農政:農は国の宝なり
【農は国の宝なり】第8回 オーガニックと鶴imoで地域創生をめざす 兵庫県市川町岩見武三町長に聞く2020年1月27日
今回は兵庫県神崎郡市川町の岩見武三町長へのインタビューを紹介します。
平坦地には水田が広がる市川町の農村風景
兵庫県神崎郡の中央に位置し、町名の由来にもなっている清流「市川」が流れているなど、水と緑があふれる自然豊かな環境の中に本町はあります。
2019(令和1)年11月現在、人口1万1967人、世帯数4965戸です。
1930(昭和5)年に国内で初めて生産されたゴルフクラブのアイアンヘッドの発祥の地として、軟鉄鍛造ゴルフアイアンヘッドの製造が盛んに行われています。
主な農産物は、米麦、豆類、そして有機(オーガニック)野菜。農業従事者の高齢化と後継者不足により耕作放棄地が増加しており、従事者の確保対策も重要な課題となっています。管内には、JA兵庫西市川支店があります。
◆オーガニックタウンをめざす
写真:岩見武三町長
小松 「市川町総合計画」には、「オーガニックタウン」をめざした有機農業の拡大を支援していくことがうたわれていますが。
岩見 本町の上牛尾地区には、35年程前から有機農業に取り組む牛尾武博氏がおられます。氏を慕ってやってきた人々が今、就農者としてこの地に定住し活躍されています。町も、この地区を「笠形オーガニックヴィレッジ」と命名し、有機農業での地域づくりをめざしています。
小松 魅力的な取り組みですね。
岩見 牛尾氏と彼に師事する若手農業者、そして、彼らとともに有機農業で地域活性化をめざす「笠形地域づくり協議会」の会員で、「笠形オーガニックファーマーズ」を構成しています。事務局には、地域おこし協力隊員を配置しています。地域の方から70アールほどを実践農場として借り上げ、研修生を随時受け入れています。この10年ほどの間に、定住し独立された方も多数おられます。
自家製の納豆や味噌が評判を呼び、本町のふるさと納税返礼の対象商品に選ばれた方、夫妻が楽器奏者で「半農半音」の暮らしを実践されている方、後継者として130アールの田畑で年間約70品目100種以上の農産物を通年出荷されている方、さらには日本の農山村の良さを伝え残すことを決意し、体験型農場を運営し収穫体験イベントなどを開かれている方など、まさに多士済済です。
◆農業体験講座の開催や食農教育
小松 裾野を広げるような活動もされているようですね。
岩見 地域創生に向けた取り組みの一環として、オーガニック栽培による夏野菜、冬野菜の作り方を教える農業体験講座を開催しています。夏野菜については3月から7月まで計10回、冬野菜については9月から翌年の1月にかけて計8回。講座が開かれていないのは、2月と8月だけですね。
それから、園児や小学生を対象とした収穫体験事業にも取り組んでいます。2019年度は、7月に5歳児約40人が笠形コーンを収穫しました。「楽しい、美味しかった」「100回食べたい」との感想があり、担当者たちも大喜びでした。
11月には小学校3年生25人が、笠形しょうがを収穫しました。ショウガに対する熱心な質問が飛び交い、生産者もたじろぐ場面もあったそうです。嬉しい限りです。
◆サツマイモを復活させて地域活性化
小松 サツマイモで地域活性化をめざす地区もあるそうですね。
岩見 鶴居地区です。そこの山裾に広がる火山灰系の土壌はサツマイモの適地で、おいしさは昔から評判でした。でも後継者不足から、今となっては幻となりました。それを復活させようと4年前に栽培を始めました。鶴居地域活性化協議会が運営するつるい元気農園で収穫したものを、鶴居のイモですから「鶴imo」と命名し、「鶴imoプロジェクト」を展開しています。2019年には7500株を植え、10月に収穫を終え、新物を使ったメニューを町内などの飲食店8軒がそれぞれ考案し提供する「鶴imoグルメフェア」を11月から12月下旬まで実施しました。
まだ緒についたばかりですが、このプロジェクトを成功させて鶴imoを地域ブランド品に育てあげるつもりです。
◆農業協同組合への期待
小松 これらの取り組みに、JAはどのように関わっていますか。
