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【解説・提言】農協改革を新たな段階に 自主・自立の協同組合へ :改正農協法4月1日施行2016年4月1日

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太田原高昭氏北海道大学名誉教授

 4月1日、改正農協法が施行される。農協の事業目的に「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」ことが明記されたほか、JAの理事構成や組織形態の変更などについての規定も見直された。一方、JAグループは「創造的自己改革への挑戦」を掲げ、農業者の所得増大、農業生産の拡大、そして地域の活性化を目標に「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」の確立に取り組む。改めて今回の農協法改正の意味を考えるとともに、農協運動がどのような歴史的位置にあり、これから何をどう実践すべきかについて太田原高昭・北海道大学名誉教授に提言してもらった。

協同の成果、最大発揮を

◆農協運動を確かな軌道に

「創造的自己改革」を掲げた昨年10月の第27回JA全国大会 「農協法等を一部改正する法律」が昨年の通常国会を通過し、この4月から施行されることになった。この法律がTPP反対運動の先頭に立ってきたJAグループを狙い撃ちにして、その解体、弱体化を狙ったものであることは明らかである。
 しかし法改定の端緒となった規制改革会議の『農業改革への提言』への現場の反発もすさまじく、自民党公認候補がJAの擁立した候補に大敗した佐賀県知事選挙に見られるような、地方政治の危機を招きかねない事態も生まれていた。
 こうした動きに押されて、実際に成立した法律は規制改革会議の提言とはかなり遠いものとなった。とりわけ提言の目玉ともいえる信共分離や専門農協化などの総合農協解体が盛り込まれなかったことは大きい。規制改革会議の金丸委員長が「骨抜きにされた」と悔しがったというのも事実であろう。
 一方で全中は農協法上の地位を失って一般社団法人となり、全農の株式会社化は農林中金や全共連も含めて選択制とされて将来に含みを残している。また「組合は営利を目的として事業を行ってはならない」という協同組合理念が農協法から抹消されるなど、農協のビジネス化、営利企業化に道を開いていることも見逃せない。
 焦点の一つであった准組合員の事業利用制限については、「5年後に再検討」という形で先延ばしされた。総じて言えば、JAグループは焼き討ちに対しては消火作業が功を奏して建物の主要部分を守ることが出来たが、まだあちこちに火種が残っている状況である。


◆農協史 新しい段階へ

太田原 高昭 氏 北海道大学名誉教授 こうした中で昨年11月に開かれた第27回JA全国大会は「創造的自己改革への挑戦」を掲げて、自主的・自立的な自己改革への決意を表明した。安倍政権の「農協改革」に対抗して農協運動を確かな軌道に乗せることができるかどうかはこの自己改革にかかっている。
 農協の自己改革とは、政府のいう農協改革に迎合して、あるいはにわかな対抗措置として行われるべきものでないことは言うまでもない。JAグループはすでに自らの改革目標をもち、その取り組みの途上にあることを忘れてはいけない。
 その原点は1991年の第19回全国大会で決定された「組織・事業改革」にある。もう4半世紀も前の話かと言われるかもしれないが、単協の広域合併と連合会の統合を目指したこの改革が未だ途上にあることは少し考えればわかる。単協の合併は現在進行形で行われているし、連合会統合も共済連を別にすればとても完了したとは言えない。
 広域合併と連合会統合が、バブル経済の中で発生していた不良債権問題が直接の引き金になっていたのは確かである。その点では銀行の合併と同じである。しかし、銀行の合併が膨大な公的資金の注入を必要としたのに対して、JAグループの場合は国民に迷惑をかけず自力更生に成功した。農協の会計監査と業務監査のシステムが有効に働いたのである。
 しかし、この改革の意義はそういうところに留まるものではなかった。それまでの系統農協が1町村1農協、3段階という行政組織への対応を基本としていたのに対して、広域農協と「中抜き2段階」というこれまでにない組織形態を目指していたことが重要である。
 私はかつての著書『明日の農協』において、日本型農協を「制度としての農協」と特徴づけたが、それは食管制度を中心とする国の制度に即応し、その運用実務に当たるあり方を指していた。行政代行が主要な業務であれば、組織もまた行政に対応しなければならなかった。
 「制度としての農協」は1994年の食管法の廃止で一つの区切りを迎える。それでも行政が農協を必要としたのは減反政策が続いていたからだった。減反政策も国の業務なのであるが、集落の中まで入って目標を達成するためには農協の力を借りなければならなかった。
 その減反政策も終わろうとしているタイミングで「農協改革」が出てきた意味を考えなければならない。農水省の一部にはこれで農協の役割は終わったという考え方があり、それが農協のもつ金融資産や農村市場を火事場泥棒的に横取りしようとする財界の野望と結びついたのが、安倍政権の「農協改革」であると考えられる。
 その意味ではJAグループはいま新しい歴史段階に入っている。それは農協法が改正されたからではなく、「制度としての農協」の終焉というもっと大きな要因によるものである。そしてJAの側も制度の枠に縛られない新しいあり方をすでに打ち出していた。
 だから「農協改革」には2つの道がある。農協の官僚的利用価値が終わったとしてこれを解体するか、制度のくびきから脱して本来の協同組合としての発展を目指すかである。


