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農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち

今こそ減肥の大号令と自給飼料の大増産を(2)東山寛・北海道大学農学部教授【ウクライナ危機】2022年4月4日

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実は、白書が輸入に依存した肥料原料の問題を取り上げたのは久々だ。2008年(上述した2回目の時期)に肥料高騰問題が発生し、2011年版の白書で「国内資源の有効利用」と「海外原料の安定確保」を柱とする「総合的な肥料確保戦略」の重要性を提起している(108頁)。以降、3~4年はこの問題を取り上げたが、2015年版を最後にその姿を消した。残念なことに、TPP対応の「農業競争力強化プログラム」(2016年11月)が作成され、農政の関心は「生産資材価格の引下げ」に移っていった。まったく無駄な時間を過ごしたものである。

図 生産資材・農産物価格指数の動き(2015年=100).jpg

農産物価格下がっても資材下がらず

今回、肥料問題が改めてクローズアップされた背景は、肥料原料の確保が難しくなっているという現実問題が大きい。図は農水省の農業物価統計調査から作ったものだが、2015年を100とした指数で見ると今年1月時点で無機質肥料は108、飼料は119、光熱動力は121になっている。昨年に入ってから飼料・光熱動力は一貫して上昇し、無機質肥料は昨年後半から上昇傾向が明確になってきた。他方、代表的な農産物であるコメの価格指数は新米の出回り期(昨年8月)から急落している。農産物価格が下がっているのに資材は下がらず、高止まり状態が続く。私たちの業界(農業経済学)ではこうした現象を「シェーレ」(ハサミ状価格差)と呼んできた。看過し得ない事態が進行しているということだ。

リン酸アンモニウム(りん安)については、中国の国内優先政策による影響が大きい。りん安は大体9割を中国に依存しているが、昨年10月から実質的な輸入停止状態になっている。全農は春肥原料を確保するため、代替輸入先のモロッコからりん安の緊急調達を行った。調達価格も上がっているはずだが、系統内部の積立金を取り崩して供給価格を据え置くようだ。しかし今後、中国からリンが入らず、経済制裁を受けるロシアとベラルーシからカリも入らないということになると、無資源国・日本のいちばん弱い部分がさらけ出される。農業分野で自給できる埋蔵資源は石灰だけである(自給率100%)。

アグフレーションに対応する「みどり戦略」

アグフレーションに対応した農政の再構築が必要だ。コストアップを吸収する当面の対策がまず必要だが、抜本的な方針転換も必要だ。筆者は、農水省が突然打ち出した「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)がそれに対応するものだと思っている。戦略本文に出てくる「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料」の使用を低減することは、今の時代にマッチしている。

2050年目標の「有機農業100万ha」も夢を見ているわけではなく、現実対応だろう。要するに、化学肥料への依存を減らすための有機農業ということだ。道内でホクレンが発信している営農情報によれば、牛ふん麦稈堆肥1トンから供給される肥料成分(10a当たり)は窒素が1kg、リン酸が3kg、カリが4kgに相当する。農学はもともとテーアの「合理的農業の原理」から出発しているわけで、19世紀初めのテーアの時代には堆厩肥と石灰しかない。そこまで戻るわけではないだろうが、基本に忠実になるだけである。

ただ、有機農業一辺倒では現場に伝わらない。目標を現実に合わせて、今こそ減肥の大号令をかけるべき時である。もうひとつは自給飼料の大増産が必要だが、水田転作助成の仕組み変更(いわゆる「5年縛り」や牧草助成単価の引き下げ)はそれに逆行している。もはや紙幅も尽きたので問題点を指摘するだけに留めるが、アグフレーション時代にふさわしい農政の再構築が必要であることを最後にもう一度強調しておきたい。

今こそ減肥の大号令と自給飼料の大増産を(1)東山寛・北海道大学農学部教授

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