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農政:小高根利明の語ろう日本農業の未来--アグリビジネスの現場から

未知の技術、アナログ両輪で 久保田治己(株)全農ビジネスサポート代表取締役社長に聞く【小高根利明の語ろう日本農業の未来――アグリビジネスの現場から】2021年4月26日

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聞き手:小高根利明(元協友アグリ(株)社長)

日本農業は、取り巻く環境の変化や生産者の高齢化などによって、大きな曲がり角にあるといえます。そうした時代の要請に応えて、新しい栽培技術や農業機械などの開発が進み「農業新時代」を迎えつつあるといえる。この農業新時代をどのように受け止め、どのように対応していこうとしているのかを、ビジネスの最前線で挑戦している人たちに聞く。新シリーズ第一回は久保田治己(株)全農ビジネスサポート代表取締役社長。聞き手は小高根利明協友アグリ(株)、住化アグロソリューションズ(株)元社長。

久保田治己(株)全農ビジネスサポート代表取締役社長久保田治己(株)全農ビジネスサポート代表取締役社長

■提案制度で新規事業を開発

――「全農ビジネスサポート」という社名が示す通り御社は従来、JA全農を支える会社という位置付けでした。しかし、久保田さんが社長に就任してからJA全農以外にも事業領域を拡大し、新事業の創出に挑戦しています。

久保田 1年前から社長を務めていますが、率直に言って弊社は改革が足りなかった会社だと思います。基本的にJA全農グループ内で仕事をしてきましたが、グループ全体が右肩上がりのときはよいものの、今はグループどころか日本経済全体が下がり気味ですから、JA全農以外に活路を見いださないといけない。そのため新規事業提案を社内で3回ほど募り、今年3月には新規事業開発部を立ち上げて、新しいことへ取り組む積極的な雰囲気を作り出そうとしたわけです。

人が減って忙しくていて新規事業ができないという声もあったので、まずは人を増やすところからはじめました。人員を増やせばコスト先行になりますが、人材は投資ですし、社員のみんなもよく応えてくれて、提案制度にも数多くの提案が集まりました。

その中からコンテストで選ばれたアイデア、全国の農畜産物を食べてポイントを増やしながら全国制覇するというゲーム感覚を取り入れたアプリを実際に開発に着手して、近いうちに一般公開できそうです。

将来的には、全国の和牛を食べ比べたり、イチゴの品種を食べ比べたりと一般消費者の方々にも楽しんでいただきながら、国産農畜産物のファンを作り出そうと考えています。

また、今日の時点ではまだ詳しくお話しできないのが残念ですが、今夏には「画期的な新食材」を発売する予定です。素晴らしい機能性の潜在力がある新食材で、機能性については東京農業大学との委託研究もすすめていますので、ぜひご期待ください。

――JA全農の以外の会社に目を向けたのは久保田社長が初めてですか?

久保田 この会社では多分そうです。10年計画でJA全農グループ以外の比率を3割にしようという目標を掲げました。ただ、この会社では新しい発想かもしれませんが、外の世界ではごくごく当たり前のことですし、私が以前いた全農の畜産生産部の子会社と比べても20年は遅れている。今までと同じ取引先と同じ仕事を繰り返しているだけでは会社が陳腐化していきますので、他流試合が必要です。

■デジタルだけに頼ったら協同組合は壊れる

――御社はJAグループのIT戦略を担い、推進していく中核企業として大きな期待を集めています。これからどんなことに挑戦していきますか。

久保田 今はアナログを排除して事業をデジタル化していくのが良いというのが一般認識だと思いますが、私はそうは思っていないんです。もちろんデジタルは最先端に挑戦していきます。人も金も投入し、我々もAI分野で最先端の会社と契約し、アプリの開発もしています。

だからといって、我々がデジタルだけの会社になればいいかというとそうではない。JAグループは人と人とのつながりを大切にする組織です。アナログな部分は徹底的にアナログで行こうと思っています。
デジタルだけに頼ったら協同組合は壊れます。

デジタルは上手くあたれば一発で10億もうかるかもしれませんが、アナログは着実に100万円、1000万円を積み上げていける。今後、定年延長の話が具体化してくれば年長組の人にも長く活躍してもらう必要がでてくるが、年長組の人には今までの人間関係を大事に活用してアナログで活躍してもらいたい。これを我々は両方やります。アナログで地道に1000万円稼いでいくことが大事です。

――そうしたアナログな取り組みでは人材をJAに出向させる、あるいは逆に出向を受け入れるといった人的交流をされていますね。その狙いは何でしょう?

