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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

全野党で戸別所得補償制度を2018年3月16日

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梶井 功 東京農工大学名誉教授

◆農政の国会の焦点

 1月30日から2月7日にかけて、日本農業新聞は"与野党農政責任者に聞く通常国会の焦点"を6回掲載した。自民党農林・食料戦略調査会長、公明党農林水産部会長、立憲民主党農林水産部会長、民進党第三部会長、共産党農林・漁民局長、希望の党農林水産総合調査会長の6氏に"安倍政権が農政改革の総仕上げに入る中、与野党の農政責任者に通常国会の焦点や農政運営について聞いた"(1月30日付同紙)対談記録である。各回とも1000字程度にまとめられた記録だが、簡にして要を得ており、面白く、かつ有益だった。
 様々なことが語られていたが、その中で、私が特に今後の各党の取り組みに注目しておかなければならないと考えさせられたのは、与党の両先生は特にふれることは無かったが、野党の三先生がいずれも所得補償を重視する発言をしていたことである。注目すべき発言を紹介しておこう。

 

◆所得補償で野党足並み

 立憲民主党・佐々木隆博氏"党の農業政策の柱は何か"の問いに対する答え。
 「戸別所得補償制度の法制化だ。米の直接支払交付金などの下支え策は農家の再生産を確保し、地域への定住を後押しする政策だ。今の農政は、中心経営体だけを強くすれば農業が活性化するという考え方。多くの人に農村に定着・定住してもらい、集落や環境、国土を守るという視点がない。
 生産調整の推進から国が手を引くのも、そうした視点がないからだ。......全国農業再生推進機構(米の全国組織)が、国に代わる機能を果たすのであれば、後押しするための交付金を出すべきできないか」。
 民進党・田名部匡代氏"農業政策の柱は"の問いに対する答え。
 「戸別所得補償制度の復活を改めて訴える。所得の支えがあれば将来を見通せる。後継者も増え、地域コミュニケーションを守ることができる。安倍政権は安定的な生産基盤づくりを脇に置いて、成長、競争と叫んでいる。所得補償の廃止で土台を崩し、小規模農家を減らし、国による農業支援を一定規模に限定していく狙いではないかと不信が募る。国が明確に将来像を示せなければ、残るのは現場の先行き不安だ」。
 共産党・紙智子氏"共産党として訴える農業政策は"の問いに対する答え。
 「農産物価格を、生産費を償える水準に維持する『価格保障』を重視する。条件不利地など所得補償と組み合わせ、食料自給率の回復につなげる。国土や環境の保全、地域に根差した文化をつくる役割をしっかり支える。食料自給率の低さで日本は危機的な状況だ。農産物・食料を工業製品と一緒にし、多国籍企業の利益を追求するルールをやめ、食料主権を尊重できる世界にしていかなければならない」。
 希望の党・佐藤公治氏"希望の党はどのような農業政策を打ち出していくか"の問いに対する答え。
 「未来を先取りする農政だ。さまざまな農業施策が講じられているが、農業者の将来不安が依然として残っている。......希望の党が柱に掲げる新たな直接支払制度は将来を見据え、食料安全保障を重視する党の理念を体現する。戸別所得補償制度をベースに下支えし、農家の将来不安を減らす。農業生産工程管理(GAP)や減農薬・無農薬などの取り組みに交付金を出したり、加算したりして、食の安全を求める消費者の声に応えたい」。

 

◆食料主権を尊重へ

 立憲民主党が"戸別所得補償制度の法制化"を"党の基本政策"と決めたのは昨年の12月28日だそうだが(2017年12月29日付、日本農業新聞)、戸別所得補償制度そのものは、この党の前身といっていい"民主党"が2007年頃から農業政策の柱にしてきた政策であり、07年の参院選、09年衆院選で、農村票を民主党に流れさせ、09年政権の座にもつかせることになった政策といっていい。
 が、その法制化は今まで日の目を見ることが無かった。"生産数量の目標に従って重要農産物を生産する販売農業者......に対し、その所得を補償するための交付金を交付するものとする"(民主党提案の農業者戸別所得補償法案第4条)所得補償法案は、07年11月9日の参院本会議で全野党の賛成で参院は通ったが、衆院本会議で自民・公明両党の反対で否決され、廃案になってしまった。
 09年、鳩山内閣スタート直後、農水大臣座長の戸別所得補償制度推進本部が設けられ、11年から10a1万5000円交付を含む戸別所得補償事業が始まった。が、民主党政権下では法制化は政策日程には上がらなかった。そして安倍内閣によって、10a7500円に削減されていた直接支払金も、今年度廃止になる。その年に立憲民主党が戸別所得補償制度法制化を掲げ、どの野党もそれを支持すると受け取れる発言をしている。
 07年の参議院での審議の際、私も参考人として出席を求められ"この法案は日本農業にとって望ましい法案だ。各党とも、けなし合うのではなく、よりよい法律になるよう議論し、成立させてほしい"と述べたことがある。今度の法案の内容はまだ公表されていないが、どの野党も意図しているところは共通しているようだから、全野党一致して戸別所得補償法を成立させ、集落や環境、国土を守り、"食料主権を尊重できる世界"にしていってほしい。

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

梶井 功・東京農工大学名誉教授の【時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す】

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