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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(91)今こそ吟味したい農政公約2014年12月16日

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【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

・成長はどこの話?
・どうする自給率?
・意味不明な農村所得

 政治評論家森田実氏が"国民からすれば大義名分はない。「長期政権狙い選挙」としか見えない"と評する衆議院選挙戦が始まっている(""内は11・2付日本農業新聞)。
 衆議院解散を断行した安倍総理の信念は、金融緩和・財政出動で成長促進を図るとする自称アベノミクスの評価を国民に問うということにあるのだろう。

◆成長はどこの話?

 選挙公示の日、福島県下であげた第一声でも“今回はアベノミクスが問われる選挙だ。2年間で雇用を拡大し、有効求人倍率も増えた。4月には賃上げも実施した”とアベノミクスの成果を強調したという。
 が、この日、同じく福島県で第一声を上げた民主党の海江田代表も指摘しているように“雇用が増えたと言うが、ほとんどが非正規雇用で正規は35万人減った”のが現実であるし、“パートを含む労働者一人が受け取った現金給与総額…は、8ヶ月連続で改善したが、賃金から物価の伸びを差し引いた実質賃金指数は2.8%減り、昨年7月以来、1年4ヶ月続けて減少した”というのが事実である(“”内は12.2付朝日新聞夕刊)。アベノミクスの成果は、まだまだ庶民が実感として受け止められるものとはなっていないし、この先に期待できるものがあると思っている人もそう多くはないだろう。
 ましてや06年以来の最安値となっている低米価に苦悩している農業者にとっては、アベノミクスによる成長などはどこの話か、というところだ。
 選挙公約には耳ざわりのいい言葉が並ぶものだが、自民党が11月25日に発表した政権公約のうちの「強い農林水産業」の所を眺めて、これで何をやるつもりなのか、気になったことが幾つかあった。

 

◆どうする自給率?

 真先に言っているのは、“食料自給率や食料自給力の維持向上”だが、自給率を自給力と並べたことの狙いはどこにあるのだろう。自給力を指標として、「基本計画」の中に盛り込むことはもともと農水省が考えたことらしい。11月21日の農政審企画部会での農水省の説明では“農地をフル活用して熱量効率の最大化を図った場合に国内生産で供給可能な熱量を複数のパターンで示す。食料自給率では示しきれない潜在的な食料供給能力を評価する目安として活用する狙い”だという(“”内は11.28付全国農業新聞)。“労働力のほか、肥料…などの生産要素は必要な量が確保されていることを前提とする”らしいが、基幹的農業従事者の61%が65才以上になっており、“農村地域では将来的に人口減少の加速化が予測されており…農業生産活動や共同活動が弱体化し、地域資源の荒廃や定住基盤の崩壊”を農業白書ですら“懸念”を訴えたばかりの現状で、安易に労働力の“必要な量”が確保されていることを前提とするのは如何なものか、と私などは考えるのだが、自民党はこの点をどう判断したのだろうか。
 より以上に明確な説明を求めたいのは自給率の維持向上についてである。自給率目標については基本法で“その向上を図ることを旨”として定めることになっているし、現行「基本計画」ではカロリーベース50%に引き上げることを目標にしている。が、この自給率は基本法制定以降“向上”したことがない。新計画を検討中の農政審企画部会では、この“向上”の兆しすらないことに絶望してか、50%をあきらめ、妙な自給力を持ち出そうとしているかに見えるのだが、“維持向上”は自民党はその方向を是とするように読める。それでいいのだろうか。
 それでいいのだろうかというのは、自給率50%目標がそもそも農水省方針として打ち出されたのは、石破農水大臣時代の08年12月のことだということを、自民党の先生方には想起してもらいたいからである。民主党政権下で突如出てきた数字ではないのである。

 

◆意味不明な農村所得

 「強い農林水産業」でもう一つ、問題にしたいのは、“農業・農村の所得倍増”という意味不明な言葉が相変わらず云われていることについてである。
 “農業所得”倍増はわかる。が、“農村所得”倍増は、“甚だ理解困難である”ことについては86回本欄でふれておいた。その際問題にしたのは、“日常的に農村という言葉はよく使う”が、“統計として「農村」を特定して作製されたもの”は無く、農業白書で都市農業地域を除く農業地域が「農村地域」になっているが、“農業・農村全体の所得”というときの“農村全体”はこの“農村地域”と同じなのかどうか、そしてその“農村”の今の所得は幾らと見ているのかを“まずは言い出した当局に確かめるべきだ”と農政審に注文をつけたのだが、その点の確認はどういうわけかされていない。
 農水省は“6次化の市場規模から付加価値の部分を取り出して所得を推計”したものを農村所得とする考えのようだ(「農村と都市をむすぶ」誌14・9月号所収、農業白書をめぐっての討論における天羽課長の発言)が、6次産業化としてどんな業種を取り込むのかは“基本計画の議論の中で”話しあうという。こうした甚だあいまいな政権公約を、農家の皆さんはどう受け取っているのだろう。
 安倍内閣発足時66%もの高率を示した内閣支持率が、米政策見直しなどの農政改革が始まった今年8月には44.7%に低下、不支持率54.7%と逆転したという日本農業新聞農政モニター調査結果(8.30発表)のような判断が、農家の人たちから示されることを期待したい。

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