農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(112)日本の主権問われるとき2017年2月13日
◆10年前本紙で指摘
先週の農協協会"新年の集い"特別講演で内橋講師が触れられたメキシコのことについて、もう10年近く前の本紙鼎談会(08・10・10号)での氏の発言と故宇沢教授のコメントを紹介しておきたい。掲載号をご覧いただいた本紙読者には、同じ文章をお示しすることの失礼をお許し戴きたい。トランプ・アメリカ新大統領の出現で、強行採決の無理までして通したTPPは漂流することになったのはいいとして、TPP以上の苦難を日本農業にもたらしかねない日米FTA交渉を押しつけられようとしている今、10年近く前の発言とはいえ両氏の発言は、改めてかみしめる必要があると思うからである。
こういう発言である。
「NAFTAの害悪 内橋 ......今、世界各地で食料暴動が巻き起こっていますが、農業と食糧の危機的状況に対して市民レベルで抵抗運動の第1波が起こったのはメキシコだと思います。人口1億300万人くらいの国ですが、2年ほど前から最大規模で7万5000人という大規模なデモが相次いでおり、日本でいえば大正7年のコメ騒動に匹敵するでしょう。
メキシコ人の主食はトウモロコシの粉で作ったトルティーヤとかタコスですが、それが1年足らずの間に6割、7割と値上がりしました。地域によっては5倍、6倍にもなった。目の前に突きつけられた悲惨な生活破壊に死に物狂いで抗議したわけです。
見逃してはならないのは、深刻な危機の背景に北米自由貿易協定(NAFTA)があったということです。......
メキシコはもともとトウモロコシの主産国でしたが、協定締結の結果、米国から安いトウモロコシがどっと輸入され、南部ナアバス州あたりの小規模零細家族経営農家は壊滅し、ついには流民化に追い込まれました。結局、主食であるトウモロコシを自らは作れない国になってしまったわけです。......
米国は協定が発効すればやがてメキシコの小規模零細な農家は立ちゆかなくなり、そうすれば自国への不法移民の流入が激増するだろうと想定した。それを防ぐために協定発効に先立って100万人規模の軍隊をメキシコ国境に配備したという話が伝わっています。......
米国はアンフェアな国/宇沢 ......WTO自体の問題もシリアスだけど、もっと深刻なのは米国の政策のあり方です。...米国は非常にアンフェアなことをやってきたし、また今もそれを続けています。ところが、ほかの国がやることについては信じられないような文句をつけ、厳しく追求します。WTOもそうです。日本の役人たちは、国際的な取り決めなどに際して米国人はジェントルマンとして行動すると見ていますが、実際はそうではない。話は飛躍しますけど、米軍はベトナムで森林の約20%を不毛の土地にしてしまったのです。ダイオキシンで。......そんな打撃を与えておいて何の補償もしないんですよ。またアフガニスタンでもイラクでも米国のやることは無法です。よその国を"ならず者国家"などと呼びますが、米国自身が無法者国家です。そういう国を相手にしているということを日本人はもっと認識する必要があると思います。」
◆駐留米軍経費 全額負担問題
トランプ大統領は、選挙中から"駐留米軍経費を日本が全額負担しなければ、米軍撤退もあり得ると示唆してきた"が、それについてはまだ明確な要求がないため"日本政府部内ではいら立ちが募る"(1・22朝日新聞)状況だという。"いら立"っているだけでなくこの際、日米安全保障条約の改訂をこちらから申し入れることくらいやったらどうかと思う。問題は同条約の中にある経済協力条項に関連しての吉岡裕氏の一文を紹介しておこう。
「この条約には『経済的協力条項』が含まれており......この防衛と経済関係のリンクは、米国側の政治的解釈としては当然視されており、『防衛での貸しは経済で返される』との期待が米国にはある。とくに日本が経済大国とみなされるようになってからは、そのような政治的期待は陰に陽に表面化することになった。......このような安保と経済の相互関係は、とくに米国議会の政治論として、日米間の経済摩擦が深刻になったり、米国の財政的困難が高まったときに表面化し易い。......戦後の日米貿易経済関係のなかで、日本政府は、たえずこうした防衛と経済の均衡的処理という選択肢のなかで対応してきたが、この状態は、今後とも基本的に変化しそうにない。」(「農業経済研究」1987・9刊。同氏論文)
トランプ発言は"均衡的処理"を"基本的に変化"させるべき時がきたことを意味しよう。日米地位協定で駐日米軍の経費負担はしなくてもいいことになっているにもかかわらず、思いやり予算などを組んできたことなどももうやめる時がきたとしていいだろう。日本の主権が問われているといっていい。
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