農政:TPP阻止へ! 現場から怒りの声
いまこそTPP阻止の声を 農業・地方の疲弊を防げ 【岩手県・JAいわて花巻 高橋専太郎代表理事組合長】2016年11月9日
TPP(環太平洋連携協定)の国会批准を巡る情勢が緊迫している。壊滅的な影響が予想される農業・農村から、「いまこそ声を挙げるべきだ」と、岩手県JAいわて花巻の高橋専太郎代表理事組合長は力説する。
――11月4日、衆議院のTPP特別委員会でTPPが強行採決されました。生産の現場ではどう受け止めていますか。
これまで一貫してTPPに反対してきましたが、JAグループのわれわれとしては力不足を反省するところもあります。TPP反対を含め、これまでわれわれが運動してきたことが成就していたら、農業・農村そして地方がここまで酷いことにはならなかったのではないでしょうか。
われわれは田んぼと農村の人と人のつながりを大切にするということに軸足を置き、協同組合の運動に邁進してきました。TPPが締結するとそれが難しくなり、JAが取り組むべき地域振興ができなくなります。いま、地方では人口が少なくなり、また高齢化で主要産業である農業も働く人がいないのです。農業の条件に適した平場でもそうです。TPPで海外の安い農産物の輸入が増えると、ますます深刻になるでしょう。だれも農業をやらなくなります。国土は荒れ、大変な状態になると思います。
こうした状況を政府や政治家のみなさんは本当に理解しているのか疑問です。米は平成30年以降、政府による生産調整はなくなり、都道府県の地域農業再生協議会がやることになりますが、全国的な需給調整はどこがやるのでしょうか。生産現場を預かり、組合員の営農と生活に責任を持つJA組合長は、大変な不安と不満を持っています。しっかりした農政が、いま、まさに求められています。
国は農地の流動化を促し、賃借を進めるため農地中間管理機構などをつくっていますが、これがいま頭打ちです。JAいわて花巻の管内でみると、農地中間管理事業等による農地集積率は全面積の55%に達しています。しかしこれ以上、なかなか進まないのが実態です。それは水田の条件が悪いためですが、そうして残る37%の農地はどうなるのでしょうか。
今日、米の消費は毎年8万tずつ減っています。これに対しては、消費者が何を求めているかを知り、それに合わせた生産が求められます。畜産、野菜、果実の消費は横ばいで、いまのところ国産と均衡しています。TPPで農産物の輸入が増えると、このバランスが崩れます。それでいいのでしょうか。
さらに国の食料の問題があります。戦争や世界的規模の気候変動、経済不況など世界でなにか起って、食料の輸入ができなくなったとき、島国の日本はどうするのでしょうか。その意味でもTPPを阻止しなければなりません。
農業は一定の保護政策が必要です。その一つとして政府は収入保険を考えているようですが、その対象は青色申告を一定期間続けた人だということですが、その条件をクリアする農家は多くありません。当然ながら、なんらかの形で白色申告者も対象にすべきではないでしょうか。牛、豚にはマルキン(牛・豚の経営安定対策事業)があります。価格が下がったとき、3か年の平均の9割を補償するというものですが、これはぜひとも法制化しないと、生産者は安定して畜産に取り組めません。
JAいわて花巻管内の認定農業者は全体の6.9%で、残りは兼業の家族経営です。こうした農家は、経営所得安定対策の交付金10㌃7500円がなくなると、農業から撤退するのは明らかです。そうなると、農村では田んぼが放棄され、国土は荒れて大変な状況になります。
――TPPと併せ政府による「農協改革」が進み、JAグループも「創造的自己改革」をとなえ、取り組んでいますが。
この大変なときに、JAグループは政府から「改革」を迫られ、全国農協中央会は農協法から削除され、2019年9月末までに一般社団法人に、県中央会は連合会にすることが決まりました。いまは全中、県中、それに法人等を含めた、あらたな組織整備が必要だと思います。このまま何もしないでいると、JA組織も農業もだめになってしまいます。
一方、全農は株式会社化が取りざたされ、肥料・農薬・農機などの価格引き下げが課題になっています。それ自体はいいことであり、進めるべきです。農畜産物の海外輸出もそうです。問題は全農が独禁法適用除外対象から外れ、商系と競走して、農民のための事業がどこまでできるかです。JAグループは昨年の第27回全国JA大会で、創造的自己改革を決議しています。これは自らの組織を変えていくことで、全国のJA、組合員の総意です。われわれは組合員のためだけではなく、全国の消費者に食料を安定的に供給するという責任があります。このことは生産者のみんなが思っていることです。
本当に重要なことは、あくまで農業・農村の現場をよくみて、農家の声を聞くことです。放置され、一度荒れた農地を再生するには大きなエネルギーが必要で、お金もかかります。そうさせない農政が必要ですが、食料を輸入に頼っているようでは、地方創生もなにもあったものではないでしょう。人口の減少、大規模スーパーなどの進出で商店街がなくなるなど、地方の経済は疲弊しています。この実態に目を向けていただきたい。また日本の農村には、代々守ってきた伝統の文化があります。経済成長も必要かも知れませんが、こうした文化にも目を向ける必要があります。
――TPPを含め、JAグループからの発信が弱いのではないかと感じますが。
現場のJA、組合員は大変心配しています。JAと全中・全国連が一体となって新しい体制をつくり、日本の農業と農村を守る運動を広げていかなければなりません。JAの組合長はそれぞれ何万人もの組合員の代表です。積極的に発言していく必要があります。
重要な記事
最新の記事
-
【令和6年度 鳥インフルエンザまとめ】2025年1月22日
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日