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農政:バイデン農政と日本への影響

【バイデン農政と日本への影響】第6回 バイデン大統領のインフラ・雇用計画――中間選挙をにらんだ地方活性化策 エッセイスト 薄井寛2021年4月20日

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バイデン大統領は3月31日、経済の競争力強化と強固な製造業の再生をめざした「米国雇用計画」を議会へ提示した。8年間で総額2兆2500億ドル(約250兆円)という巨額の財政出動を要する雇用計画。その目的は老朽化した戦前からのインフラ(社会資本)の全面的な修復・改善と、気候変動対策などに向けた新インフラの開発・投資にある。

農村と都市を結ぶ小規模な橋1万本も改修へ

この計画実現で、黒人などの少数グループを含めた中低所得層へ何百万もの「給料の良い職」を提供し、米国の対中競争力を強めることができると、バイデン大統領は訴えた。そこには次のような事業が含まれる。

〇道路(3万2000キロ)や橋(1万カ所)の補修と、電気自動車(EV)の充電基地(50万カ所)・高速鉄道網・空港整備など交通インフラの全面的な改修・最新化

〇半導体などの国内供給網の構築、通学バスや政府車両のEV化、気候変動対策や人工知能、宇宙開発など科学技術の研究・開発への大規模投資による労働者・製造業の競争力強化

〇電力網や上下水道システムの改修・整備、水道鉛管廃止による飲用水浄化、インターネット高速通信網の全米配置、200万戸以上の安価な住宅供給などによる生活インフラの拡充

〇高齢者・障害者施設や退役軍人病院、地方の医療施設などの健康・福祉インフラの整備

主要メディアは計画の中身を詳細に報道したが、農業専門誌や地方紙が特に注目したのは高速通信網の全米配置や橋・内陸水路の大規模な修復、農村配電網の整備、地方医療施設の改善などであった。

農村部では35%以上の住民が高速通信網にアクセスできない。これでは児童のオンライン学習どころか、企業誘致や雇用対策もおぼつかない。

改修を要する橋のほとんどは農村部のものだ。郡によっては、「橋が老朽化して大型の農業機械を運べない」実態もあると伝えられる。

米国におけるロック・アンド・ダム施設の年間稼働停止時間と同施設の改修費用の推移(2012-19年)米国におけるロック・アンド・ダム施設の年間稼働停止時間と同施設の改修費用の推移(2012-19年)

「100年に一度」の巨大な公共事業

それに中西部などの農業州では、内陸水路施設の改修が農家にとって長年の悲願であった。米国では2万キロにも及ぶ内陸水路網が、穀物等の輸送に重要な役割を果たしてきた。特にミシシッピ川とその支流等に設置され、浅瀬でもバージ(穀物や鉱物資源などの輸送用はしけ)の船団航行を可能とする「ロック・アンド・ダム(閘門ダム施設)」は、農産物輸出にとって不可欠だ。

ところが、全米218カ所のダム施設の多くが老朽化している。大恐慌脱出のために1933年開始の公共事業(ニューディール政策)で建設された多くのダム施設は、50年の耐用年数を過ぎてしまった。閘門などの部分的な改修は80年代に始まったが、施設の破損や修復工事による運航停止が今でも後を絶たない。内陸水路システムの改修・拡張工事の遅れが農業の輸出競争力を削いでいる。米国農業界の危機感は年々強まってきたのだ(表参照)。

農村部の配電施設も同じだ。地方の送電網のほぼ90%は1930年代の公共事業で実現した。電力会社がコスト高を理由に広大な農村地域への送電を拒否したため、農家や地方住民が自ら出資して電力協同組合を組織し、補助金を得て配電網を作り上げたのだ。

現在、830以上の電力協同組合が2500以上の郡(全米の80%弱)に居住する約4200万人の組合員へ配電サービスを展開する。しかし、配電網の老朽化で自然災害などによる停電が深刻化。農村部の停電件数は都市部の2倍を超えるとの情報もあるほどだ(写真参照)。

(米国カンザス州ウィチタ市南西約150キロの農村地帯、2019年筆者撮影)

こうしなか、バイデン大統領は「雇用計画」の投資対象としてこの電力協同組合を選択した。地方の自然条件を活かして風力・太陽光発電に力を入れる電力協同組合が配電網の整備に加え、気候変動対策の新エネルギー事業で重要な好機を与えられようとしているのだ。

大統領府のジャンピエール副報道官は3月31日、記者団にこう強調した。「有色人種の居住地区や農村部の地域社会は、(大規模なインフラ整備や雇用対策の対象から) 何世代にもわたり意図的に外されてきた。だが、バイデン政権は誰も置き去りにしない」。

また、大統領が4月9日に議会へ提出した2022年度予算教書でも、この数年間減り続けてきた農村開発等の農務省予算(裁量的経費)を16%も増やす案が提起され、農業専門誌などの注目を集めた。

来年11月の中間選挙を勝利して政権基盤の安定強化を狙うバイデン政権が、中西部や南部農業州の「トランプ岩盤支持層」を切り崩すため、地方活性化策の強化方針を明確に打ち出し始めたのだ。

実際、「米国雇用計画」を30頁余りで紹介した記者レク用のファクト・シートでは、29カ所にもわたって農村部への優先事業が言及された。その効果はどう出てくるのか。

ただし、多くの有権者の政党支持傾向が固まっている今の状況では、バイデン支持率の急上昇は考えられない。

一方、巻き返しをねらうトランプ前大統領の陣営は、保守的な団体のウエブサイトを使って地方有権者のネットワーク化と情報発信活動の再構築に着手したと伝えられる。バイデン・トランプ対決の第2ラウンドが始まったのだ。

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