農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(102)TPP影響試算はまやかし 米農家の不信払しょくせよ2016年2月22日
”TPP影響試算農家不信”という見出しの15・12・25付日本農業新聞の記事を引用させていただく。
「宮城県栗原市で米51ha、大豆60haを経営するアグリ東北専務の鈴木勳夫さん(57)は、米については生産量、額ともに影響はゼロとした政府試算に疑問を示す。
『米の生産額に影響がないとは言えない。政府は国産米を政府備蓄米で買い入れると言っているが、業務用米を求める業者は安い米を求めており、安い輸入米が入ってくれば国産米も安値誘導される』とみる。
その上で『少子化の中、米の消費が増えることは難しい。米価は下がる要素しかないのは明らかだ』と指摘する。」
◆輸入増えれば当然、安値に
前回述べたように、アメリカと豪州から入ってくるSBS方式での特別枠(TPP発効当初3年5万6000t、13年目以降7万8400t)に相当する国産米を備蓄米として政府が買い入れ、市場流通量は増えないようにするから市場価格への影響を"遮断"することができるという政府の判断なのだが、安い輸入米の国内流通を認めるのだから、"安値誘導"になり、"遮断"にはならないというのが鈴木さんの判断なのだが、これは多くの農家の皆さんの判断だろう。
もう一つ、同じ問題意識を持っているといっていい図を掲げておこう。これは15年11月6日の自民党農林水産戦略調査会・農林部会合同会議が各団体からTPPについての要望を聴取したときに提出された北海道庁作成の「本道の農林水産業の持続的発展に向けて」と題した資料の中にあった図である。この図とならんで問題点が次のように指摘されていた。
「現行の国家貿易制度や枠外税率は維持されたものの、米国及び豪州に特別枠が設定。『きらら397』と品質的に競合する『米国カルローズ』の輸入が増加すれば、北海道米を含めた国産米の価格低下が懸念。
北海道では、生産数量目標の達成に取り組んできた中、米の輸入が増加することにより作付意欲の減退が懸念。」
そのうえで、今後の"対応のポイント"として"国によるコメ輸入枠拡大の確実な影響回避"を訴えていた。
手許にある平成25年度版ポケット農林水産統計で、平成23年産米の相対取引価格(出荷業者)を見ると、全国110の産地別品種別銘柄価格が表示されているが、その中で北海道きらら397の価格以下の価格の産地別品種別銘柄は、青森つがるロマン、福島ひとめぼれ、静岡キヌヒカリ、愛知あいちのかおり、広島中生新千本など、17銘柄あった。これらの銘柄は、北海道きらら397以上に厳しい状況下に置かれることに、当然なるだろう。
◆27年度補正予算はTPP対策なのか
1月20日、2015年度補正予算が成立した。農水関係予算額は4008億円だが、その78%3125億円はTPP国内対策費ということになっている。が、その中には前述した米にかかわる不安に応える予算は何もない。
政府試算のTPP発効で生ずる農産物減少額は約878億円~約1516億円とされているが、その大部分は畜産物であり、牛肉で約311億円~約625億円、豚肉で約169億円~約332億円、牛乳乳製品で約198億円~約291億円の計約678億円~1248億円になり、農産物減少見込額の77.2~82.3%を占める(米についてはゼロになっている)。
この畜産については従来、予算措置でやっていた肉用牛肥育経営安定特別対策(新マルキン事業)、養豚経営安定対策(豚マルキン事業)を法制化するための畜産物価格安定法の改正が今国会に上程されるし、補正予算でも831億円が「TPP関連政策大綱」に基づく施策の推進の中の「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクト推進」予算として組まれている。
が、「TPP関連政策大綱に基づく施策の推進」としてあげられてはいるが、この事業をなぜ特に「TPP関連政策」としなければならないのか、疑問な事業もある。例えば補正予算の1割以上になる370億円が組まれている「農地の更なる大区画化・汎用化の推進」など、"新規事業"のマークが附されているが、27年度予算では1089億円が組まれていた「農地の大区画化等の推進」事業とどう違うのか、わからない。406億円を計上している「水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化の推進」なども、どうして「TPP関連」としなければならないのか。
わからないが、しかし、これらは農業の体質強化のためには長期的に取り組むべき課題ではあることを考えれば、予算化して今後力を入れて取り組む姿勢を明確に示したことは評価していい。が、同時にそういう取り組みをする以上は、基幹中の基幹である米について、不安をなくすために、影響分析をやり直し対策をしっかり立てることを農政当局に求めたい。
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