◆問われる政治的スタンス

農協法改正による組織の見直し

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 JAグループのスタンスは明確であると言ってよい。全国大会の決議でも「協同組合」を前面に出しており、都道府県段階の大会でもそれは同じである。私はいくつかの道県のJA大会に出席する機会を持つことができたが、この点ではたいへん心強い思いをした。
 例えば佐賀県JA大会の議案では「現在、政府等からは『協同組合の理念』『JAの総合事業体としての特性』を無視した農協改革が求められているが、我々は、協同組合としてのJAの目指すべき方向を見失うことなく~」と対抗軸が明確にされている。
 「制度としての農協」と「自主自立の協同組合」では何がどう違うのだろうか。組織と事業についてはこれまで取り組んできた自己改革をさらに創造的に進めることである。すでにこれまでの歩みの中で、改革の中身は多彩で創意性に富むものになってきている。
 合併については1県1農協という大型合併もあれば、北海道十勝のように合併はせずに農協間のネットワークで共販を広げるやりかたもある。連合会にも共済のような全国的統合もあり、全農と経済連の並存もある。信連についても多様なかたちが出てくるだろう。
 まさに地域の実情と事業の特性に応じて多様な形態が実践の中から現れてきているのであって、そのことが「一律的な指導」などなかったことの証左である。大切なことはJAグループが制度の縛りから解放されて、協同の成果が最大になるように結びつくことである。
 最も変わらなければならないのは組織としての政治的スタンスであろう。「制度としての農協」は保守長期政権との抱合を半ば当然視してきた。しかし、財界に軸足を移した保守政権は農業の守り手ではなくなりつつある。TPPはそれを決定づける歴史的事件である。


◆農協と行政の連携不可欠

 西欧先進国の農協は、政治的中立を固く守ることによって二大勢力の間でキャスティングボートを握り、手厚い農業保護政策を実現させ、そのことを国民的合意とすることに成功してきた。さしあたりこの経験が新しい時代のJAグループの参考になるだろう。
 行政との関係はどうなるか。この問題はむしろ行政の側にこそ問われるべきであろう。農水省の中には農協無用論があるようだが、果たして農協の力を借りずに農政を進めることが可能だろうか。たとえば39%の食糧自給率を45%に上げるという農業基本計画に本気で取り組むのであれば、生産現場の農協の協力なしに成功することはありえない。
 自給率向上の課題をあきらめて輸入による安定供給を図るというような姿勢を取るならば、その時は独立省庁としての農林水産省の存在そのものが問われることになるだろう。国民生活の安定のためには、農協と行政のパートナーシップが必要である。そしてその関係を対等平等なものとして担保する新しい農協のナショナルセンター(全中)をどうつくっていくかということも自己改革の重要な課題である。
(写真)「創造的自己改革」を掲げた昨年10月の第27回JA全国大会、太田原 高昭 氏 北海道大学名誉教授

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