農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
【梶井 功・時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す】総理はご存知か? 山口の荒廃率2018年7月8日
前回、「こと食料安全保障に関係する問題についての今年の白書の記述は…甚だ“物足りない書きぶり”と言わざるを得ない」ことを指摘しておいたが、白書の具体的な現実把握・分析のしかたについて問題と思ったことにふれることは無かった。が、この表はもっと分析し、所見を記してほしかった表が幾つかあるので、今回はそれを論じておくことにしたい。
◆もっと分析を
その一つは、一昨年から白書に登場している"主要品目における生産量の実績、生産努力目標、目標比率"(図表1―1―2)の扱い方である。
生産努力目標というのは、2015年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画で示された2025年の目標数字である。基本計画で示された数字であるから"国内の農業生産及び食料消費に関する指針"(基本法第十五条第3項)にしなければならない数字であることは、農政の衡に当っている人にとっては常識であろう。目標比率というのは生産努力目標に対する生産実績の比率であり、この数字が示されたのは今度の白書が初めてだった。そういう数字を示したからには当然この数字に関係しての特段の分析・評価があるだろうと思ったのだが、関係数字が文章になっていたのは、"かんしょ、果実、さとうきび、生乳では90%以上達成しており"の一句だけだった。米粉用米、飼料用米―これらは目標比率から30%以下の品目―については、数字はあげずに"多収米品種導入等による収量の向上、飼料生産組織育成・活用、排水対策による収量・品質の高位安定化等の品目ごとの課題解決に向けて取組の一層の強化が求められます"といっているにすぎない。
こんなことでいいのだろうか。例えば飼料米は表示されている2013~16年について見る限り11万トンから51万トンへ順調に生産をふやしているようにみえる。が、数字をよく見ると15~16年で増加率は低下していることが判るし、今年4月発表の17年度の数字は16年より2万7千トン低い数字だった。48万3千トンというその数字は第2章第3節で示されているが、その記述は表1-1-2とは全く無関係になっている。こんなことでは良くないだろう。
飼料米増産政策予算を"恒久的"に確保することは政権与党の公約であり、与党農林幹部は度々それを口にしているが、財政当局方面からクレームがつきっ放しなことは前々回の本欄でもふれたところだ。飼料米減産傾向が顕著になったことは、生産者が"恒久的"確保の口約束を信用しなくなったことを意味しよう。"品目ごとの課題解決"としてあげた前述の諸要因よりはるかに重要な問題がそこにはあるといわなければならない。"恒久的に確保"する施策の具体的検討の必要性を考えさせられる記述が白書にあっていい、と思うのは私だけだろうか。
◆地域の動向が大切
もう一つ、問題にしておきたいのは、今年の白書が扱っている国内統計は全国一本の数字が多く、地域分析をあまりやっていないことである。地域の自然条件に大きく影響を受ける農業・農村問題を扱う白書がこれでいいのか、と思う。例えば、荒廃農地面積の推移を示している図表2-1-4は、全国一本の荒廃農地の面積を08年から16年まで年次別に示しているだけだが、その解説の見出しは"荒廃農地面積は横ばいで推移"と荒廃の進展を楽観視している印象を与えかねない表現になっている。荒廃農地問題をこの程度ですませているのは問題だろう。
例えば耕地面積に対する荒廃農地面積の比率が都府県別にどういうちがいをもっているかを示すと表のようになる。 この表は、手許にある統計書の都府県耕地面積(15年7月現在)と、荒廃農地面積(16年)の数字で計算してみたものだが、幾つか問題にしたいことがすぐ浮ぶだろう。(枠の中の県のならべ方を、例えば15~19.9%のところで示すと岡山18.2%、島根18.1%、鹿児島16.4%、長野16.6%である)。枠で囲っている府県は荒廃面積1万ha以上の県であり、9県計の荒廃面積計は全荒廃農地の45.1%になることを注記しておこう。
長崎、愛媛、香川、山口、岡山、島根、大分、鹿児島と西日本各県で荒廃地率が高くなっていることが第一の注意点だろう。いずれも棚田が多いところである。山口県がこんなに高い荒廃地率になっていることを、安倍総理は御存知だったのだろうか。美しい棚田は守りますということなら、何らか策を講じてほしいものだ。
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