農政:農水省政策プロジェクトリーダー
農林水産省農村振興局 村井正親農村政策部長に聞く【農村政策・土地利用の在り方プロジェクト】2020年7月14日
新たな基本計画では、農村政策が改めて重視された。高齢化や人口減少が進むなか、集落単位まで掘り下げ、地域に根ざして暮らす多様な人々の力でそれぞれの農村を元気にしていくための支援策を重視するという。農村政策・土地利用の在り方プロジェクトリーダーの村井正親農村政策部長に聞いた。
集落まで掘り下げ政策検討 多様な人材で地域活性化
--今回の基本計画では検討過程からも農村政策が重視されたと思います。改めてどのように位置づけられているのでしょうか。
村井正親 農村政策部長
第二次安倍政権が発足してから様々な農政改革に取り組み、そのなかで産業政策と地域政策を車の両輪としてずっと取り組んできました。しかし、現場ではやはり産業政策によりスポットが当たっているではないかと受け止められていたかもしれません。
農業という産業の特性を考えれば、当然、農業が展開される地域としての農村基盤がしっかりしていないと産業として成り立たなくなるわけですから、今回の基本計画でわれわれは農村政策をきちんと考えていくんだというメッセージをもう一回出し直す必要があるだろうということでした。
基本的な考え方ががらっと変わったということではないと私自身は思っていますが、今回の基本計画のなかに盛り込んだ問題意識では、集落単位まで掘り下げて政策を考えていかなければならないということです。当然、国の職員だけでは集落の現場まで実情把握できるかといえば、不十分であり、いちばん近い市町村の農政担当から情報をいただきながら従来から政策を考えてきたと思っています。ただ、市町村も財政状況の厳しさや、また市町村合併などで農政担当職員が減り、現場とのパイプが以前にくらべて細くなっている可能性があるのではないかと感じています。
そうした状況もふまえて現場の課題を吸い上げながら、よりよい集落、地域を作っていくための政策をどう作り、どう展開していくか、その実施体制も含めて考えていかなければならないということが問題意識にあります。
基本計画では「地域政策の総合化」を強調しています。農村地域で求められている仕事は本当にいろいろあるわけですが、そのすべてを農林水産省が所管しているわけではなく、当然、総務省や国交省、また学校教育や社会教育であれば文科省、福祉関係は厚労省ということになります。
それらが合わさって地域政策全体が成り立つわけですが、今回は集落単位でみた場合にどういったことが求められているのかについては、農林水産省が各省庁との連携を密にしながら地域政策の総合化を考えていこうということです。
--具体的な農村振興策は何を打ち出していますか。
柱として3つ立てています。1つが「しごと」です。農村で暮らしていくにあたってはきちんと仕事がある必要があり、地域資源を生かした第一次産業を活性化させるとともに、農村発イノベーションともいっていますが、農村の多様な地域資源と他分野との組合せによって新たな価値を生み出すことで、所得が得られる、または雇用機会があるということをしっかり担保しなければいけないということです。
それから、当然、生活の基盤がしっかりしていなければ地域に根を降ろすことができないため、2番目の柱を「くらし」としています。農村に住んでいくにあたって必要となる条件整備をしっかりやっていこうということです。
3番目の柱は「活力」です。農村への国民の関心を高め、農村を支える新たな動きを広域的に生み出していこうということです。この3つの柱でいろいろな施策を体系的にやっていこうというのが今回の基本計画の農村政策です。
--農村での暮らしについて「農業」ではなく、もっと幅広く「しごと」として考える方向を打ち出しましたが、ここに新しい農村政策の方向があるように思います。
当然、農林水産省ですから農業、林業といった一次産業を基軸に考えていくということで、今回は改めて複合経営という概念を打ち出したわけです。複合経営というかたちが実現するのであればそのモデルも今後示していきたいということです。
一方で、とくに中山間地域では一次産業だけで暮らしていける人はそれほど多くないだろうと、そこはシビアに考える必要があると思っています。
この点に関しては、半農半Xやデュアルライフといった暮らし方も含めて、農村地域の担い手と考えれば、必ずしも一次産業だけに限って考える必要はないということもあります。農外の所得も含めていろいろな組み合わせで生活するのに十分な所得が得られるというかたちで関わってもらい、地域のなかに根ざして地域を支える担い手になってもらえれば半農半Xなども評価していくべきではないかということです。
あるいは業としては農業に関わっていないけれども地域を支えるサポーター、最近は関係人口という概念もありますが、そういう人たちも含めて地域に関わる人たちを地域の担い手、支え手として捉え、その人たちの知見や能力を活かして地域を盛り上げていくことを考えていこうというのが今回の問題意識です。
新型コロナウイルスの感染拡大で地方に対する再評価は必ず出てくると思っています。個人レベルでも企業でも、あるいは国家レベルの国土形成という観点からも分散がテーマになってくるのは間違いないと考えています。これをキーワードにしながら新しいかたちをつくっていく。集中から分散へ価値観が変わってくるときに、地方がきちんと受け皿になれるような施策を考えていかなければなりません。
ただ、それはみんなが農業に入ってくるということではなく、いろいろなかたちで地域に関わる可能性のある人材が今まで以上に増えてくるということではないかと考えています。いろいろな能力やノウハウを持った楽しい人材が地方に集まってくることによって、そういう人材を巻き込みながらどういったことができるのか、それを発想できる地域がこれから強くなっていけるということだと思っています。
--「人」が重要だということですね。
様々な人材をどう活かすかということも今回の農村政策ではひとつのテーマになってくると思います。農村に人が集まってきたから問題が解決するのではなくて、集まってきた人をどう活かすかということを考えていかなければなりません。これは国が何かパターンをつくって示すというものではなく現場、現場で考えていくということが基本です。こうした課題解決の手法も考えていこうということになっています。
このように自らが考えていくことができる地域を作っていくということが大きな目標になると考えています。地域でこういうことをやりたい、という声が出てくれば、それをきっかけに地域住民を巻き込み活力が生まれてくるというのは間違いがないことですから、それを動かせる人材がいるかどうかが大切になると思います。
その意味で開かれた地域にしていくことが非常に重要ではないかと考えています。様々な人材を地域の人々が物心ともに受け入れることによって、新たな化学反応が起こっていろいろな面白い取り組みが出てくることを期待したいと思っています。同時にそれぞれ地域ごとに違いはありますから、地域が使い勝手のいい、いかに自由度の高い政策を用意していくかもわれわれの課題だと考えています。
--JAについての期待を聞かせてください。
農協改革については引き続きしっかり取り組んでいただきたいということですが、やはり地域農業の全体像をきちんと把握して、グランドデザインを描く潜在的能力を持っているのがJAだと思います。担い手から小規模な農業者まで巻き込んで地域農業をコーディネートする力を持っているというが最大の強みだと思っています。
そういうなかで農業を核にしながら、その他の取組も含めてこの地域をどう作っていくのかということもJAとして考えることもできるはずです。まさに農泊などはその例で、産業として農業だけではなくて、地域資源を活かした新しい活力が生まれるようないろいろな取組のコーディネート役になれる力を各地のJAは持っていると思いますし、そういう力を持った人材もいると思います。農村に関心を持っている新しい人材とのネットワークも築きながら取り組んでもらえればきっと面白いことに取り組めると思います。JAも外部を巻き込みながら発想のウイングを広げて、地域のコーディネート役としての役割を発揮していただければと思っています。
(令和2年8月3日付で大臣官房政策立案総括審議官)
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