農政:インタビュー 日本農業と農協のあり方を考える
【志位和夫 日本共産党幹部会委員長】価格保障と所得補償で再生産可能な農業を2017年3月23日
聞き手:小松泰信岡山大学大学院環境生命科学研究科教授
農協法が施行されて70年。いろいろな評価はあるが、日本の農業そして地域やくらしに果たしてきた農協の役割は大きなものがある。しかしいま、そうしたことを無視して安倍政権によって農協に対する「改革」という名の攻撃が行われている。そこで本紙では、これからの日本農業と農協のあり方を各政党のトップの方に聞くことにした。今回は志位和夫日本共産党幹部会委員長に忌憚なく語っていただいた。聞き手は岡山大学の小松泰信教授にお願いした。
◆軍事面と経済面―トランプの危険性
小松 今年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)で、中国の習近平氏が自由貿易を擁護するような発言をし、米国のトランプ大統領はTPP離脱宣言するなど、世の中逆転現象が起きているのではという印象を持っています。こうした動きをどのようにとらえておられますか?
志位 自由貿易か保護主義かという対立軸がたてられていますが、私はそれが軸ではないと考えています。
多国籍企業の利益を第一におく経済秩序をつくるのか。それとも各国の経済主権、食料主権、国民のくらしを相互に尊重する平等・互恵の貿易と投資のルールをつくるのか。これが対立軸だと思います。
世界の全体の流れは、公正で平等で民主的な国際経済秩序をつくろうという方向に進んでいますし、それが世界の大勢だといえます。
小松 トランプ大統領の日本への影響についてはどうお考えですか?
志位 二つあります。
一つは、軍事的覇権主義の危険性です。例えばIS(イスラム国)の壊滅作戦策定を指示するとか、軍事費大幅増加、核戦力増強を宣言する。そして先日の議会演説では、NATO、中東、太平洋の同盟諸国に対して、より多くの負担と役割を求めるといっています。太平洋といえば日本と韓国でしょう。日韓に対してより大きな軍事的役割やより多くの財政的負担をといっているわけで、大変に危険です。
現実の危険性として指摘したいのは、対ISの軍事作戦として大規模な地上戦闘部隊を派遣することになった場合、自衛隊にその支援をしろ、兵站を担当しろといってくる可能性があります。
トランプ政権はオバマ政権以上に軍事的覇権主義が強くなっていますが、日本はこれに付き従うのか、日本国憲法九条の精神に立って、「日米同盟第一」というだらしのない対応から自主的な対応に切り替えるのかが問われています。
二つ目は、日米経済関係です。
オバマ政権は、米国の多国籍企業第一のルールとしてマルチの形でTPPを押し付けてきたんですが、トランプ氏はそれではまどろっこしいと考え、バイ(二国間)でやっていくという。この間の日米首脳会談でも「それで結構です」と二国間で「経済対話」ということになりましたが、これではTPPで日本が譲歩した線がスタートラインになって、関税撤廃でも、非関税障壁の撤廃でも、よりいっそうの譲歩が要求されることになる。米国の要求がむき出しになり、より深刻な譲歩が迫られる。
軍事面でも経済面でも、トランプ氏は「アメリカファースト」といっていますが、安倍首相は「日米同盟ファースト」で対応している。この組み合わせは、際限なく従属を深める道になり、最悪の組み合わせです。これまでどおりの米国従属外交でいいのかが、いよいよ問われるようになっていると思います。
◆農協は農村支えるかけがえない組織
小松 そういう意味でも、野党共闘の意義が問われていると思います。その試金石が「森友学園問題」だと思います。
志位 この問題では、4野党が、疑惑追及、真相解明は国会の責務であるという立場で、関係者の国会招致を含めて足並みを揃えて追及しています。
小松 昨年の参議院選挙で初めて野党共闘で選挙戦を戦いましたが...。
志位 1人区全部で野党統一候補を立て、11選挙区で勝ちました。とくに東北は6県中5県、さらに山梨、長野、新潟で勝ち、東日本ではかなりの県で勝った。その大きな要因の一つがTPPです。どこにいっても「なんでも米国の言いなりになるのは、日本の未来を危うくするし、農業を成り立たなくするから、これを何とか変えてくれ」というTPPへの怨嗟の声があふれていました。
わが党としては、農業を国の基幹産業として位置づけ、食料自給率をまず50%に引き上げ、さらに抜本的に引き上げていくことを農業政策の柱にすえています。その一番のカギとなるのは、農産物の価格保障と所得補償を組合わせて、農家の皆さんが安心して再生産できるようにしていくことです。欧米諸国と比べても、日本はこの部分が一番薄いです。米国は自由競争といいながら、多額の輸出補助金などの下駄をはかせて所得補償して、輸出をしているわけです。日本もここにちゃんと国費を入れて、農家がまともに立ちゆく農業政策が必要です。後継者がなぜ集まらないかといえば、将来、農業で安心して人間らしいくらしができるという保障がないからです。
小松 そのときに農協の存在意義とか役割についてはどうお考えですか?
