農政:バイデン農政と日本への影響
【バイデン農政と日本への影響】第10回 消費者の食品購入傾向の変化にファーマーズ・マーケットは対応できるか――予想されるネット食品通販の驚異的な伸び エッセイスト 薄井 寛2021年6月22日
農務省のホームページは全米各地のファーマーズ・マーケット(以下、FMと記す)の名鑑を管理しているが、同名鑑の登録FMは2004年9月の3706カ所から19年9月の8779カ所へ2.4倍に増え、販売総額は30億ドル(約3300億円)を超えたと伝えられた。
「ファーマーズ・マーケットが戻ってきた」
しかし6月21日現在、登録FM数は1571、この1カ月間に増えた数は24カ所に過ぎない。登録から外れたFMがすべて閉鎖または休業中と決めつけることはできないが、夏の"FMシーズン"に入っても相当数のFMが活動を全面的に再開できないでいるものと推測される。
地方紙やFM関係のサイトを見ると、「経済活動が再開しても出荷農家を確保できない」、「売り場の安全対策費や売り上げ減で活動中止に追い込まれた」、「ロックダウン中にオンライン宅配事業が急拡大し、顧客が奪われた」などと、FMの苦境を伝える情報が目立つ。
一方、「街にFMが戻ってきた」、「野外のFMの方がソーシャル・デスタンスを確保できて安全だ」、「パンデミックで地元産の農産物に消費者の関心が高まっている。オンラインで買えるFMも増えた」、「(閉鎖の危機に陥ったシカゴ・リンカーン地区のFMを守ろうと、地元商工会議所が)50~200ドルの割引券を販売する"マーケット友の計画"を展開する」など、FM支援の記事を積極的に報じるメディアも少なくない。
他方、コロナ禍によって大きく変化した市民の食品購入傾向が、今後のFM事業へどのような影響を及ぼすのかが注目されている。
食の市場に起こる「15の変化」
スーパー業界などの専門家は、「2021年以降に農家が期待できる15の食の傾向」(後掲注参照)として、次のような人気商品や消費者の新たな購入傾向を挙げる。
(1)免疫力をあげる食品(きのこ類、柑橘、オメガ3入り幼児食など)
(2)目新しい食材(おやつ感覚で食べられるトマトや珍しい香辛料など。家庭料理の機会が増えた消費者が目新しい食材や味を試す)
(3)有機農産物(健康志向人口の増加で、有機アスパラや有機ベビーブロッコリーなどが人気上昇)
(4)商品の多様性重視(青果物の売り場では多様性が鍵に。SNSなどで情報を得た消費者が食べたことのない野菜などを買う)
(5)こだわり朝食(「ゆっくり朝食を楽しむ」在宅勤務者が増え、チャーハンやオランダ風ベビーパンケーキ、朝食サラダなど、非日常的な朝食が人気に)
(6)地元産志向(スーパーでは「ゴー・フレッシュ、ゴー・ローカル」などのプレートが目立つ。中西部のある店舗では、400キロ圏内で生産された青果物に"地元産"のラベルを貼る)
(7) 菜食主義志向(ベジタリアン風の家庭料理が人気。"コロナ太り短期解消計画"がブームに)
(8)料理疲れで高まる食肉需要(外食や客を招いたレストランでの夕食会、友人とのバーベキューなどの機会が増え、21年は食肉ブームが到来)
(9)続くネット通販(ネット通販に慣れた消費者の間では、一つの選択肢として定着する)
(10)お好み商品の変化(一時的な流通混乱や品不足のために、使ったことのない商品を購入する機会が増え、消費者の日用品ブランド志向が弱まっている)
(11)買いだめ志向(コロナ禍で経験した買いだめの傾向は続き、スーパーでは冷凍食品コーナーが今も"売り場の王様")
(12)家庭での料理志向(台所のリフォームや食堂のテーブル・椅子の購入者が増えている)
(13)親世代レシピへの回帰(家でのパン作りやパスタ作り、食品の缶詰作り、鶏飼いなどが流行。昨年はパン焼き器がヒット商品に)
(14)環境に優しく持続可能な方法で生産される食料品の優先購入
