農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(116)農業白書は政策PRの白書でいいのか?2017年6月2日
◆まず事実を示せ
5月23日、2016年度農業白書が閣議決定された。トップに"日本農業をもっと強く"と題した特集を据え、昨年11月に政府が決めた農業競争力強化プログラムをPRしている。
中心になる農業競争力強化支援法は今月の12日にようやく成立したが、関連8法案中まだ農業災害補償法改正法案など3法案は成立していない状況の中でのPRを、本来"食糧、農業、農村の動向並びに政府が食料、農業、農村に関して講じた施策に関する報告"(基本法第十四条第1項)であるべき農業白書がやること自体、問題だろう。閣議決定の翌日の日本農業新聞も社説で"そもそも、国会で審議中の法案を前提にした政策のPRをするだけでは、説得力のある白書とは言えない"と評していた。同感の人も多いだろう。
"説得力"がないと言えば、4月14日に成立した競争力強化支援法の関連法、主要農作物種子法を廃止する法律への言及など、その最たるものだと私は感じた。3回前の本欄で問題にした「"民間の品種開発意欲を阻害している"というのはどういう事実から出た判断なのか、その事実をまず示すべきなのに示されていない。品種開発の競争で"都道府県と民間の競争条件は対等になっておらず"とも言っているが、何をさして"対等"ではないというのか、それも事実を示すべきだろう」といったことについて、白書では何一つ問題とせず、"地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している"と決めつけているだけである。そして米のハイブリッド品種を開発し"大手外食チェーン等のニーズをつかみ、需要先の紹介とセットで種子を販売している事例"などを賞賛している。自家採種不能となるF1種子を奨励しよう、というのだろうか。そしてその先は、モンサントなどにとって代わられることも歓迎、ということなのだろうか。
◆法人化は善?
特集はもう一つあって15年のセンサスの分析からなる"変動する我が国農業"が扱われている。強調されているのは、農業経営体については販売農家の減少の中での高販売農家の増であり、法人経営体の販売金額シェアの増加である。販売農家数は2005~15の10年間に32%減少したが、その中で北海道では3000万円以上の、都府県では5000万円以上の高販売農家が増加しているし、法人経営体は同じく2005~15年の10年間に経営体数で16.7%の増であり、農産物販売額全体に占める法人経営のシェアは15.4%から27.3%に増えている。
農地面積に占める法人経営体の面積シェアは05年が2.5%、15年が7.2%なのに、販売額シェアでは05年15.4%、15年27.3%だという点からか、法人経営体の"農業生産における存在感が増しています"と白書は評価している。集落営農も数は1万5千台で"近年横ばいで推移しているものの、法人組織の集落営農数は着実に増加し、その割合は31%となっています"と法人化の動きを重視している。
法人化重視のその一環に、16年9月特区法改正での特区での"企業による農地取得について農地法の特例(法人農地取得事業)"も位置づけており、"これにより、企業が長期的・安定的な農業経営を行うことが期待されます"としている。
◆企業参入も促進?
農地法では農業関係者が議決権の2分の一以上(16年4月農地法改正時では4分の3以上だった)をもち売上の過半が農業である法人が農地所有適格法人(16・4以前は農業生産法人)とされ、農地の所有権取得が認められるが、そうではない一般企業には所有権取得は認められなかった。それを特区に限って農地所有適格法人以外の法人にも所有権取得を認める特例を5年間に限って認めることにしたのだが、この特例は、国家戦略特区諮問会議での長期的・安定的農業経営の為には所有権取得が必要という委員の要求に応えてできた特例だった。さきの白書の表現はこの委員が要求したのと同じことを農水省が言っているとしていい。
所有権取得が認められたことで"企業が長期的・安定的な農業経営を行えるようになる"などという言い方は、農地法の存在を無視した言い方だと言わなければならず、こんな表現が農政担当者から出るのは、問題だ、と私は思う。
というのは、農地についてリースが成立し、そして借入れ企業がきちんと営農している限りは農地法第十七条及び第十八条で賃借権の継続は保証されているし、長期的・安定的に利用するために賃借権の長期安定が必要だというなら、09年農地法改正が、賃貸借の存続期間は"二十年ヲ超ユルコトヲ得ス"としている民法六〇四条を農地については、"五十年とする"改正(農地法第十七条)が09年に行われていることを活用すればいいからである。"企業が長期的・安定的な農業経営を行うこと"ができる法的体制はすでにできているのである。白書の"これにより"という表現はこの事実を無視しているのである。総理座長の特区諮問会議の要求には従わなければならない、ということなのだろうか。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日
-
「野菜ソムリエサミット」7月度「青果部門」最高金賞2品など発表 日本野菜ソムリエ協会2024年7月16日
-
「幻の卵屋さん」本駒込に常設店オープン 日本たまごかけごはん研究所2024年7月16日
-
地元の食材を使ったスクールランチが累計20万食に コープさっぽろ2024年7月16日