志位 農業協同組合は、共同販売、共同購入、信用・共済などの金融、医療まで含めて、農村にとってかけがえのないインフラ機能を担っている組織です。金融事業を切り離すなどの「農協解体」攻撃は、とんでもないことです。協同組合の理念を守り、活かしていくべきだと考えています。今日の新しい情勢の下で、ぜひご一緒に進んでいきたいと思っています。
◆野党共闘には不一致点は持ち込まない
小松 小泉純一郎と安倍晋三の二人が、新自由主義的な政策を推し進め日本をだめにしてしまった。そのなかで凛としたものをもっている共産党が評価されていると思いますが、他の野党とどこまで折り合いがつけられますか?
志位 「安倍政権を倒す」という大義のもとに、野党が力を合わせるという大原則が大切です。安保法制反対で共闘を始めましたが、共闘の中味をどこまで豊かにしていくかがこれから問われます。アベノミクスへの対応、沖縄、原発、農業、憲法などの国の基本問題での共通公約・共通政策がどこまでつくれるか。話し合いをすすめていきたい。
小松 野党共闘を否定したい人は、必ず天皇制とか九条とか、立ち位置の違いを指摘し分裂させようとしますね。
志位 政党が違うのだから理念や政策が違って当然です。共闘には違いや不一致の問題を持ち込まない。例えば、日米安全保障条約の廃棄という共産党の立場は、共闘には持ち込みません。安保法制廃止、立憲主義の回復、アベノミクスによる格差と貧困をただす、沖縄、原発、農業、憲法といった大事なところで前向きの一致をつくる努力をすすめたい。いまあげたあらゆる分野で、国民的なたたかいを発展させていくことが、共闘を進めるうえでの大きな力になると思います。
◆協同組合の力に自信をもって
小松 農業関係でいうとこれまではTPPが大きな課題でしたが、これが漂流しました。これからの農業問題についてはどうお考えですか。
志位 2008年に「日本共産党の農業再生プラン」を出していますが、このプランを今日の情勢のもとで発展させたい。今日の段階で日本農業をどうするか、農協をどうするかについての私たちの考えをまとめ、提案していきたいと考えています。
小松 最後に全国の農協へのメッセージをお願いします。
志位 TPP反対では当初、全中が頑張っておられたし、共産党とも一緒にたたかった。その姿をみて、潰しにかかってきたのではと思います。だから、農協には頑張ってほしいですね。先ほどもお話ししましたが、金融部門も含めて総合的な農村のインフラとして農協が存在しているわけです。この金融部門を切り離したら国際的な金融資本の餌食になるだけ。農協は立ち行かない。
協同組合の一番の理念は「助け合い」ですね。ユネスコでも世界遺産に登録されるなど、協同組合に光があたっています。競争至上主義ではなくて、ともに助け合い、支え合うという協同組合がこれまで築いてきた伝統を力に、自信をもって頑張って活動してほしいと思います。
そして地方経済を支えているのは農林水産業、地場産業、中小企業です。ここに光をあてた政策が必要です。光のあて方も、強い者だけにあてるのではなく全体にあてなければいけないと考えています。そのときに農協の果たす役割は非常に大きいとも考えています。
【インタビューを終えて】
農業を基幹産業とし、価格保障と所得補償で再生産を可能にする。農村のインフラ機能を担う農協解体はナンセンス。地域経済に果たす農協の役割は大きい。伝統を力に、自信を持って活動せよ。野党共闘をめざし、歴史的決断を下した志位氏から発せられた言葉は、満身創痍のJAグループを勇気づける。他の野党への批判的発言を引き出そうとする底意地の悪い質問に惑わされず、"まとまる"ことをめざした、誠実かつ慎重な発言から、政治家としての覚悟が伝わってきた。「日本共産党の農業再生プラン」は、多くの農業・JA関係者の腑に落ちる内容である。このプランを機軸とした"共協戦線"の構築が、風雲急を告げる政局の行方を決する。(小松)
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