農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(96)協同組合原則を無視する改正案2015年6月10日
5月13日、政府提出の「農業協同組合等の一部を改正する等の法律案」の対案として、「農業組合法の一部を改正する法律案」が民主党から国会に提出された。(1)「地域のための農協」の位置付け及び農協の自主性の尊重に係る規定の新設、(2)農協の政治的中立性の確保に係る規定の新設、(3)地域重複農協の設立及び都道府県域を越えた農協の設立が可能である旨の確認規定の新設、(4)監査その他の組合に関する制度の在り方の検討についての付則の新設、の4点についての改正案である。このなかの(3)を除く改正点、特に(1)については私は大賛成である。というのは、(1)はICA協同組合原則のなかの第7原則にかかわっているからである。
◆地域と農協
ICA協同組合原則の第7原則―地域社会への係わり―は、1995年改訂で入った原則だが、これが95年に新たに原則として加えられたのには、80年のICAモスクワ大会でのレィドロウ報告が日本の総合農協の地域活動を絶賛したことが契機になっている。こうした経緯からいって、この第7原則は日本の協同組合としてはことさらに大事にすべき原則としていいのではないかと私は思う。
◆政府案の問題
が、その第7原則が、政府案で農協法が改正されるなら、否定される可能性が多分にあることが問題である。
農協の協同組合としての事業のあり方を基本的に規定している条文として、これまで注目されてきたのは第8条であり、そこには?営利を目的としてその事業を行ってはならない"と規定されている。が、今度の政府改正案ではこの文章が削除され、替って農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない事業の適確な遂行により高い収益性を実現し、事業から生じた収益をもって...事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない"という2項目を新設することになっている(改正法案第7条)。
更に役員のことを規定している第30条に12項を新設し、?理事の定数の過半数"は認定農業者か?農畜産物の販売その他の当該農業協同組合の行う事業又は法人の経営に関し実践的な能力を有する者"で?なければならない"としている。
◆利潤追求を要求
これら政府改正案が示していることは、農協を?営利を目的と"する組織―一般の営利企業と同じ組織にしていこうとしていると判断していいのではないか。
そして、全中を一般社団法人化することと引きかえで今回の改正案は引っこめてはいるが、准組合員の組合事業利用制限(正組合員の1/2とすることが立案中では議論されていた)をまだ方針としては持っている―改正案附則第51条2項で施行日から5年を経過する日までの間、...准組合員の利用状況...の調査を行い、検討を加えて、結論を得る"こととしている―ことを考えれば、総合農協を高利潤追求の職能組合にしていくのが政府改正案が意図していることだといっていいであろう。それはこれまでの総合農協を特色づけてきた地域組合としての活動の否定であり、第7原則の否定である。
民主党の改正法案に賛成するのは、その政府案に反対しているからである。
◆教育原則も軽視
ICA協同組合原則との関わりでは、もう1つ、教育問題の取り扱いがある。ICAの協同組合原則では、協同組合原則を初めて国際大会で採択した1937年ICAパリ大会以来一貫して?教育の促進"が入っており、極めて重視されているといってよく、現在の95年原則でも第5原則(教育・研修・広報)になっている。
その教育は、1947年制定の最初の農協法では、農協の事業を規定した第10条1項のなかの10号として?農業技術及び組合事業に関する組合員の知識の向上を図るための教育並びに組合員に対する一般的情報の提供に関する施設"という条文で規定されていた。が、1954年、農協中央会制度を導入した第4次改正(農協法としては7回目の改正)で?組合事業に関する組合員の知識の向上を図るための教育"は10号の文章からは除去されて?農業に関する技術及び経営の向上を図るための教育"となり、組合事業に関する教育は、中央会の事業を規定している第73条の9の1項3号に?組合に関する教育及び情報の提供"というかたちで規定された。
更に2001年の農協法第12次改正で10号は1号に格上げされたが法文は?組合員の......ためにする農業の経営及び技術の向上に関する指導"となって、教育は消された。中央会の事業としてのみ教育規定はかろうじて今日まで生きている。
今回の政府改正案では、都道府県中央会は農業協同組合連合会に、全中は一般社団法人に衣替えさせられることになるが、農業協同組合連合会がやれる事業(付則第13条5項に規定)は?会員である組合の組織、事業及び経営の相談"?監査"?意見を代表すること"?総合調整"であって教育の教もない。完全に第5原則は無視されることになるわけである。国際的に認められている協同組合原則を2つも無視するような法改正を許していいものだろうか。民主党の対案も出たことである。国会での充分な論議を望みたい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日