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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(86)「企画部会で「創造プラン」評価を2014年7月15日

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【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

・農業改革論、疑念止まず
・「農村所得」とは何か?

 新「基本計画」を論議している6月27日の農政審議会企画部会で、"規制改革会議の答申に対し不安を抱く意見が相次いだ"ことを6・28付日本農業新聞が報じていた。"農事組合法人ながさき南部生産組合の近藤一海会長は農業委員会や農協の改革が農業の成長産業化をどう促すのか、「説明が全くない」と指摘。「ただ壊して終わらないようにしないといけない」と慎重な議論を求めた"そうだし、"JA全中の萬歳章会長は「協同組合の理念は相互扶助だ」と強調。「会社にすれば競争関係が前面に出てきて勝者、敗者が生まれる。そうではなく、互いに理解し、向上するのが協同組合だ」と訴え、規制改革会議から5月14日に出された当初の提案には「いささか疑念を持っている」と述べた"という。

◆農業改革論、疑念止まず

 規制改革会議6・27答申では中央会は“現行の制度から自律的な新たな制度に移行する”となっているが、規制改革会議の5・14提案は“農業協同組合法に基づく中央会制度は廃止し、…例えば農業振興のためのシンクタンク…としての再出発を図る”というものだった。中央会が現在果たしている機能・役割を完全に無視したこの提案は、流石に自民党農協検討PT座長森山裕議員らインナー会議に集まった党農林幹部の了承するところとならず、修正して規制改革会議決定の表現になったのだった。
 修正案協議には萬歳全中会長も加わっていたという(6・19日本農業新聞)。萬歳会長は、“いささか疑念”どころではなく、JAの実態を知らず、中央会が果たしてき、現に果たしている役割を全く評価しない規制改革会議の提案には、激しい怒りをぶつけてもよかったところ、と私は思う。党インナー会議の修正努力に対する謝意もあって遠慮したのではないか。

 

◆「農村所得」とは何か?

 企画部会でのこの議論を受けて、皆川農水事務次官は、“政府の規制改革実施計画には「農協系統組織での議論を踏まえて具体化を図るとされている」と説明。「政府でも検討を深めていく。その過程で、企画部会の意見を聞く機会を設けたい」との考えを示した”そうだ。JAをどうするかは農政の重要問題である。こうした問題については政府案を決める前に農政審に意見を求めるべきだと私は思う。農政審も“機会”が与えられるのを待つのではなく、質すべき問題は多々あるのだから、“機会”を要求し、しっかり“意見”をいうべきだろう。
 問題の一つとして、“農業・農村全体の所得”がある。
 “農業・農村全体の所得”を今後10年間で倍増させる”は、“我が国の農林水産業・地域の活力創造に向けた政策改革のグランドデザイン”とされる「農林水産業・地域の活力創造プラン」の最大の売り文句になっている。「基本計画」の審議に入った農政審議会(26・1・28)の冒頭の林農林水産大臣の中でも引用されていたし、今年の農業白書の「農林水産業・地域の活力創造プランの概要」を示した図にも、プランの目標としてこの一文が置かれている。
 が、この一句、甚だ理解困難である。1・28審議会では誰も質問していなかったようだから、委員の方々はわかっているのかと思うがどうなんだろう。農業所得だけならよく使われるし、それを示す統計数字もあることだから“目指す”ところはわかる。しかし、“農村全体の所得”とは一体何だろう。
 日常的に農村という言葉はよく使う。“住民の多くが農業を生業としている村落”と広辞苑には出ているが、誰でもそういうところだと理解はしている。が、統計として“農村”を特定して作製されたものがあるだろうか。
 私が知っている限りでは、農業白書で“農村地域”という表現でつくられた統計を時折見かけるぐらいしかない。その白書での“農村地域”も、平成21年度の場合は“農業地域類型の都市的地域以外の地域”と注記されていたし、去年のそれは“非DIDsを農村地域としている”となっていた。都市的農業地域は“可住地に占めるDID(人口集中地区)の面積が5%以上で、人口密度500人以上またはDID人口2万人以上の旧市町村”及び“可住地に占める宅地等率が60%以上で、人口密度500人以上の旧市町村、ただし、林野率80%以上のものは除く”となっている。この都市的農業地域を除くその他の農業地域(平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域)と非DIDsが同じになるのかどうか、私にはわからないが、ともあれ一応“農村地域”として旧市町村(1950年時点での市区町村)を区分した統計が農水省にはある。その“農村地域”と“農村全体の…”という時の農村は同じと考えていいのかどうか。まずは“農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増させる”を宣言した当局に確かめるべきだろう。そして更に、その“農村”での今の所得は幾らなのか(全体で、住民一人当たりで)を確認しておくべきだろう。目標がはっきりしないのでは政策の立てようがない。

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