農政:農は国の宝なり
【農は国の宝なり】第1回 「まちづくり条例」に農魂を見た(下)2019年5月7日
鳥取県北栄町松本昭夫町長に聞く
聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長
◆シンボルとしての行政JA共同出資型法人「北栄ドリーム農場」
小松 JA鳥取中央との良好な関係を象徴するのが、「株式会社北栄ドリーム農場」の設立だと思うのですが。
松本 発端は、鳥取県出身の大手洋菓子メーカーの会長が本町のスイカ用ビニールハウス群を見て、調達に困っているケーキ用のイチゴが作れないか、と私に打診されたことです。JAの組合長に掛け合うと、12月から5月にかけて収穫するイチゴは、端境期を埋めるのにピッタリな作物、ということで話は進みました。
小松 スピーディーな展開ですね。
松本 大量のイチゴを安定的に供給するためには、ハウスの設置などの初期投資が必要です。そこで、町とJAがそれぞれ1500万円ずつ出資し、行政JA共同出資型法人としてこの農場を創設しました。社長に町長の私、取締役に副町長、JAの組合長と専務が就任。現場を仕切るファーム長には、管内の農業を熟知したJAの北栄営農センター長経験者を迎えました。
2016(平成28)年9月に耕作放棄地であった30aに7棟のハウスを建設。関係者者や関係組織の手厚い支援のかいあって、初年度に約8.9tの収穫、約1000万円の売り上げとなりました。
小松 県も注目したんじゃないですか。
松本 ありがたいことに、県の戦略的スーパー園芸団地整備事業、園芸産地活力増進事業などの対象に指定されました。2017年にはJAグループの担い手経営体応援ファンドを活用し増資を実現。ハウス増棟などで圃場面積も74aになりました。3期目となる2018年度の生産量は154t。その1割が大手洋菓子メーカー、9割がJAを通じた市場出荷となっています。
小松 農場のパンフレットを見て驚いたのですが、地域おこし協力隊の方々が働いておられるんですね。
松本 農場に課せられた役割はイチゴの復活と、それを契機とした新たな担い手の創出です。町がすでに実施していた地域おこし協力隊の制度を活用し、農場での働き手を募集しました。当初は4人でしたが、現在は5人となっています。将来的には、成長した隊員が社員として会社の中心的な役割を担ったり、独立就農して地域農業を支えたりして、定住してくれることを願っています。
◆ストーリーマーケティング
小松 2014(平成26)年10月に出された北栄町農業振興基本計画に、「町民一体となり農畜産物の知名度向上に取り組む」として、「ストーリーマーケティング(産地物語)による情報提供を図る」と書かれており、興味を持ちました。
松本 私は常々、「何事もストーリが大切だよ。行き当たりばったりじゃ成功しないし、仲間はもとより町民の方々を説得できないよ」と、職員に言っています。補助事業を引っ張ってきても、事業の本質的な到達点や先に控える山あり谷ありのストーリーが不明確で、共有できない事業は失敗します。
◆スケールメリットを生かせJAグループ
小松 JAやJAグループへの要望や苦言をいただければ。
松本 まずは、こんな取り組みはどうだ、これをやったらもっと地域も農業も活性化するぞ、と意欲的な提案をしていただきたい。
つぎに、営農に限らず相談活動を充実し、組合員の不安を払しょくし信頼を得てほしい。
そして、准組合員問題です。農業生産者を大切にすることを否定はしませんが、同じ地域で生活する准組合員を単なる顧客とせず、一緒に協同活動を行う同士として、きちんと位置づけてほしいですね。
連合会に対しては、全国組織としてのスケールメリットが感じられません。農業者にメリットを実感させていただきたい。
◆やはり「農は国の基」です
小松 最後に、国の農業政策についてご意見をお聞かせください。
松本 昔から言われていることですが、「農は国の基」なんですよ。第一次産業を大切にしない国は、滅びます。農業にはもっと国の保護が必要です。それから、「種子を制する者は世界を制する」と言われています。にもかかわらず、主要農作物種子法を廃止して、主要農作物の種子を他国が制する可能性を広げたことについては憤りを禁じえません。
いかなる状況下でも消費者に認められる農畜産物づくりに精励し、選ばれ続ける自信はあります。しかし農政には、落ち着いて農業に集中できる環境づくりを求めたい。農政からノイズが出されている気がして残念です。
◆躍動するまちづくり
小松 最後に、町全体のアピールをお願いします。
松本 本町がめざす将来像は、「人と自然が共生し確かな豊かさを実感するまち」です。2005(平成17)年11月から風力発電を始め、2008年からは「菜の花プロジェクト」を始動させて、景観づくりとバイオ燃料の精製など循環型社会づくりに取り組んでいます。2018(平成30)年には、鳥取県初となるバイオマス産業都市構想の認定を受けるました。
2016(平成28)年からは「今こそ絵本を!」という事業に取り組みむなど、子育てや情操教育にも力を入れています。
「コナンに会いに来るために一年間働いている」、そう語ってくれたスイス人女性がいます。そんな北栄町に、ぜひおいでください。コナン君も町のあちこちで待っています。
小松 農業をはじめ、躍動するまちづくりに感動しました。本日はありがとうございました。
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