岩見 慣行栽培を中核に据える営農指導事業では、有機農業については関わりにくいようです。でも、鶴imoプロジェクトの活動拠点である「鶴居地域活性化センター」は、JA兵庫西の空き店舗の再利用です。鶴居地区選出のJA理事が鶴居地区活性化協議会のメンバーで、その方の尽力で地域活性化のためならとJAの理解を得て、利用させていただいています。カフェを開いたり、地区に伝わる「鶴の恩返し」の続きのストーリーや地区とゆかりの品々を展示するなど、有効活用しています。JAは総合事業体ですから、いろいろな局面で連携できて頼もしい存在です。
◆持続的農業の確立は地方創生の第一歩
小松 国の農業政策などについてのご意見を。
岩見 町内には畜産農家もおられます。今年の元日に発効した日米自由貿易協定など、自由化の流れは特に畜産農家に打撃を与えるのでは、と心配しています。
本町の農畜産業の多くは、家族経営の兼業農家や高齢農家としての生業です。でもこの方々が離農すると確実に耕作放棄地が増えます。それを町内の認定農業者や営農組合で引き受けることは困難です。おそらく地域全体が荒廃していくはずです。何とか小規模な家族経営が持続できるよう、農村政策という観点から所得補償や価格保障の充実を求めたいですね。
今のところ、有機農業も鶴imoも町全域に展開されているわけではありません。しかし、小さくても伸びる芽を見つけて、地道に育てていくことが地方創生の第一歩だと考えています。
小松 持続的農業が持続的地域づくり、そして地方創生につながることを願っています。
本シリーズの一覧は下記からご覧いただけます
【シリーズ・農は国の宝なり】聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長
重要な記事
最新の記事
-
キャベツの高値いつまで 出荷増えるが小玉多く 産地のJA、農家の声2025年1月15日
-
深刻な「米」問題【小松泰信・地方の眼力】2025年1月15日
-
食品産業の海外展開と訪日旅行者の食消費を新たな柱に2025年1月15日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第105回2025年1月15日
-
グルテンフリー、豊富な食物繊維が取れる低GI米粉パン「WE米蒸しパン」新発売 JA北大阪2025年1月15日
-
岩手三陸地域の商品を全国へ「JAおおふなと」送料負担なしキャンペーン実施中 JAタウン2025年1月15日
-
栄養たっぷり和歌山の冬採れ野菜「和歌山フェア」17日から開催 JA全農2025年1月15日
-
くしまアオイファームと協業 冷凍自販機を活用したさつまいも商品を販売 JA三井リース2025年1月15日
-
LINEでカンタン応募「栃木のいちごで愛を伝えようキャンペーン」実施 JA全農とちぎ2025年1月15日
-
「いちごフェア」産地直送通販サイト「JAタウン」で開催2025年1月15日
-
「JAアクセラレーター第7期」募集開始 あぐラボ2025年1月15日
-
役員人事および人事異動(2月26日付) 北興化学工業2025年1月15日
-
精神障害者の自立と活躍へ 農福連携で新たなモデル提供 ゼネラルパートナーズ2025年1月15日
-
全国の児童館・保育園へなわとび・長なわ寄贈 こくみん共済 coop〈全労済〉2025年1月15日
-
宮城県農業高校がグランプリ 第12回「高校生ビジネスプラン・グランプリ」開催 日本公庫2025年1月15日
-
「幻の卵屋さん」川崎、田町に初出店 日本たまごかけごはん研究所2025年1月15日
-
「これからの協働による森林づくりを考える」シンポジウム開催 森づくりフォーラム2025年1月15日
-
インドの農業機械製造会社CLAAS Indiaの買収が完了 ヤンマー2025年1月15日
-
利用者との協同で誕生20年「餃子にしよう!」利用感謝キャンペーン パルシステム2025年1月15日
-
原発事故被災者応援金報告会 組合員募金を活用した3団体が報告 パルシステム連合会2025年1月15日