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農政:農は国の宝なり

【農は国の宝なり】第4回 農力を育み、農力で育まれる地域づくり 福岡県糸島市月形祐二市長に聞く2019年8月30日

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聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長

 今回は福岡県糸島市の月形祐二市長へのインタビューを紹介します。
 古来より、大陸文化の玄関口として栄えた当市は、2010(平成22)年元日に前原市、二丈町、志摩町の合併により誕生しました。福岡市を中心とする福岡都市圏の西部に位置し、交通基盤の整備により、福岡市まで約30分と、交通アクセスが優れています。また、南部には山々、北部には海岸線、それに挟まれた糸島平野には広大な農地と集落からなる美しい田園風景が広がっています。この豊かな自然の恵みである食材に恵まれ、都市近郊の緑豊かな生活環境が形成されています。総面積215.70平方km、人口10万1667人(2019年7月末現在)。

◆「農力」キーワードにする基本計画

福岡県糸島市長 小松 「糸島市農力を育む基本計画」を見て、「農力」という言葉に興味を覚えました。

 月形 「農力」とは、人間生活の発展に資する食料・農業・農村の持つ力です。農業は当市の基幹産業ですから、その持続的発展が「市の元気の源」。市民参画のもと農業・農村を支えていかないと、糸島市ではなくなります。

 小松 「農力」の中心的な担い手が農家の方々ですが、もちろん元気ですよね。

 月形 農家の方々は、研究熱心で、技術の錬磨に余念がありません。当然企業秘密もあるわけですが、出せるものは出して、地域全体でのレベルアップに取り組んでおられます。

(写真)福岡県糸島市月形祐二市長


◆ブランド糸島の確立

 小松 農家の方々の努力が報われるように、行政が心がけておられることは。

 月形 「出口」のサポートです。糸島の魅力に磨きを掛けて、「ブランド糸島」の確立を目指しています。特に、糸島産の食材は高い評価をいただいています。JA糸島の産直市場「伊都菜彩」など市内の直売所には、連日多くの方が訪れています。
 今では、関東や関西などの著名な百貨店で販売イベントを開催していただけるようになりました。私も、トップセールスとして市場や販促イベントに積極的に出かけています。

 小松 市独自の農業振興策を紹介してください。

 月形 県の補助制度を補完するために、生産資材の購入等に補助金を出しています。これは好評です。また、今年(2019年)2月に新規就農者連絡協議会を立ち上げ、技術の向上とともに、農業を継続し地域に定着できるような環境整備に取り組んでいます。

 小松 「ブランド糸島」の確立は、地域づくりにも貢献していますか。

 月形 農業収入が増えることで、農家の方々のモチベーションは高まります。他方で、全国の人が糸島を知り、話題にします。福岡市に来た時、当市まで足を伸ばす方々が増えます。いわゆる関係人口の増加です。すると、市民は全国的に認知されたことで、ふるさとを誇りに思い、これまで以上に大切にしようと思うわけです。

 小松 「関係人口」づくりの成果は出ていますか。

 月形 社会増加率がプラスとなり、人口も微増傾向にあります。繁華街天神に約30分。豊かな自然に囲まれ、美味しい食材には事欠かない。ここで味わえる「時間」の豊かさが、多くの人を引きつけています。

可也山と糸島の田園風景可也山と糸島の田園風景


◆学術研究都市づくり-大学は歳を取らない-

 小松 移転が完了した九州大学の貴市への移転も、人口増に貢献しますね。

 月形 学生、教職員など約1万9000人の方が来られます。私たちは良きカウンターパートとして、農業をはじめ、地域が抱える課題の解決策を求めて、九州大学の「知」の実用化をめざした「糸島サイエンス・ヴィレッジ」構想を提案しています。

 小松 一定数の学生が存在することも魅力では。

 月形 私は職員にいつも言うんです、「大学は歳取らんよ」って(笑い)。二十歳前後の若者が、確実に存在し続けるわけです。さらに、留学生の拠点として「国際村」構想も持っています。そこと市内の教育機関が連携すれば、糸島の子どもたちは、居ながらにして世界の広がりを味わえます。
 「サイエンス・ヴィレッジ」と「国際村」、それに大学本体が連携すれば、「田園の中にある国際学術研究都市」が実現します。まさにオンリーワンの地域づくりです。

 小松 大学ばかりに目が行きますが、こちらには農業高校もありますね。

 月形 糸島農業高等学校の存在抜きに、当市の農業を語ることはできません。さらなるバージョンアップを願って、糸島農業振興プロジェクトの一環として、「生徒とともに学ぶ糸農講座」を行っています。生徒自身が、同校で学んでいることを市民に教えるわけです。8月から12月までの間に8講座です。

 小松 教えることが最大の学び。生徒にも、市民にも有意義な取り組みですね。

 月形 この機会に地域の農業と、それを支えている農業高校に対する認識を新たにしていただきたいです。


◆JA糸島は地域の誇り

 小松 規制改革推進会議などで農業やJAの改革が叫ばれていますが。

 月形 産業にも組織にもそれぞれ課題はありますが、規制改革推進会議などの指摘は、経済効率の追求に傾きがち。「農」がもたらす有形、無形の価値にも、もっと目を向けてほしい。経済効率だけを求めていては、日本の農業や農村、地域が持っている良さが失われてしまいます。 

 小松 直売所の「伊都菜彩」は全国的に有名ですが、JAに対する評価は。

 月形 JA糸島は我が市の誇りです。異常な低金利下でJA経営が難しくなりつつあることは承知していますが、これからも農業振興を前面に出したJA運営を期待します。ただ、これまで地域の農業をリードしてきた方々の中に、JAと距離をとろうとする動きが出てきていることが心配です。これからの協同組合の有り様を一緒に話し合い、地域農業をもり立て、ブランド糸島をもっと輝くものにしていきましょう。

 小松 今度来るのが楽しみになるお話をしていただき、ありがとうございました。


本シリーズの一覧は下記からご覧いただけます
【シリーズ・農は国の宝なり】聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長

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