【提言】3つの危機の彼方に 日本農業の未来描く 谷口信和・東大名誉教授(上)2020年8月17日
新型コロナウイルス感染症の拡大が長期化するなか、われわれにはこのウイルスとの共存を覚悟し、命と暮らしと地域を守っていくことが求められている。社会はどう変化していくか、課題は何か。谷口信和東大名誉教授に分析、提言してもらった。
ポストコロナを軽々に論じることはできない
筆者の手許に日経BPムック『アフターコロナ』(7月16日刊)がある。30人の著名人が「ニューノーマル」を論じたもので、とても勉強になった。だが、どこか胸にストンと落ちないもどかしさが残った。そんな折に朝日新聞夕刊掲載の藤原帰一氏「時事小言」(7月15日)を読んで納得した。氏もポストコロナの展望を書いてきたのだが、流行が収まらず、ちっともコロナ後にならないと反省していたからである。
最強のCOVID19
ウイルスは生物と無生物の中間の存在で、自己増殖はできず、宿主を介して増殖し、伝播する。このため、一方では宿主の生命維持機能に混乱を持ち込みながら増殖するが、他方では宿主を死に至らしめるほど増殖するとさらなる増殖の機会を失うジレンマを抱えている。この点からすると、新型コロナウイルスは「最強のウイルス」かもしれない。なぜなら、人に感染してもかなりの割合で「無症状」のため、無自覚の人の活動によって他人への伝播の可能性が常に確保されているだけでなく、高齢者や持病保持者に対する高い致死率に示されるような爆発的な増殖の可能性も合わせもっているからである。
全容は未だ不明
最初のヒト感染は2019年12月上旬の中国・武漢と言われているが、それからまだ半年余りしか経っていないため、ウイルスの全容は依然として多くの謎に包まれている。当初は新型肺炎と呼ばれたが、(1)実に多くの症状・病気を併発している。(2)どんな後遺症がどの程度、いつまで残るのか分からない。(3)抗体が持続する期間は数ヶ月程度という説が有力だが、仮にワクチンが開発されても有効性に疑問符が付いている。(4)インフルエンザと類似していることから、後者に関する知見をベースにした予測や判断が行われているが(たとえば冬期の感染拡大)、それが必ずしも当たってはいないのが現実である。3月11日に宣言されたパンデミックの終息は全く見通しが立たない。
続く感染拡大
図1は1月から8月上旬までの毎日の新規感染者数の推移を示したものである。感染の進行状況の形を見るだけなので、Y軸の目盛りは国により大きさが異なる。
これによると、(1)世界の新規感染者数は依然として爆発的な増加局面にあり、終息の時期が判断できる状況にはない。(2)アメリカは第1波の鎮静化傾向の後の6月下旬からは一層強力な第2波に見舞われているが、これは第1波を主導し、鎮静化したニューヨーク州と遅れて感染拡大したフロリダ州などの「合成」によって生じた姿であり、国内に感染進行状況が異なる地域が存在することを示している。(3)北半球の日本は冬から感染拡大し、春に第1波が終息した。秋からの第2波への警戒が指摘されていたが、盛夏の7月に強力な第2波に突入している。日本と季節が正反対の南半球に位置するオーストラリアは夏の終わりの第1波から始まり、冬の第2波に突入している。
季節の制約を超えて、感染がすでに第2波に突入する国や地域が存在している。
我々の心構えは?
新型コロナの行方を考える上では、1981~83年に発見されたヒト免疫不全ウイルスHIVによって発症する後天的免疫不全症候群=エイズAIDSが手掛かりを与える。発見から15年ほどはHIVの診断は「死の宣告」同然だった。しかし、1996年頃から抗レトロウイルス治療薬ARTが導入され、HIVを根絶することはできていないが、HIV量を激減させることによって、今日ではエイズは糖尿病と同レベルの慢性疾患になりつつある。
図2のように、HIV新規感染者は減少しているが世界レベルでは2018年でも年に170万人程度あり(日本は940人)、陽性者数は3790万人(日本2万人)に増加しているが、陽性者のうちの61.5%はART治療を受けている。WHOは2020年までに、(1)陽性者が自らの感染を認識する割合、(2)陽性者のうちのART治療者の割合、(3)HIV量の抑制ができている陽性者の割合を90%にする90-90-90目標を掲げているが、2016年までに7カ国がこれを達成しているのに止まっている。
新型コロナ感染症についてはワクチンと治療薬の開発普及がこれを「克服」する条件だといえるが、エイズにみられるように現実には共存=ウイズコロナの時期が長期に続くことを覚悟せざるをえないのではないか。
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