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農政:田代洋一・協同の現場を歩く

【田代洋一・協同の現場を歩く】集落営農法人の持続性確保―山口・島根県2019年10月2日

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田代洋一 横浜国立大学名誉教授

 集落営農の本格化が早くて30年1世代を経るなかで、その次世代継承が深刻に問われている。前2回でみた東北中山間地域では、意外に広域・大規模な展開がみられたが、西日本とくに中国中山間等は小規模な集落ごとの組織が困難を強めている。

 規模が小さいなら合併したら、ということ訳にはなかなかならない。そもそも集落営農は「むら」(集落)の田んぼと生活を守るための取り組みであり、簡単に「むら」を超えられないからである。
 それでも平場の連坦した地域なら、今後は合併もありうると思うが、とくに中国中山間等の集落は山と谷に隔てられ、地域資源管理も集落ごとになり、農機の峠越えがきつい。課題への3つの取り組みを見てみたい。
 

◆青年農業者の雇用確保

 山口県では、最近は20ha程度の比較的小規模の法人でも、若い者を雇用する動きがみられる。同県ではほとんどの集落営農が法人化したという点で雇用態勢があり、県農業大学校も法人就業コースを設けるなどして支援している。
 しかし若手雇用には定着性など問題も多い。
 (1)まず高齢者が多い役員等の間に孫世代がポツンと1人加わっても、会話をなりたたせるのが難しい。法人の枠を超えた同世代の交流・研修等の場が求められる。
 (2)雇用の安定性が大きな課題だ。雇用経営としての収益性、就労条件、冬期就業の場、指揮命令系統をきたんと確保できるか。
 (3)もっとも気がかりなのはキャリア形成だ。志向や資質もあろうが、たんに労働力として働いてもらうのか、将来は経営を託すつもりか。
 (4)経営を託す場合には、「むらを守る」集落営農の論理と、そこで飯を食う「経営」論理はかならずしも一致しないだろう。端的には採算の取れない悪条件の田まで引き受けるか否かだ。「むら」を守るには必要だが、経営的にはマイナスだ。
 

◆連合の追求

 次に組織間連合の取り組みがある。標高差等を活用しつつ、集落営農間で機械やオペレーターを融通し合うとか、転作用機械を共同利用するとか、ついては機械にオペレーターを付けるといった「連合」の動きが以前から見られる。
 生産組織の時代の農家間での機械の共同利用等の動きの集落営農版、「組織的ゆい手間替え」ともいえよう。任意の取り組みなので融通無碍のメリットがあるが、多少の標高差では作期の幅も限定されよう。何より問題は、役員までは融通できないことだ。
 

◆連合体の形成―山口県

 そこで既存の法人が集まって新たな連合体法人を設立する動きが出ている。県農政も、集落営農とその法人化が一段落するなかで、集落営農の支援から新連合組織設立への支援にシフトするようになった。そうなると、個別では割高な新たな機械を共同で導入する、そのための補助事業の採択を受けるには、新たな法人組織の設立が求められる。
 山口県での2017年暮の事例調査まとめたのが表1である。かなりの数の法人が参加し、その合計規模も大きい。

山口県の集落営農法人連合体の概要ー2018年ー

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 日本海側では、「萩アグリ」は大豆用コンバイン等を導入し、大豆転作に取り組む。遊休地8haを購入し、県農大卒を雇用し、施設園芸に取り組む。
 「萩酒米みがき」は、地元酒造会社と連携して、県外に委託していた酒米とう精を地元で行うこととし、作付面積も拡大している。
 「長門西」はUターン農業者1名を確保し、ドローンを導入して防除受託等をしている。「三隅農場」は、企業撤退後の水耕栽培施設を引き継ぎ、地元の施設園芸法人に貸与するなどして施設園芸研修事業に取り組む。
 瀬戸内側の「アグリ南すおう」は最も体制の整った事例である。オペ付き機械の共同利用など新連合体が参加法人を作業支援することには限りがあるとし、新連合体が新規事業に取り組み、参加法人の収益を増やすことで、その法人後継者の確保に寄与することを主に狙っている。
 

◆連合体の形成―島根県

 隣の島根県でも、「わくわくつわの協同組合」(09年、12法人、154ha)は、無人ヘリ導入による防除受託、WCSの収穫作業受託、旧農協支所を利用したガソリンスタンド等にとりくむ。連合体は「邪魔はしないが役にたつ」をキャッチフレーズにしている。
 「未来サポート佐田」(株式会社、18年、参加組織8つ、89ha)は、耕作放棄地対策を強く意識して立ち上げたもので、WCS等の「転作」、耕作支援隊の取り組み、味噌加工等、直売店経営等に取り組む。
 「LLP横田特定法人ネットワーク」(奥出雲町、7法人、108ha)は、コメの直接販売に取り組み、「元気!!ファーム吉田」(雲南市、6組織、120ha)は水稲資材の共同購入、ピートグラスの吹付試験等に取り組み、法人化と機械の共同購入、雇用をめざしている。

◆持続性確保の模索は続く

 これらの新法人立上げには、JAも出資し、そのOBの活躍も多くみられる。新連合体法人は参加法人の労力支援も視野に入れ、部分的には取り組んでいる。しかし新連合体が高齢化した参加法人への人材供給の決め手になるかと言えば、それは難しい。
 新連合体は、それぞれ新規事業に取り組むのが主流のようだ。そのために既に若手を雇用したり雇用予定だが、彼らの周年就業を確保するためにも新規事業が不可欠で、雇用者もそれにかなり専従的にならざるをえない。若い労働力を新連合体で確保し、各参加法人を労力的に支援するというのは、構成員間、構成員と新連合体間の競合をもたらしやすい。
 それよりも当面の動きは、各法人では取り組めない新規(補助)事業への取り組みであり、いろんな事業に取り組めるよう、法人形態も株式会社が多く取られる。山口県は「守りの集落営農、攻めの新連合体」という位置づけだ。
 やはり集落基盤の集落営農はそこで自立するしかない。それを支援するため、地域の法人や連合体参加法人が若い求職者をプールで採用・研修・交流・キャリア形成できるような仕組みをつくれないものか。「グループ共通採用」「人材派遣」でのイメージで、「この参加法人で数年、あの法人で数年、連合体で数年」といったキャリア形成を図る。役員の確保・支援に向けての法人経営コンサルも必要だ。
 それらによって、逆に「むら」も集落営農法人も鍛えられることにもなろう。

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
田代洋一・協同の現場を歩く

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