農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
【梶井 功・時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す】骨太に食料安保復活を2018年6月3日
先月25日付日本農業新聞の論説を引用させていただく。"骨太方針2018 「食料安保」文言復活を"と題した論説だが、こう書かれていた。
「政府が来月まとめる経済財政運営の基本方針『骨太の方針2018』を農業関係者が注視する。昨年の骨太の方針では『食料安全保障』の文言が唐突に削除された経験があるからだ。今年は文言を復活させ、国として食料安保を確保するとの明確な姿勢を示すべきだ。
日本農業は、かつてない貿易自由化の波にさらされている。......トランプ政権が、強硬な市場開放要求を突き付けてくるのは間違いない。
農産物の市場開放が進めば、食料の海外依存度が高まり、食料安保は当然揺らぐ。......将来にわたって食料安保を守り、国民に安定的食料を供給していくために何をすべきか。これまでになく真剣な議論が必要な時期に来ている。
だが、政府内からは強い姿勢が見えない。......食料・農業・農村基本法で定められた食料の安定供給の確保という責務を果す気があるのか、国の本気度を疑わざるを得ない。(下略)。」
◆物足りない白書
2016年度カロリー自給率は、前年度対比1.9ポイント減の37.58%と農水省が発表したのは昨年の8月9日だった。"米の大凶作で37%だった1993年度に次ぐ史上2番目の低さ"(17・8・10付日本農業新聞)である。当然、今年の白書では食料安保上の大問題として精細な分析が示されるだろうと期待していたが、白書の記述は"小麦、てんさい等について天候不順により生産量が減少したこと、魚介類についてサバ類等の漁獲量が減少したこと等から、前年度に比べ1ポイント低下の38%となりました"というだけの実に淡々たるものだった。
食料安保に関連して、もうひとつ、今年の白書が当然取りあげるだろうと私などが考えていたことに、"「食料安全保障の大切さ」を盛り込んだ憲法修正案が24日、スイスの国民投票で8割近い賛成を得て可決された"(17・9・26付日本農業新聞)ということがある。例えば、平成18年版農業白書は"諸外国における食料安全保障政策の概要"と題した表を掲げ、ドイツ、スイス、フィンランドの食料安全保障政策の根拠法令・保障政策の概要を説明していた。そのスイスで、「食料安全保障の大切さ」を盛り込んだ憲法修正が8割もの国民投票賛成を得て成立したのだから、食料安保問題を取り上げることを慣例としている農業白書が取り上げない筈はないと考えていたのである。が、今年の白書は一言もふれていない。
というように、こと食料安全保障に関係する問題についての今年度白書の記述は、前掲日本農業新聞論説の表現を借りれば、甚だ"物足りない書きぶり"と言わざるを得ないが、それも「骨太の方針2017」で、「食料安全保障」の文言が"唐突に削除された"からだろうか。
◆基本法軽視の安倍農政
食料・農業・農村基本法は、その第十五条第一項で"政府は、食料、農業及び農村に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、食料・農業・農村基本計画......を定めなければならない"と規定し、第五項で、"政府は第一項の規定により基本計画を定めようとするときは、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴かなければならない"と規定している。農政の方針樹立は、農政審からの意見聴取から始めるということである。それが基本法できめられているのである。が、安倍内閣になってからこの原則が、無視されている感がある。
その始まりは、13年暮れに安倍内閣が作った「農林水産業・地域の活力創造プラン」からだといっていいだろう。14年1月の農政審から食料・農業・農村基本計画の見直しに着手することになっていたが、その農政審の冒頭、林芳正農水大臣が"新たな基本計画は昨年末に政府が策定した「農林水産業・地域の活力創造プラン」で示した方向に基づき、農業を若い人たちが希望を持てるような産業に育て、美しい農山村を守っていけるような計画にしてほしい"と要請したことに始まる。この要請に対し、審議会委員だった萬歳JA全中会長が"農業政策は農政審の討論が主導すべきもの、審議会として活力創造プランについての考え方を整理する必要がある"と意見を述べたが、審議会の議論は"「地域の活力創造プラン」で示した方向に基づ"いた議論にしかならなかった。それが今日まで続き、甚だ"物足りない書きぶり"の白書になってしまっているのである。
「食料安全保障」の文言の"唐突"の削除の際、充分な議論はされなかったらしく、自民党内にも"「これといった議論はなかった」...との不満が今もくすぶる"という(""内は前掲論説)。くすぶっているだけでなく、文言を復活させ"国として食料安保を確保することの明確な姿勢を示す"ように、自民党の先生方に頑張ってもらいたいと思う。
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