧する声があがってくるのも当然である。
 とはいえ公共性を一面的に強調すると、「改革」は「ならば協同組合をやめて公益法人等になればいいではないか」と切り返してくる。だから大切なのは、あくまで共益性を土台にして、それがもつ良い面を地域全体に広げる公共性を追求することである。

 

◆農協を地域から切り離す

 「改革」は、農協理事の過半を認定農業者と経営プロ(OB)にしろという。農協理事の多くは地域・集落代表として選ばれてきた。女性・青年や担い手の登用を工夫する必要はあるが、特定層や農外・地域外の者を主にしてしまうと、農協は地域から切れてしまう。
「改革」は、また全農の株式会社化や中央会の社団法人化等を通じて、農協組織の系統性をぶち切ろうとしている。
 こうして単協は、地域からも系統からも切り離され、大競争の時代に孤立無援の戦いを強いられることになる。そこに多国籍企業がやってきて、「自分の傘下に入り6次産業化のための原料供給者にならないか」と呼びかける。これが「改革」の狙いである。

 

◆中央会は要らないのか

 「改革」は、中央会を農協法上の組合から外して一般社団法人化することを目玉にしている。
 中央会は、単協(一次組織)から自主的に積み上げられた補完組織(二次組織)としてよりも、単協の破綻を防止し、農政の意向を浸透させる組織として「上から目線」でつくられたので、法の規定を削れば抹消されてしまう弱みをもつ。
 それに対して地域・単協が法定の中央会を必要とするか否かが勝負になる。「改革」は、中央会が単協の自治・自立を阻害しており、それをなくせば単協が自由にはばたけるとするが、逆に単協は全国的な拠り所と情報源を失い孤立化することになろう。
 中央会の賦課金をなくせば単協の負担が軽減するような言い方もされるが、内部監査を公認会計士監査に切り換えれば、賦課金以上の経費がかかり、しかも農業・農協の独自性を無視した企業会計一般の論理が押し付けられる。
 農業・農村の比重が低まるなかで、その声を全国に結集して建議することは不可欠である。生産調整機能も中央会が農協法上の協同組合であるからこそ、独禁法適用除外を受けられる。
 これらは全て法律に規定された中央会機能だからできることである。それを保つためには、地域から「中央会のこういう機能が必要だ」という声が澎湃としてあがってくる必要がある。「国の農政のための中央会から地域の農協のための中央会へ」である。全中もまた上から指示を出すのではなく、全地域・単協の声を結集する立場に徹し、その力に依拠して攻撃を跳ね返すべきである。
 地域・単協の声を全国へ――これが本稿のメッセージである。

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