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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(95)新基本計画 「国会報告」に望むこと2015年4月10日

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【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

・所得倍増は可能なのか
・自給率目標その問題点

 3月31日、「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定された。食料自給率目標をカロリーベース45%、"現行から5%下げ"るとする新「基本計画」の主内容については、農水省原案が示された段階で3月20日付本紙が紹介しているので、触れる必要が無いだろう。ここでは是非とも国会でも――基本計画は"国会に報告する"ことになっている(基本法第15条5項)――論議してもらいたいことを、2、3論じておきたい。

◆ 所得倍増は 可能なのか

 第1に「基本計画」審議開始に当たって林農相が要望した“「農林水産業・地域の活力創造プラン」で示した方向に基づき……美しい農山村を守っていける計画”にするという点がどうなったか、である。
 確かに新「基本計画」の“まえがき”のところには“「農林水産業・地域の活力創造プラン」…等で示された施策の方向やこれまでの施策の評価も踏まえつつ”と書いてあるし、“第1食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針”の最後は「農林水産業・地域の活力創造プラン」等においては、「今後10年間で農業・農村の所得倍増を目指す」ことと強調されており、“これに向けて、農業生産額の増大や生産コストの縮減による農業所得の増大、6次産業化等を通じた農村地域の関連所得の増大に向けた施策を推進する”という文章で結ばれていた。
 が、これまでの基本計画にはなかった食料自給力については、新たな項を設けて詳細な図表までつけて詳述しているのに、「活力創造プラン」については前掲の文章だけで終わっており、“農業・農村の所得倍増”の数字などは一切示されていない。
 農村所得とは何で、今、幾らなのか、“まずは「農業・農村全体の所得を倍増させる」を宣言した当局に確かめるべきだろう。……目標がはっきりしないのでは政策の立てようがない”と私が86回目本欄で論じたのは去年の夏のことだが、農政審ではどういう議論の末、倍増の数字を作らなかったのだろう。自民党の先生方、農水大臣も、「活力創造プラン」の言ったことを否定したかのようなこういう農政審の「計画」を何故容認したのだろう。
 と疑問に思っていたのだが、農政審で同時に決定された「農業経営の展望について」のなかに“農村地域の関連所得”なる数字が示されていた。“農村の地域資源を活用した農林漁業者による生産・加工・販売の一体化や、農林水産業と……2次・3次産業との連携による取り組みのうち、特に、今後成長が期待できる分野”であげられる所得を指すが、25年度1.2兆円37年度4.5兆円とされるその数字に、農業所得計算値25年度2.9兆円37年度3.5兆円をプラスすると農村地域の関連所得+農業所得は25年度4.1兆円37年度8兆円になる。農業・農村所得倍増はこれで達成されると言いたいのかも知れないが、この関連所得はそれが全部農村地域の人たちの所得になるわけではないし、疑問というしかない。

◆自給率目標 その問題点

 前基本計画は「わが国の持てる資源をすべて投入した時に初めて可能となる高い目標として50%のカロリー自給率を設定していた。それに対し、新基本計画は“諸課題が解決された場合に実現可能な水準”として45%のカロリー自給率を設定している。前計画との大きな違いである。これはどう評価できるだろうか。
 私は前基本計画が“持てる資源をすべて投入”させるような施策をともなった計画になっていないことを、想定されている耕地面積、耕地利用率、増産作物の吟味を主内容に、どういう施策がとられるべきか論じたことがある。拙編著「『農』を論ず」(農林統計協会刊)第V章がそれだが、例えば“飼料増産は計画しているものの、林野利用についてはまったく触れていない”ことなどを問題にした。天皇杯受賞者農家の組織である日本農林漁業振興協議会が2月に「地域資源活用で中山間農業のイノベーションを!」という提言を発表しているが、そこでも“中山間地域に豊富に存在する山林原野等の未利用資源を活用して、これまでの加工型から放牧型畜産への畜産政策の緩やかな転換をはかるため「放牧畜産拠点整備事業」を実施する”ことが提言されている。こういう検討は農政審はやらなかったようだ。それで50%をあっさり切ったのは問題である。
 今度、新たに“食料自給力指標”が示された。“農地等を最大限活用することを前提に……生命と健康の維持に必要な食料の生産を複数のパターンに分けた上で、それぞれの熱量効率が最大化された場合の国内農林業生産による1人・1日当たり供給可能熱量”がその指標とされているが、問題はその試算に当たって置かれた幾つかの前提のなかに“必要な労働力は確保されている”があることである。肥料、農薬、農業機械などは“十分な量が確保されている”とするのはいいとして、“農業就業者が高齢化、減少”していることを一方では問題にしているのに“必要な労働力は確保されている”ことを前提にするのは如何なものか。
 もう一つ如何なものとすることに、米、麦の1人当たり消費量減を想定していることがある。“ごはんを中心に多様な副食等を組み合わせ、栄養バランスに優れた「日本型食生活」”が崩れつつあるのを問題にすべき、と思うからである。

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