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農政:薄井寛・20大統領選と米国農業

対立する農業保護と輸出政策の中身-両候補の農業政策の違い(その1)~【薄井寛・20大統領選と米国農業】第11回2020年9月23日

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米国最大の農業団体ファーム・ビューローは両大統領候補へ貿易政策等12項目に及ぶ公開質問状を送り、その回答を9月9日ネット上に公開した。そこに見られる両候補の対立点などを2回にわたり報告する。

中小農家への支援を強調するバイデン候補(民主党)

トランプ氏・バイデン氏両候補の回答に著しい違いが現れたのは国内食料供給システムの活性化策。農家に対するコロナ禍救済金の直接支払(160億ドル、4月17日公表)に加え、30億ドルを使って生産農家から農産物を買い上げ、貧困層へ配布する計画(「農家から家族へのフード・ボックス」)など、トランプ候補は農家への莫大な補助金支払いを誇示した(なお大統領は9月18日、農家へのコロナ禍追加救済金140億ドルの支給を発表)。
これに対しバイデン候補は、選挙運動のスローガンである「より良い復興(ビルド・バック・ベター)」を強調。農業への新規参入や農地相続への支援等を通じた次世代農家対策と農地保全への投資に加え、「生産性を向上させる技術開発や低利融資、新品種開発、それに温室効果ガス排出を抑える精密農業へ報奨金を支給する"カーボン・ファーミング・マーケット"の開設」などを促進し、農業の優位性の復興と農村雇用の創設を通じて地域社会の展望を切り開いていくと主張した。
さらにバイデンは、農業関連企業の寡占化を阻止することで中小規模の農業生産者を保護するとともに、黒人農家に対する農務省の差別的な農業政策を廃止するなど、農業政策における多様性重視の考えも明らかにした(なお、南部諸州に集中する保守的で信心深い黒人農家のトランプ支持基盤を切り崩すため、バイデンは会員4万9000人の全米黒人農民協会への接近を強めている)。
一方、特に中西部の農家が期待するトウモロコシ由来のエタノール生産奨励策についてトランプ候補は、通常のエタノール10%混合ガソリンに加え15%混合(E-15)の夏季販売禁止を撤廃、通年販売を実現(2019年5月)したとして、その実績を誇示し、中国やブラジル等へのエタノール輸出増に向けた自らの努力も強調した。
一方、石油業界とつながる大統領は大手石油会社の製油所に対してエタノール混合義務を免除し、トウモロコシ農家の利益を阻害してきたと批判するバイデン候補は、「(エタノールなどの)再生可能エネルギーこそ農村部と気候変動対策にとって最も重要」であり、「クリーン燃料の研究開発に4000億ドルを投資して2050年までに実質排出ゼロを達成する」と断言。持続可能な農業と農家の所得増、農村の雇用増のためにエタノール生産増を優先課題に位置付けたのだ(なお、中西部のトウモロコシ生産農家の離反を恐れるトランプ大統領は9月7日、製油所のエタノール混合義務免除申請の認可を選挙後まで延期するよう環境保護局(EPA)へ指示したと伝えられる)。

貿易交渉による輸出拡大を強調したトランプ候補(共和党)

トランプ候補がその実績を最も強調したのは農産物の輸出対策だ。米国に不利益な貿易協定からの脱退に加え、韓国、日本、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉による米国・メキシコ・カナダ新協定(USMCA)の締結、および対中貿易交渉合意(第一段階)での実績を誇示したのだ。またトランプは、「中国は第一段階の合意に基づき米国農産物の輸入を増やし始めており、大統領の二期目に入れば、米国からの輸入をさらに増やすため交渉テーブルへ戻らざるをえなくなる」との楽観論を披露した。
さらにトランプは、対中貿易交渉の第二段階の合意に加え、日本との間でもより大きな合意を実現できるとし、他のアジア諸国との交渉も進めるとの方針を示した。
これに対しバイデン候補は、国内の生産と雇用を悪化させる外国の不公正な貿易慣行と闘うため、「効果的な方法によって米国通商法を攻撃的に施行できるよう、総合的な戦略を進めていくとともに、必要に応じて新たな対応策を講じていく」と主張。また、地球規模の過剰生産や外国の国営企業などの問題が米国の利益を阻害しているとし、米国企業の海外移転や外国企業への生産委託による雇用喪失を続けさせてはならないと強調した。
さらに両候補は、外国人農業労働者の受け入れについても真っ向から対立する。トランプ候補は、厳しい不法移民対策を実施するなかで、「(合法的な)季節労働者については、国内農家のためにH-2Aビザの発給増で対応した」と強調(表参照)。次の二期目においては、外国人農業労働者を十分に確保するための法改正に取り組むとの考えも明らかにした。

(表) 米国の季節農業労働者ビザ(H-2A)の申請人数および強制送還の 外国人が増えるなかで、止まらない青果物(調整品含む)の輸入増 (注参照)

一方バイデン候補は、「米国で農業労働に従事した経験のある移民労働者については、その継続を可能とする法整備」を図るとともに、「過去の農業労働の実績を踏まえ、移民労働者に対して労働許可証や市民権取得へつながる法的地位を与える制度」についても支持する考えを示した(次回は税制改革、気候変動対策等に関する両候補の違いを報告)。

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