農政:数字で見る日本の農業
粗収益の増で農業所得が上昇、法人の優位性も【数字で見る日本の農業】第3回2020年6月10日
前回、農地・経営耕地面積、労働力、農家数などについて触れた。今回は、こうした基礎データの上で、実際にどのような経営が行われているのかをみる。「食料・農業・農村基本計画」では、規模拡大を目指す企業的経営とともに、小規模家族経営も日本の農業の担い手として位置づけ、集落営農や法人化などで、集団化・組織化し、将来の可能性を見出そうとしている。こうした組織経営体はどの程度の規模で、収益性はどのくらいかについて、前回に引き続き、令和元年度「農林水産統計」から、これをみる。
規模のメリット生かした野菜作の所得が伸びている
農業所得は農畜産物の価格の高値傾向と相まって、この数年上昇傾向にある。販売を目的とする経営体の農業所得は、平成29年の1経営体あたり平均190万7000円。25年の約132万円から60万円増えた。
これをけん引したのが粗収益の伸びで、25年の約500万円に比べ29年は623万円で25%伸びたのに対して、経営費は432万円で18%の伸びにとどまったことが影響した。なお地区別では北海道の平均所得が断トツで1119万円。次いで九州(246万円)、関東・東山(179万円)、東北177万円)が続き、九州農業の健闘が目立つ。最低は中国の71万円となっている。
なお1経営体全体に対する農業所得への依存率は57・2%の全国平均に対してトップの北海道が94・5%、九州62・2%で、四国64・8%、東北(62%)と続く。逆に関東・東山、東海は農外収入が200万円を超え、北海道の73万円、四国の130万円を大きく引き離している。
一方で、認定農業者のいる農業経営体の農業所得をみると、29年の全国平均が505万円で、北海道が1155万円、都府県が436万円となっている。これは販売を目的とする経営体に比べ、北海道では大差ないが、都府県で200万円以上多い。
営農類型別に個別経営の1経営体当たり平均の農業所得が最も大きいのは、平成29年で養豚の1900万円。ついで酪農の1600万円、これに採卵鶏、ブロイラー養鶏の1000万円、肥育牛990万円、繁殖牛530万円と、ベスト5は畜産が占める。これは企業的な大規模経営が多いことを反映している。畜産以外では施設野菜が500万円で、これに露地野菜、果樹の200万円台が続く。小規模経営の多い水田作は69万6000円と、営農類型別では最も少ない。
これを組織法人経営(株式会社や農事組合法人などの法人格を持つ経営)でみると、やはり養豚の5500万円をトップに畜産が上位を占めている。ただ、個別経営に比べ、肉用牛経営が他の類型に比べて所得が少なく、畑作、逆に水田作や畑作で相対的に高くなっている。
組織法人経営にとっては、機械化・規模拡大のメリットが出しやすい畜産、大型機械の導入が可能な畑作が優位だとみることができる。逆にみると、肉用牛は繁殖・肥育部門で大きな所得をあげている経営が少なく、法人組織経営にとって取り組みにくいと思われる。果樹も同じことが言える。
【農業集落】半分超が20ha以下 実行組合は7割強
今回の「食料・農業・農村基本計画」では、地域の農業を守ることで地域社会を維持するための主体として小規模農家の存在を改めて見直している。その基盤となるのが農業集落であり、国やJAグループでは集落単位の経営組織づくりを進めている。
全国で耕地のある農業集落は、平成27年で13万3635。耕地面積は地区によって大きく異なり、いずれの地区も10ha未満が最も多いが、これに次いで東北・北海道では50ha以上の比率が高い。これに対して、他の地区では10~20haの比率が高く、西日本ではさらに小規模が多くなる。
農業に関して、農道の整備や環境美化など、何らかの形で共同作業や作業協定を行う「実行組合」のある集落は"東高西低"となっている。実行組合のある集落は全国71・7%で、トップは北陸の91・6%。次いで東海の81・8%、東北の78・2%となっている。これに対して中国56・5%、九州62・3%と低い。より高齢化の進んだ西日本では、旧来の集落機能の喪失が進んでいる。
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