農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】生産組合に准組を迎えいれるJAあつぎ2020年4月7日
准組合員利用規制問題の決着の時が迫るが、今のところ表面的には攻守とも鳴りを潜めている。しかし准組合員比率は2017年度には59%になった。政治問題の如何にかかわらず、組合員の2/3に迫る准組合員の扱いはJAにとってゆるがせにできない課題である。そこで准組問題にチャレンジする神奈川県のJAあつぎをお訪ねし、大貫盛雄組合長にインタビューした。
直売所「夢未市」
◆JAあつぎのあらまし
組合員1万7000人、うち准組合員が75%、出資口数では30%を占める。貯金額3460億円、貯貸率は23%で、准組の貯金額は正組の1.3倍、貸付も准組の方が若干多い。農産物販売額は13.5億円で、直売所3か所の売り上げがその84%を占める。
部門別損益は、経常利益=100として信用事業が218%に達する(共済は34%)。営農指導事業の損失を正組1人当たりでにすると10万円近い。全国平均2.5万円に対して、4倍も営農指導事業に費用を投入していることになる。准組の事業利用の貢献も大きいわけだ。
出資配当率は2%、配当の2/3は事業利用分量配当で、主に定期貯金・定期積金に対して0.09%の基準である。JAとしては事業利用分量配当に重心を移してきた。
今後の農協経営としては、組合員の高齢化と信用・共済事業収益の減少が進むなかで、支店(信用共済中心の店舗)の渉外を基幹支所へ集約するなど、店舗の在り方について見直しを進める。効率化と相談対応力の充実により出向く体制を強化するとともに、合併も視野に入れつつ、当面は近隣JA間で営農生活指導の広域化、施設共同利用等を進めていきたい。
◆「食」を通じて正准をつなぐ
2011年より「准組合員のつどい」等を開催していたが、「農協改革」を契機にJAあつぎの准組対策が本格化した。まず2016年に准組合員調査を行った。JA加入のきっかけは、定期貯金の特別金利が24%、知人・家族の勧めが16%、共済加入15%が上位である。JAに対するイメージは「身近な金融機関」が53%で、「農家のための組織」19%を上回る。「身近な」というところがポイントである。どんな活動に参加したいかでは、税金・相続等の相談、サークル活動、収穫体験が高い。
またJAの活動への期待度では、直売所の充実とイベントが高い。既にJAあつぎは2009年に大型農産物直売所「夢未市」を開設、直営する3店舗で売上額11億円に達している(「夢未市」の出荷者は登録680人、常時300人)。移動販売車にも2017年から取り組む。直売所を通じて「食」で正准をつなげるのがJAあつぎの戦略である。
◆准組合員向け広報紙の発刊
JAあつぎは事業利用を目的に加入した准組に対して、制度対応よりも活動面でのアプローチを重視する。そのため組合員組織は准組にもオープンにし、生産組合員の40%、女性部の40%が准組合員、年金友の会に至っては正組27%、准組52%と准組が最大メンバーだ。JAとしては、准組とその家族の4割がJA組織に参加しており、そこをメンバーシップ強化の糸口にしたい。地区別座談会の参加者の1割が准組でもある。
情報誌『グリーンアートあつぎ』を、准組を含む全組合員に毎月配布するとともに、2016年度から准組向け広報紙「グリーンページ」を年3回発行している。タブロイド判4ページに、最新号では地元のお米、農業まつりの案内、家庭菜園ワンポイントアドバイス等の記事が載っている。
農家と夢未市を巡るバスツアー
◆1支所店1准組合員活動
2019年度から1支所店1准組合員活動を開始し、全支所店が取り組んでいる。野菜栽培講習会、体験農園、収穫体験、アレンジメント教室などの活動事例が多い。参加者は各10~20名程度で多数とは言えないが、着実に参加者数を積み上げている。
本所の各課も、正准を問わず、野菜の育て方、「厚木の農家と夢未市を巡る日帰りバスツアー」、シクラメンの育て方などを開催し、多くの参加者を集めている。「准組合員限定料理講習会」も開いている。
さらに2020年度には准組限定の「地場産苗での自家生産」(野菜苗の管理と育て方講習会)や「転ばないでいきいき暮らす」等を企画している。「住宅ローン利用者向け管内農家バスツアー」や「夢未市准組合員モニター制度」にも取り組む。
准組合員限定料理講習会
◆生産組合の活性化に向けて
前述のように生産組合の4割は准組合員だ。その生産組合が高齢化に悩んでいる。そこで2014年に組織戦略プロジェクトを立ち上げ、今後のあり方の検討を始めた。まず177の生産組合の長にアンケートをとった。組合長の職業は農業29%、サラリーマン28%、自営・不動産貸付20%、退職者(帰農者を含む)21%で、40~50歳代も2割以上を占める。行事の実施率は総会62%、定期的会合40%、忘年会・新年会・旅行・農作業各20%台。実施している組合の出席率は忘年会・新年会が7割以上、農作業は5割強だ。また情報誌配布と回覧による共同購入資材の注文・とりまとめは9割以上が実施している。
プロジェクトの提案を受け、担当部署を新設し、本所と支所それぞれに生産組合を支援する体制を整え、直面する課題を生産組合とともに考えている。生産組合員向けのリーフレット、職員向けの学習誌の2種類を作成・配布し、「みんなで見つけよう生産組合の新しい価値」を訴える。
◆新規就農が多い都市農業
JAあつぎは市・農業委員会とともに、2014年に厚木市都市農業支援センターをJAあつぎ本所内に立ち上げ、5名の体制で運営している。センターはとくに新規就農に力を入れ、平均して年8名を受け入れている。市外の非農家出身がほとんどで、農業アカデミー(旧県農業大学校)あるいはJAの農業塾(2年から1年に短縮、5割弱はこちら)を経て、使用貸借で畑を借りて野菜を中心に就農する。住宅はJA子会社を通じて借りるが、困っているのは物置である。これもJAが仲介したり、リース等を活用している。
都市農協は信用農協ではない。総合農協である。信用事業で利益を確保しつつ、それを営農指導に投入し、新規就農の受け入れ態勢を整えるなど都市農業振興に力投し、また生産組合等の組合員組織に准組合員を迎え入れているほか、1支所店1准組合員活動等を展開している。JAが地域に根ざす以上は立地条件によって差が出るが、正准の二正面に向き合って活動する点は一致している。准組問題対策のカギは都市農協と産地農協の相互理解、分断防止である。
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