農政:薄井寛・20大統領選と米国農業
農村票にも焦点を当てた民主党大会-激戦州での地方選挙区対策が鍵に【薄井寛・20大統領選と米国農業】第9回2020年8月25日
8月17~20日、中西部のウィスコンシン州ミルウォーキー市を基地に全米各地をつないで展開された民主党の「バーチャル党大会」。その多彩な日程の組み立てには、トランプ大統領誕生に大きく貢献したルーラル・アメリカ(地方)の岩盤支持層を今回は切り崩すという同党首脳部の方針が組み込まれていた。
農業・農村問題を直視した党大会のシンポジウム
内外の主要メディアに注目されることはなかったが、多くの地方有権者や農家が参加したバーチャル会議や農業問題のオンライン・シンポジウムが大会前半に開催され、米国の農業専門誌や地方紙はその展開を詳しく報じた。
党大会二日目(8月18日)の「地方選挙区諮問委員会」や「アメリカ農業指導者シンポジウム」では、農家や地方有権者の直面する課題が議論され、必要な対策が提起された。これらにオンラインで参加した民主党議員や農業関係者などが最も強く訴えたのは、バイデン大統領候補が提案する「一期4年2兆ドル・インフラ投資計画」の着実な実行であった。なかでも、農村における高速ネット通信施設の整備と医療体制再建の緊急性が強調された。
そこでは、新型コロナの重症患者を救うための集中治療施設が農村総合病院で極端に不足し、犠牲者が増え続けている実態が報告された。ビルサック前農務長官は次のように述べ、トランプ大統領のコロナ対策を痛烈に批判した。「(人口580万人の)ウィスコンシン州では新型コロナ感染者が6万6000人。これは人口1億2000万人の日本の感染者総数を1万人も上回っているのだ」。
一方、「バーチャル党大会」にネットでつながったトウモロコシ生産者団体のシンポジウムからは、農産物の輸出回復策とトウモロコシ由来のエタノール生産振興策の強化が訴えられた。アイオワ州の農家マーク・レッカーは、「エタノールはアイオワ経済のみならず、(カマラ・ハリス副大統領候補が提唱する)気候変動対策の燃料戦略としても極めて重要なのだ」と主張した。
また、大豆農家へ多大な損失をもたらした米中貿易戦争に反発するペンシルベニア州の農家リック・テレツは仲間の農家へ次のように訴えた。「大統領は(アメリカの農産物を売らずに)自分の売り込みばかりやっている最悪のセールスマンだったのだ。我々は(トランプのツイッターではなく、)毎日テレビをしっかり観て、自問すべきだ。なぜ、あんなやつに投票してしまったのかと」。
「バイデンは地方の有権者へ直に語りかけるべきだ」
党大会の地方諮問委員会やオンライン・シンポでは、地方選挙区対策も重要な議題となった。そこでは特に次のような具体策が提唱された。
(1)バイデン大統領候補は農村部へ積極的に足を運び、農業・地方政策の具体的な公約について地方有権者へ直に語りかけるべきだ。前回選挙で農業州への遊説を軽視したクリントン候補の過ちを繰り返してはならない。
(2)トランプは農業のことなど重視していなかったと気づいた農家が少なくない。トランプ岩盤支持層のほんの一部をバイデン支持へ転換させるだけで、激戦州では今までと違った結果をもたらすことができる。
(3)そのためには、トランプの農業・地方政策の失敗を地方有権者へ具体的に示す必要がある。米中貿易戦争による農産物の輸出減や農家経済の悪化、トウモロコシ由来のエタノール生産振興策の後退、地方における新型コロナ対策の軽視や高速ネット通信投資の遅れ、大規模農家へ集中したコロナ禍救済補助金の支給実態、橋や道路等の農村インフラ未整備など、農家や地方住民が不満を抱いている身近な問題に焦点を当てるべきだ。
中西部のオハイオ州など6州でトランプ再選阻止の運動(「ルーラル・アメリカ2020」、本シリーズ第8回参照)を主導する農務省OBの大豆農家クリストファー・ギブズ氏は、「特にトランプ政権の貿易政策の失敗を責めることで大統領支持者の一部を引きはがすことができる」とバーチャル会議を通じて訴え、こう述べた。「トランプ大統領自身が、彼の政策失敗を攻撃するのを実に容易にしてくれている。それは今や、"樽のなかに入った魚を銃で仕留めるほど"簡単だ」。
ブルームバーグ通信(電子版、8月20日)が報じたように、農家のトランプ支持率には陰りが見える。農業専門誌のプログレシブ・ファーマーズが8月6~14日に500名の農家を対象に行った調査によると、「(本日が選挙の投票日なら)トランプへ投票する」との回答が71%を占めたが、4カ月前の4月調査の89%を18%ポイントも下回った。調査結果の分析では、大統領の新型コロナ対策に対する農家の不満がその主な要因とされている。
こうしたなかで、選挙戦は9月29日のテレビ討論会を境に最終局面へ入る。両候補がどのような農業・地方政策の公約をかかげて論戦を展開し、それが激戦州における地方有権者の投票にどう影響するのか。その度合いが選挙の勝敗を決める鍵となる(表参照)。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(125) -改正食料・農業・農村基本法(11)-2025年1月18日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (42) 【防除学習帖】第281回2025年1月18日
-
農薬の正しい使い方(15)【今さら聞けない営農情報】第281回2025年1月18日
-
イタリアはラーメンブーム【イタリア通信】2025年1月18日
-
「一揆は対立ではなく連携へののろし」 この機逃せば農村消える 山形県の農家・菅野芳秀さん2025年1月17日
-
鳥インフルエンザ続発 愛知で国内30例目、千葉で31例目2025年1月17日
-
米の作況指数 「農水省発表マイナス5が新潟の実感」 新潟大・伊藤助教が指摘2025年1月17日
-
鳥インフル 米デラウェア州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月17日
-
令和6年度スマート農業アクセラレーションサミット開催 JA全農2025年1月17日
-
(418)日本初のグローバル化の功罪【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年1月17日
-
【JAトップ提言2025】有機農業で次代に活路 JA常陸組合長 秋山豊氏2025年1月17日
-
【JAトップ提言2025】環境と農業の両立に的 JA秋田中央会会長 小松忠彦氏2025年1月17日
-
生産者にZ‐GIS活用講習会 JA全農2025年1月17日
-
JA広報大賞 JAふくしま未来に決定 JA全中2025年1月17日
-
農業界特化就活フェア「あぐりナビ就活FES.」東京、大阪で開催 アグリメディア2025年1月17日
-
「2024年度 GAPシンポジウム」開催 日本生産者GAP協会2025年1月17日
-
適用拡大情報 殺虫剤「ベリマークSC」 FMC2025年1月17日
-
適用拡大情報 殺虫剤「ベネビアOD」 FMC2025年1月17日
-
日本生協連「くらしと生協」包丁研ぎの魅力を伝えるアニメ動画を公開2025年1月17日
-
東大阪農業PR大使・シャンプーハットてつじ密着取材「ピカッと東大阪」で公開2025年1月17日