(15)レストランの小売り志向(家庭料理用の食材セットや食後のカクテル、デザートなどを販売するレストランの"ミニ食材店機能"はコロナ後も残る)
ただし、こうした傾向は主としてスーパー業界の見立てであり、ネット通販事業の動きをそれほど重視していない。だが、食品産業の年間伸び率が3~4%のなかにあって、ネット食品通販はコロナ前から年率15~20%も伸びていた。2019年の同通販の販売額(622億ドル)はすでに、FMやその他の直売を含めた農家の直売総額(17年センサスで118億ドル)の5.2倍を超えていた。
こうしたなか、今回のパンデミックを機に、米国でのネット食品通販の販売総額は、24年に1800億ドルを大きく超えるとの予測が登場した(表参照)。
米国のFM事業は確かに急拡大したが、パンデミック前の15年前後からその伸びはほぼ頭打ち状態にあった。その要因はFM間の過当競争や、「夏季限定」・「毎週1回」というFMの一般的な開催方式にあるとされてきた。
筆者は拙稿『アメリカ農業と農村の苦悩』(20年2月)のなかで、アマゾン・フレッシュなどの宅配企業とFMとの競争激化を指摘したことがあるが、ネット食品通販が20年に54%も激増するとは、予想だにしなかった。今後、この事業規模が予測通り増大することになるなら、米国ではFM淘汰の時代が早めに到来してしまうかもしれない。
(注) Betsy Freese, Successful Farming, June 14, 2021, 15 FOOD TRENDS FARMERS CAN EXPECT IN 2021 AND BEYOND
重要な記事
最新の記事
-
ある「老人」のこの春【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第324回2025年1月16日
-
市場価格は「ないと高いがあると安い」【花づくりの現場から 宇田明】第51回2025年1月16日
-
キャベツの高値いつまで 出荷増えるが小玉多く 産地のJA、農家の声2025年1月15日
-
深刻な「米」問題【小松泰信・地方の眼力】2025年1月15日
-
食品産業の海外展開と訪日旅行者の食消費を新たな柱に2025年1月15日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第105回2025年1月15日
-
グルテンフリー、豊富な食物繊維が取れる低GI米粉パン「WE米蒸しパン」新発売 JA北大阪2025年1月15日
-
岩手三陸地域の商品を全国へ「JAおおふなと」送料負担なしキャンペーン実施中 JAタウン2025年1月15日
-
栄養たっぷり和歌山の冬採れ野菜「和歌山フェア」17日から開催 JA全農2025年1月15日
-
くしまアオイファームと協業 冷凍自販機を活用したさつまいも商品を販売 JA三井リース2025年1月15日
-
LINEでカンタン応募「栃木のいちごで愛を伝えようキャンペーン」実施 JA全農とちぎ2025年1月15日
-
「いちごフェア」産地直送通販サイト「JAタウン」で開催2025年1月15日
-
「JAアクセラレーター第7期」募集開始 あぐラボ2025年1月15日
-
役員人事および人事異動(2月26日付) 北興化学工業2025年1月15日
-
精神障害者の自立と活躍へ 農福連携で新たなモデル提供 ゼネラルパートナーズ2025年1月15日
-
全国の児童館・保育園へなわとび・長なわ寄贈 こくみん共済 coop〈全労済〉2025年1月15日
-
宮城県農業高校がグランプリ 第12回「高校生ビジネスプラン・グランプリ」開催 日本公庫2025年1月15日
-
「幻の卵屋さん」川崎、田町に初出店 日本たまごかけごはん研究所2025年1月15日
-
「これからの協働による森林づくりを考える」シンポジウム開催 森づくりフォーラム2025年1月15日
-
インドの農業機械製造会社CLAAS Indiaの買収が完了 ヤンマー2025年1月15日