農政:どう思う!菅政権
菅政権は安倍政権の「負の遺産」を引き継いでいる 藤井聡 京都大学教授【どう思う!菅政権】2020年9月23日
安倍政権のから菅政権へ、中身は何も変わらないのに空前の「菅ブーム」が起きている。そのブームに乗って安倍政権では実現できなかった「改革」を断行するのではないかと藤井教授は危惧する。
写真:首相官邸ホームページより
菅政権の支持率は、世論調査によっては7割を超過しているものもあると言う。その誕生時の支持率は、第一次、第二次の安倍政権を軽く超え、歴代一位の小泉政権、歴代二位の鳩山政権に次ぐ第三番目の高さだという。
しかし、これはある意味何とも奇妙な現象である。
そもそも菅政権は安倍政権をそのまま引き継ぐと言う方針を明確に宣言した上でつくられたものであり、かつ、安倍政権は、安倍元総理の辞任表明直前まで世間から激しく批難されていたからだ。その批難の内容は、森友問題、加計問題、桜を見る会問題、黒川問題など、その政策以前にいずれも、ウソや誤魔化しなど、政治倫理に関わるものだった。安倍政権をそのまま引き継いだ以上、そうした倫理的に問題のある政治決定プロセスそのものも、引き継がれたと考えざるを得ない。しかも、そうした問題の対処にあたって中心的な役割を果たしたのは「菅官房長官」であったのだから、普通に考えれば、安倍政権がその中身をほぼほぼ変えないまま菅政権に衣替えをしたのなら、国民の批難は同じ水準で続くのだろうと考えざるを得ない筈だ。
しかし、現実はそうではなかった。
今やもう、「菅ブーム」と呼んでもよいような雰囲気に日本が包まれている。
何とも不思議な光景だがこういう世論状況となったのは、偏に、安倍首相に対して国民がうんざりした気分になっており、もはや安倍さん以外なら誰でも言い、という空気が漂っていたからではないか。だから安倍首相が自らの病気を理由に辞任表明した途端に、安倍人気が再燃した理由も理解できよう。つまり安倍辞任は、「国民の声を安倍さんが聞き届けてくれた」と国民に受け取られたのである。そして、その気分のまま菅新総理が誕生したものだから、国民も大いに支持しているという次第だ。
とはいえこの空前の「菅ブーム」には閉口せざるを得ない。
繰り返すが中身が何も変わっていないのに、こうして総理への支持率が一気に二倍以上に跳ね上がる現象はまっとうな民主主義とは到底呼べるものではない。
こうなれば菅政権は、この人気に便乗して安倍政権が進めてきたものの国民の反発が強いため推進できなかったあらゆる「改革」を一気に進行させてしまうことになるだろう。
いずれにしても、菅政権が安倍内閣を引き継ぐというのであるのなら、その負の負債を全て受け止め、それを一つ一つ返済していかねばならない。
安倍内閣は結局のところデフレ脱却を果たすと叫びながら二度にわたる消費増税でデフレを悪化させ、国民の実質的な所得を大幅に下落させたのだし、拉致被害者の問題を完全に解決すると宣言しつつ8年近くもの時間を使いながら結局は何も解決できなかったのだし、日韓問題も完全かつ不可逆的に快勝すると大見得を切りながら日韓関係は戦後最悪の状況にまで悪化させたのだし、TPPは加入しないと言いながらTPPのみならず事実上日米FTAの交渉まではじめてしまったのだ。こうして政策内容に関して、プラスのものをほとんど何一つ残すことが出来なかったと同時に、先に述べたように、ウソと誤魔化しを繰り返し、国会審議と閣議決定の信任を大きく下落させてしまったのである。
今、日本は長引くデフレによってまさに滅びつつあるわけだが、その滅亡の速度が、こうした安倍内閣の政治的負債の一つ一つによって激しく加速しているのであり、そして今年に入ってからは追い打ちをかけるように新型コロナウイルスによってさらにさらに加速してしまっている。
果たして菅政権は安倍政権が残した負債の一つ一つを返しつつ、滅び行く日本を救い出すことが出来るのだろうか?
――菅政権が安倍政権を引き継ぐものである以上、その問いに対して肯定的に答えられる要素は、何一つ無いと言わねばならないのであろう。
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