農政:農は国の宝なり
【農は国の宝なり】第6回「たたら製鉄」を活かす奥深き奥出雲町の挑戦 島根県奥出雲町勝田康則町長に聞く2019年11月11日
今回は島根県奥出雲町の勝田康則町長へのインタビューです。
奥出雲町は島根県東南部に位置し、東は鳥取県、南は広島県に隣接します。その歴史や文化は、出雲国風土記までさかのぼる出雲神話発祥の地です。標高300m~500mに位置し、仁多米、奥出雲ソバ、舞茸などきのこ類、奥出雲牛、エゴマなどが特産品にあげられています。2019(平成31)年4月1日現在、人口1万2574人、世帯数4753世帯。また、今でも世界で唯一古来からの製鉄法「たたら製鉄」を行っており、今年(2019年)2月15日に「たたら製鉄に由来する奥出雲の資源循環型農業」として「日本農業遺産」に認定されました。
春の棚田風景(福頼棚田展望台)
◆日本農業遺産認定への道
小松 日本農業遺産の認定、おめでとうございます。
勝田 ありがとうございます。この地域の主たる母岩は深層風化の進んだ花崗岩(真砂土)で、「たたら製鉄」の原料となる砂鉄を1%ほど含んでいます。その砂鉄を採取するために、500年以上にわたって、鉄穴流し(かんなながし)という採掘技術で山々を切り崩すわけです。風化花崗岩は養分が少なく、稲作には極めて生産性の乏しい土壌です。
小松 砂鉄を取って終わりだと、まさに負の遺産ですね。
(写真)勝田町長
勝田 そうです。しかし先人たちは、採掘のために導いた水路やため池を活用し棚田に再生しました。まずソバなどを植え、製鉄関連作業のために飼養されていた役牛の糞と山野草などで堆肥を作り、肥沃な土壌を作り上げます。その豊穣な水田と昼夜の気温差という気候条件があいまって良質な米の産地となり、当町が誇る「仁多米」の誕生となります。
その役牛改良の飼養管理技術などが受け継がれ、県を代表する「奥出雲牛」の産地になります。また、製鉄や生活用燃料として森林を30年周期で循環活用してきましたが、石油燃料に転換した後には、森林資源を椎茸の原木や、菌床椎茸や舞茸の栽培、あるいは家畜の敷料に活用しています。
小松 堆肥の原料が揃うわけですね。
勝田 そうです。使用済み森林資源と牛糞を、町の堆肥センターで有機質堆肥に作り上げ、水田に散布しています。これが、循環型農業による米づくりです。
奥出雲和牛
◆西の横綱「仁多米」
小松 品種はコシヒカリですよね。
勝田 循環型農業の成果としておいしいコシヒカリが生産されますが、そのままJAに出荷すれば「島根米」として一括りにされます。超良質米としての誇り(プライド)と生産者手取り(プライス)を守るために、1998(平成10)年に町が全額出資して奥出雲仁多米株式会社(資本金2億円)を設立し独自販売に打って出ました。収穫した稲(生籾)をそのまま搬入して適度に乾燥させ、籾のまま貯蔵する施設が仁多郡カントリーエレベーターです。ここでは、すべての貯蔵サイロに冷却装置を装備し、翌年の夏場でも新米と変わらない品質に保つことが可能です。
棚田の収穫作業(阿井地区)
小松 年中新米が提供できるわけですか。
勝田 そこなんです。籾すり、精米までこの施設で行い、お客様の食卓にお届けする、産地一貫産直体制が「仁多米」の大きな特長です。売り上げの一部は出荷農家に対して「ブランド加算金」としてJAの買い取り価格に上乗せされて支払われます。
ブランドの裏付けとなっているのが、米・食味鑑定士協会主催の「米・食味分析鑑定コンクール・国際大会」で、計8回の「金賞」受賞したこと。さらに、2016(平成28)年には、5年連続での金賞受賞者だけが認定される「ゴールドプレミアムライスAAA」を受けたことです。だから「西の横綱」なんです。
JAグループとの関係
小松 独自販売となるとJAやJAグループとの関係が気になりますが。
勝田 「仁多米」の良さを多くの方々に味わっていただき、評価され、産地として持続するためには、その商品特性に最適の販売方法を選択しなければならないわけです。最終的には理解いただきましたし、営農指導や集荷などに関してはJAしまねにお願いしています。
小松 JAしまねは、1県1JAですが。
勝田 雲南地域の1市2町(雲南市、奥出雲町、飯南町)では、以前からJAと連携し「雲南農業振興協議会」を設けて、農業振興に取り組んでいます。JAが超広域化することで、関係が希薄化することは否めませんが、何もしなければますます疎遠になるばかりです。行政側も農業振興への姿勢と体制を確立させる必要がありますね。大切な自分たちの町ですから。
◆新たな地域づくりへの挑戦
花田植え
小松 地域づくりにも「たたら」を活かしておられますね。
勝田 当町も、人口が減少していますが、大切な地域資源である「たたら」を活用し、「たたら景観の維持・活用」(まちづくり)、「ふるさと教育の推進」(ひとづくり)、「歴史・文化、自然を生かした観光振興」(しごとづくり)に一体的に取り組んできました。日本農業遺産認定を契機に、たたら由来の「固有の文化や棚田の風景」と「食文化」を堪能していただく「農泊」を推進しています。
小松 電力事業にも関わっておられるようですが。
勝田 管内には1960年前後(昭和30年代)から小水力発電所がありました。2016年6月に町とパシフィックパワー株式会社との共同出資で地域新電力会社「奥出雲電力株式会社」を設立しました。地域内の公共施設、民間施設への電力供給を行い、供給先の電気代の削減、そして得られた利益をまちづくり事業に還元することで地域活性化に貢献しています。
小松 意欲的ですね。
勝田 美肌の湯として評判の温泉もありますので、ぜひ足を伸ばしてください。
小松 奥出雲というだけあってか、温故知新の奥深い取り組みの数々。ご発展を願っております。
本シリーズの一覧は下記からご覧いただけます
【シリーズ・農は国の宝なり】聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日