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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(97)農地の自主管理壊す農業委員公選制廃止2015年7月13日

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【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

 6月30日、農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案が衆議院で可決され、参議院に送付された。附則第57条に“農業協同組合及び農業委員会に関する制度の改革の趣旨及び内容の周知徹底を図る”等のあまり意味の無い修正がつけ加えられただけで、政府案は無修正だった。

◆参院で徹底審議を望む

 法案の問題点を多くの人が指摘していたし、私も前回の本欄で法案中の農協法改正案について特に重要と思われる問題点を2点論じておいた。これらの問題点を野党の先生方ももちろん追求されたが、政府・与党は耳をふさいだままだった。
 参議院ではそうなってほしくない。現実に即した徹底した論議の上で適切な修正が行われることを望むものだが、その参考になればの気持ちも含めて、以下では前回ふれなかった農業委員会法改正案について、1、2問題点をあげておきたい。


◆地域を代表する委員になるのか

 農業委員会法改正案の最大の問題点は、公職選挙法の準用(農委法第11条)の下に行われている農業委員の公選制(農委法第4条)を廃止し、市町村長の任命制にする(農委法改正法案第8条)ということである。
 現行制度では、農業委員の選挙権、被選挙権は、"農業委員会の区域内に住所を有する"20歳以上の者で"都府県にあっては10アール、北海道にあっては30アール以上の農地につき耕作の業務を営む者"、その人と"同居の親族又はその配偶者"であって農林水産省令で定める一定の日数耕作に従事している者、及び"農業生産法人の組合員、社員又は株主"であって、前述の面積・従事日数要件を充たしている者に与えられている(農委法第8条)。
 まさしく、農業委員は農業者が選んだ農業者の代表である。その農業委員で構成される農業委員会が農地法等によって"農地又は採草放牧地...の利用関係等の調整"(農委法第6条)等を行っているのである。農業者による農地利用の自主管理体制といってよい。
 この自主管理体制を壊し、"農業に関する識見を有し農地等の利用の最適化の推進に関する事項...に関しその職務を適切に行うことのできる者のうちから、市町村長が...任命する"(改正法案第8条1項)仕組みにする、というのである。
 任命に当たっては、認定農業者が"委員の過半を占めるようにしなければならない"等の規定があり(改正法案第8条5項)、"農業者、農業者が組織する団体...に対し候補者の推薦を求める"規定(改正法案第9条1項)はあるものの、住所・職業に関する規定は何もない。地区外の非農業者でも、議会が承認すれば任命できる。
 これで地域特性の高い農地の"利用の最適化"など、できるのだろうか。この点に関しては衆議院農林水産委員会の先生方も危惧を感じたのであろう、附帯決議の12に次のような文章を掲げている。
 "公共性の高い農地の集約や権利移動に関する農業委員会の決定は、高い中立性と地域からの厚い信頼を必要とすることに鑑み、農業委員の公選制の廃止に当たっては、地域の代表性が堅持されるよう十分配慮すること"
 "配慮"ですむような問題ではないと私は思う。参議院ではこの点をもっと深刻に受け止めて論議してほしい。


◆農地利用の最適化とは?

 ところで、"農地利用の最適化"という言葉を説明もなく引用したが、この言葉は、今回の改正法案が農業委員会の所掌事務を規定している改正法案第6条2項に初めて出てきた言葉であり、条文は次のように規定されている。
 "農業委員会は...その区域内の農地等の利用の最適化の推進(農地として利用すべき土地の農業上の利用の確保並びに農業経営の規模の拡大、耕作の事業に供される農地等の集団化、農業への新たに農業経営を営もうとする者の参入の促進等による農地等の利用の効率化及び高度化の促進をいう。以下同じ。)に関する事項に関する事務を行う。
 農業委員会は"事務を行う"だけでなく、"農地等の利用の最適化、推進に関する施策...を企画立案し、又は実施する関係行政機関又は関係地方公共団体...に対し、農地等利用最適化推進施策の改善についての具体的な意見を提出しなければならない"(改正法案第38条)ことになっている。
 改正法案第6条2項に規定された前述のような内容の"農地利用の最適化"を実現するためには、農業・農村の諸問題全般にかかわる取り組みが必要とされるし、当然ながら、最適化推進施策の改善についての"具体的な意見"ということになったら、農業・農村諸施策全般にわたることになろう。農業委員会は大変な仕事をふりあてられることになるといってよい。
 しかし、奇妙なことに、現行法では第6条3項に規定されている"農業及び農民に関する事項について、意見を公表し、他の行政庁に建議し、又はその諮問に応じて答申することができる"という条項は無くなっている。矛盾というしかない。修正が必要だ。

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