久保田 JAグループに入ったからには、農業のことを知っておかなければいけないでしょう。そのために、JAさがさんに出向者を受け入れていただいたり、兵庫県のJAたじまさんから出向で来ていただいたり、JAの人との接点を増やしてかき混ぜてもらうんです。いわば起爆剤ですね。

JAグループという組織にいることが我々の最大のメリットなのですから。

■AI活用は答えが分からない投資判断、何もしないことは「予選脱落リスク」

――AIなどデジタル分野での取り組みについて詳しく教えていただけないでしょうか?

久保田 AIは、一般企業にはまだ普及していないので何ができるか分からない未知の技術です。そのため、経営者も投資判断が出来ず、何年もたって気が付いた時には既に業界では周回遅れになって、予選で脱落してしまいます。ここにアナログを得意としていたJAグループの大きなリスクがあります。

その「予選脱落リスク」を回避するために、何ができるか分からなくても一定の投資と人材育成をすすめることにしました。

まず弊社がAIのオペレーターを養成し、そのうえで全農やグループ会社と事業別にプロジェクトチームを組んで具体的な研究テーマを絞っていくことにしています。

1年後くらいには、自慢できる結果がでていることを期待してはいますが、2~3年は我慢するつもりで頑張ります。

■「いいとこどり」はビジネスの常識?

――久保田社長はAWB(オーストラリア小麦庁)と全農の合弁会社の社長を務めるなど、国際ビジネスの経験も豊富ですので、これまでの経験から日本農業の未来図やJAグループの進むべき方向性など、意見をお聞かせ願えますか?

久保田 全農時代、畜産生産部で海外からの飼料用大麦・小麦の原料調達の仕事に携わっていました。カナダやオーストラリアで資金調達のために株式会社化した農協が、10年後には全て巨大な外国の資源メジャーや穀物メジャーに買収されていった事例を目の当たりにしました。

日本でも2015年に農協法が改正され全農も株式会社化できるという法律に書き換えられてしまい、全農を株式会社化して外資に売り渡そうという動きが続いています。

以前、JAおきなわの普天間朝重理事長が専務時代に、米国の統治下だった沖縄に吹き荒れた農協つぶしの「キャラウェイ旋風」のことを書かれていました(注)。その話を読むと当時の米国の考え方が良く分かります。それと同じようなことが現在の日本で起きていると理解できます。日本の食料安全保障を守るために、海外で何が起きていたのか、歴史を学ぶことが重要です。

海外の生き馬の目を抜くような恐ろしいディールから生き残り、組合員とJAグループが力を合わせて日本人のための農業と食料を守り抜くことが今こそ重要になってきています。

「いいとこどりはビジネスの常識だ」と言った規制改革推進会議の委員がいたようですが、そういうところとは取引をしたくありません。今こそ「お互い様」の精神で助け合うことでお互いを高め合うことができる協同組合の時代だろうと確信しています。


(構成:杉本健太郎)

<注>JAcom2018年1月18日付「サトウキビは島を守り島は国境を守る

※全農ビジネスサポート
2005年4月に全農管財と全農情報サービスが合併して発足。主な事業は、△不動産施設管理△保険代理△総合広告代理△販売代理・業務受託等△コンピュータ・ネットワーク運用管理△クラウドサービス△IT機器・ソフトウエア販売△パッケージソフト開発および販売△システム開発・維持管理

※久保田治己(くぼた はるみ)略歴
東京都杉並区出身(本籍地:青森県南津軽郡)
1983年3月東京大学農学部卒、同年4月全農入会。87年経済企画庁調査局内国調査第一課出向。89年全農総合企画部企画調査課。97年AWB全農(株)出向、翌10年2月から同社代表取締役社長。2001年全農大阪支所畜産生産部。04年本所畜産生産部総合課。11年(株)組合貿易出向・専務取締役。12年全農総合企画部次長。15年広報部長。17年常務理事。19年(株)全農ビジネスサポート。20年6月代表取締役社長。



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