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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(76)ねじれ解消で「思うがまま」は許されない-TPPと規制改革-2013年8月6日

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【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

・秘密交渉を盾に?
・農業WGの狙いは
・株式会社の農地取得論に注視

 7月23日、我が国は、初めてTPP交渉の正式の参加国として、マレーシア・コタキナバルで開かれた第18回交渉会議に参加した。これまでは先行参加国から非公式に交渉内容を聞き取ることしかできなかった協議条文案も交付され、24日は遅れて参加した我が国のために特別にセットされた「日本集中会議」で、各分野の説明を参加国交渉官から受けた。

◆秘密交渉を盾に?

 が、その詳細は明らかにされていない。“情報収集のために現地を訪れている業界団体向けに日本政府が開いた説明会”で、“政府は、交渉参加時に守秘契約を結んだため、自国の発言・提案も含めて交渉の具体的な内容は明かせないと説明した”そうだ(7・27付「日本農業新聞」)。
 説明会の“出席者は口々に、政府の情報開示の制約に対する不満をこぼした”と同紙は報じていたが、当然だろう。
 一般には、“守秘契約を結んだため…交渉の具体的な内容は明かせない”とするものの、与党代表者にはそうではないらしい。8月2日、自民党TPP対策委員会で西川委員長は“政府に対し、近く政府が各国と初めて交換する関税交渉の提案(オファー)について「関税を撤廃・削減する品目の割合の形で提示すべき」との考えを示した”そうだが(8・3付「日本農業新聞」)、“交渉の具体的な内容”を知らなければ、こんな提案もできないのではないか。
 マレーシアでの政府説明会出席者の1人内田聖子さん(アジア太平洋資料センター事務局長)は、帰国後の報告会で「日本政府は何を主張したのかさえ説明できないと言っている。秘密交渉を盾に、情報開示しないと言い訳ができるということだ」と述べたそうだが(7・27付「日本農業新聞」)、当分は一般向けには“情報開示しない”のが政府の方針なのだろう。
 参院選で大勝し、“ねじれ”は解消したのだから、“情報開示”などに神経を使わず政府の思うままにやっていい、と考えているのだろうか。

◆農業WGの狙いは

 “思うままにやっていい”というようなやり方でやられたら大変なことになりそうな問題が、ここにきてまた一つ登場してきた。7月26日、活動を再開した規制改革会議が“農業分野の規制改革を重点的に検討するため、ワーキング・グループ(WG=作業部会)の設置を決めた”からである(7・27付「日本農業新聞」)。
 同紙によると“農業WGで取り上げる課題について、岡議長は…6月に閣議決定した成長戦略に盛り込まれた農業の競争力強化に関連するテーマにとどまらず、「もっと基本的なもの」も対象になるとの見通しを示した。規制改革会議ではこれまで、農協に対して独占禁止法の適用除外や「経営の透明性」を問題視する声が相次いでおり、農協の組織・事業の根幹にかかわる批判が今後強まる恐れもある。また岡議長は農業WGで株式会社の農地取得問題を取り上げる意向も示した”という。
 独占禁止法適用除外問題については、古い話だが、2010年5月15日、民主党政権下の行政刷新会議がこの問題を取り上げたとき、本欄で問題にしたことがあるので旧稿の再録をお許しいただきたい。
 “(行政刷新会議以前にも独禁法適用除外問題が取り上げられたことがあるが、そのときは)独禁法第22条の( )のところだった。連合会、特に全農は適用除外組合から外そうということであり、端的にいって全農いじめといってよかった。それをあえて継続としてではなく新規として審議対象にするということは、JA全体を問題にしようということなのだろうか。(中略)
 が、JA全体を適用除外廃止にするということになれば、それは国際的常識――独禁法の元祖アメリカにも、そしてEUもそれぞれ協同組合は独禁法適用除外とする規定をもつ法律がある――に反することをやろうということになる。どういう論理を用意しているのか。JAの今のあり方を否定するからには、その論理は日本の協同組合のあり方を高く評価したレイドローらの論理をも批判できるものでなければならないだろう。

◆株式会社の農地取得論に注視

 “株式会社の農地取得問題”については、5月10日の規制改革会議で寺田稔内閣副大臣が、“一般企業の農地所有の全面的解禁を主張する発言を繰り返していたこと”を注意しておくべきだろう。副大臣はそのとき“所有を解禁されれば「J?REIT(リート)方式の導入など、さまざまな外資導入を含めた活性化」が期待できるとしていた”という。リートとは、不特定多数の投資家から資金を集めて商業施設やマンションなど不動産に投資する信託の一種”だという(以上、引用は6・19付「日本農業新聞」)。ハゲタカ・ファンドにも農地取得を認めよ、というのである。
 子会社ローソンファームが農業に参入しているローソンCEO新浪氏は“「農地は保有でなくてリースで十分」。農地所有への執着は「的外れ」と一蹴した”(7・4付「日本農業新聞」)そうだが、実際に農業を営んでいる実業家の判断は、そうであろう。が、株式会社の農地所有容認を、公約に掲げた維新の会、みんなの党が参院選で議席を増やした。どうなるか。注視していなければならない。

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