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農政:シリーズ

【バイデン農政と日本への影響】第14回 新規参入農家への支援を強化するバイデン政権――農務省地方スタッフによる徹底した「マンツーマン方式」 エッセイスト 薄井 寛2021年8月17日

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マイノリティ(少数者)の利益擁護など多様性重視を選挙公約の一つとしたバイデン大統領は、黒人農家に対する差別是正など農業政策でも公約実現を進めている。

農業就業者の27%を占める新規参入の生産者

この関連で注目されるのが、規参入農家へのきめ細かな支援策だ。

「就農経験10年以内」と農務省が定義する新規参入農家は34万戸(2017年センサス、総農家204万戸の17%)、新規参入生産者は89.8万人(就農者総数339.9万人の27%)を超え、このうち35歳以下の青年農業者は約26万人だ。

米国でも農家の高齢化は進むが、日本ほど深刻ではない(1992年から2017年の間に、農家の主たる就農者の平均年齢は53.3歳から59.4歳へ)。また、後継者不足がそれほど問題視されないのも米国農業の一つの特徴といえる。有機農畜産物の販売など、ニッチ(すきま)市場に活路を見出す新規参入農家が微増を続けてきたからだ。

問題なのは新規農家の不足ではなく、彼らが営農を持続できるかどうかの経営問題だ。まず、新規農家の特徴と直面する課題の概要から見てみよう。

17年センサスが明らかにした新規農家の特徴は、(1)小規模経営(平均耕作地は約49ha、全米平均の27%)、(2)農家の主たる就農者の平均年齢は49.1歳(新規参入以外の既存の農家は61.9歳)、(3)大卒以上の高学歴者の割合は36.2%(既存農家は26.8%)で、新規青年就農者の96%が白人、④兼業収入への高い依存度(新規農家の総収入約1600万円の77%が兼業収入、既存農家は総収入1680万円の56%)、(5)少ない農畜産物の販売額(新規農家の67%が110万円以下、既存農家の場合は52%)(表参照)、(6)有機農業やファーマーズ・マーケット等を通じた直売事業を積極的に展開(有機と直売に占める新規農家の販売シェアは26%、22%)、(7)スマート農業やIT等の新技術導入に積極的であることだ。

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一方、新規参入農家はさまざまな課題に直面している。(1)資本不足による困難な規模拡大(21年全米平均の農耕地価格はエーカー当たり4420ドル、ha当たり約120万円、前年比7.8%アップ)、(2)農務省の融資や作物保険補助などさまざまな公的支援に対するアクセス上の問題(主な要因は情報不足)、(3)安定かつ収益性の高い販売先を確保できず、農畜産物の販売収益率が相対的に低いなどが、主な課題とされている。

専門スタッフによる個別支援

新規参入農家に対する農務省の主な支援策は、農業融資の提供、作物保険への加入促進、農地保全指導、および農業災害補償の4分野だ。これらの支援を新規農家へ提供するうえでバイデン政権が力を入れる方策は二つある。

一つは、新規参入農家専用のサイトを通じて多様な支援策の周知徹底を図る情報発信の強化だ。「新規参入」、「女性」、「青年」、および「退役軍人」の農家別に4つのページを設けるこのサイトは、補助申請などの関係情報へ"ワン・ストップ"でアクセスできるサービスを提供する。

二つ目は、農務省の専門スタッフによるマンツーマンの相談業務だ。米国の重要な地方行政単位は郡(全米3143郡)であるが、都市部の郡を除く約2300郡に農務省はサービスセンターと呼ばれる地方事務所を設け、農業サービス局の職員約1万1200人と自然資源保全局の職員約1万人が新規農家への相談・支援業務に従事する(同省の職員総数は約9万3000人)。

特記すべきは、「農家と政府を結ぶネット・アカウント」と呼ばれる新規農家のための個人情報登録システムだ。経営や営農に関する地方事務所との相談内容や融資の申請記録、災害補助などの情報が新規農家ごとに収集・管理される。これが個別支援サービスのベースとなっているのだ。

また、農務省は4月13日、コロナ禍救済措置の一環として、農畜産物の国内供給網の再構築を図るため、新規参入農家支援計画に3750万ドル(約41億円)を投入すると公表したが、トランプ前政権には見られなかった支援策である。

中小農家による食料供給網の再活性化策はバイデン農政の一つの特徴であり、そこでは就農者のほぼ4分の1を占める新規参入農家の果たす役割が明確に位置付けられているのだ。

この背景には、農家の多様性を重視するバイデン農政の基本姿勢があるとともに、地方選挙区におけるトランプ岩盤支持層の切り崩しを図ろうとする政治的な狙いがある。

しかしながら、新規農家をめぐる状況は容易ではない。農業の景気回復とともに農地価格が上昇へ転じ、経営規模の拡大がいっそう困難になっているからだ。それに加え、農業構造の「二極化」そのものが新規農家の規模拡大を阻む要因となっている。

米国では農地の40%近くが借地に出されている。これが大規模農家のさらなる規模拡大を可能にしてきたわけだが、農地の賃借料はほぼ毎年上がり続けている(2011~21年にエーカー当たり111ドルから141ドルへ。ha当たり3万円から3万8300円)。"農地のリース業"で老後を暮らそうとする中小農家が増えるなか、資本力の弱い新規農家は大規模農家との"借地競争"に勝てないのだ。バイデン農政はまだ、この課題へ挑戦する施策を示していない。

★本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
エッセイスト 薄井 寛【バイデン農政と日本への影響】

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