農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
【ウクライナ危機!食料安全保障とこの国のかたち】岸田内閣の経済被害への「危機意識」は皆無(1) 藤井 聡2022年3月16日
ロシアのウクライナへの侵攻で、多数の犠牲者が出る深刻な事態が続き、穀物市場で小麦などの価格が急上昇している。こうした事態に日本政府は臨機応変に対応していると言えるのか。藤井聡・京都大学大学院工学研究科教授に寄稿してもらった。
京都大学大学院工学研究科教授
藤井聡 氏
写真:内閣官房HPより
岸田首相は令和4年3月10日、東京都の豊洲市場を視察し、原材料や食品が相次ぎ値上がりしていることについて「新型コロナの影響とウクライナ情勢による影響とダブルパンチに見舞われているという話を伺った」と述べたそうだ。そして、「緊張感を持って、政府として対応を準備していかなければいけない」と述べたそうである。
大変結構なことだ。
この部分だけ見れば、速やかに効果的な対策を準備し、それを実施していくのだ、と大いに期待することだろう。
では一体岸田氏が何をいっているのかを、具体的に確認してみると、実にその内容はお粗末な内容なのだ。岸田氏の発言はこうだ。
「特に、ウクライナ情勢については状況が不透明で長期化するおそれがあることを考えると、実情の把握が重要だ。原材料費の価格高騰について、進めている激変緩和措置などの対策の効果を見極めながら考えるが、追加の対策について、引き続き準備をすることが重要だと感じた。緊張感を持って、政府として対応を準備していかなければいけない」
実に回りくどい表現だが要するにまとめると、
1)ウクライナ情勢は長期化しそうだから、その「実情の把握が重要」だ。
2)進めている激変緩和措置などの「対策の効果を見極める」。
3)政府として緊張感を持って「対応を準備」していく。
という事になる。つまり、岸田氏がやると言っているのは、「実情の把握」であり「対策の効果を見極める」事であり、それらを踏まえた「対応の準備」に過ぎないのだ。
つまり、「対策を速やかに実施する」とは結局一言も言っていないのである。
なんと緊張感の無い発言なのだろう。
「緊張感を持って」という言葉を使っているところが、さらに、岸田氏の緊張感の無さを逆説的に強調しているかのようでもある。
この発言は、実情の把握が終わらなければ、対策をしないと言っているに等しいものだ。
同時に、対策の効果を見極めて、追加対策の必要性が明らかにならなければ何もしないと言っているに等しくもある。
さらには、実情が把握され、追加対策の必要性が明らかになったところで、実施するのは「準備」に過ぎない。準備をしたところで、それをいつ推進していくのかは、依然として判然としないのである。
この発言後に岸田内閣が一体何をどうするのか不明だが、この発言の重要なポイントは、やらないことの言い訳、いわば、いくつもの「逃げ道」が用意されているという点だ。
例えば、結局何もやらず、それで他者からエラク批判されたとしても、上記の様にさえ言っておけば、実情の把握が十分出来なかったからとか、今やっている激変緩和措置の効果の見極めができなかったからだとか、激変緩和措置の効果があるという事が一定程度確認できたからだとか、準備を行っているうちに価格が下落し始めたからとか、最終的に準備したものを実施するためには、さらなる検討が必要だったからとか......のらりくらりとあらゆる言い訳ができる様になっているのだ。
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