農政:バイデン農政と中間選挙
【バイデン農政と中間選挙】輸入増で減り続ける米国の野菜生産~ビザ制度改革求める農業団体【エッセイスト 薄井寛】2022年4月6日
米国の生鮮野菜の輸入増に歯止めがかからない。国内産の競争力低下とNAFTA(北米自由貿易協定、1994年)によるメキシコ・カナダからの輸入促進に加え、労働力確保の問題があるからだ。
減少する不法移民の農業労働者
2021年の野菜輸入量は891万トン(前年比8.9%増)。2016~21年に24%増え、主要野菜(26品目)の国内生産量は16%も落ち込んだ。例えば、トマトの二大生産州(カリフォルニアとフロリダ)を見ると、収穫面積がそれぞれ15%、25%も減っている。
農業機械化の最先端を行く米国でも、収穫作業などで多くの労働者に依存せざるをえないのが実態だ。その農業労働者は次のような現況にある。
(1)大規模農家を中心に約60万戸の農家(総農家約200万戸の30%程度)が労働者を雇用(野菜農家の総数は7.4万戸)。
(2)繁忙期の短期従事者を含む農業労働者の総数は推計で200万~260万人(このうち、常雇いの農業労働者は110~120万人)。
(3)農業労働者の多くは中南米諸国からの移民(70%以上がメキシコ系)。推計で同労働者の25%が米国生まれの移民、20%が短期滞在の労働者(原則1年以内の滞在を認める季節農業労働者用のH-2Aビザ取得者)。残りの50%以上が不法移民労働者。
(4)1990年代以降、収穫作業などの機械化促進で移民労働者は年々減少。2007年の米国金融危機や、メキシコ等での農業人口の減少と高齢化、17年1月誕生のトランプ政権による厳しい移民抑制策、それにコロナ禍も加わって特に不法移民の流入が大幅に減少した(2007~17年に不法移民の総数は推計1220万人から1050万人へ減少)。
H-2Aビザ制度に反発する農家
こうした状況を踏まえ、移民抑制策の転換を掲げたバイデン大統領は就任直後から議会へ法改正を働きかけ、昨年3月18日に「2021年農業労働者近代化法」の制定にこぎつけた。同法によって、10年以上米国内に不法滞在する農業労働者も労働許可証の取得が可能となるなど、いくつかの改善がなされた。
その結果、H-2Aビザ取得の合法的な季節農業労働者も2021年度に31.7万人を超えた。20年度より15%増え、13年度比で3倍増だ。
しかし、H-2Aビザ取得者は農業労働者全体の15~20%ほどに過ぎず、生産現場の労働力不足が大きく改善したわけではない。
背景には米国経済の急速な回復がある。有効求人倍率が2.7倍を超えるなか、多くの不法移民労働者が農業の現場作業を回避しているのだ。
一方、生産資材のインフレが高進するなか、H-2Aビザ制度に反発する農家が増えてきたと伝えられる。
農家の不満が募る第1の問題は煩雑な手続きだ。米国人の優先的な雇用を義務付けられる雇用者(農家)は、必要な労働力を米国内で確保できないことを証明するために自ら求人活動を実施したうえで、75日前までにH-2Aビザ労働者を必要とする時期等を付して連邦労働省へ申請しなければならない(それでも、役所の事務作業の遅れなどで労働者の到着が間に合わないケースが多発している)。
第2は農家の重い経済負担だ。農作業の現場にはトイレ・手洗い場(20名の労働者当たり各1カ所)や給水施設、連邦・州の衛生基準を満たす宿泊施設の設置、それに労働条件等の文書提示などの受け入れ準備に加え、労働者の渡航費・米国内交通費、労働省への雇用申請費(100ドル+労働者1人当たり10ドル追加)、申請手続きの代理弁護士費用など、農家側は多くの負担を強いられる。
第3は賃金問題で、これが最も切実だ。農家は季節労働者に対し州内の最低賃金か、当該地域の前年の農業労働者の平均賃金(AEWR、連邦政府が毎年提示)のいずれか高い方を支払わなければならない。
「悪影響を与える恐れのある賃金水準」を意味するAEWRとは、米国内の類似の労働者の賃金へ悪影響を与えないために季節労働者へ一定水準以上の賃金支払いを農家側に義務付けるものだ。
今年度のAEWRは全米平均で時給15.56ドル(約1800円、昨年度比6%高)だが、西部農業州のカリフォルニアやワシントンでは17.51ドル、17.41ドルとさらに高い(なお、各州の最低賃金は15.0ドル~5.15ドルとAEWRを下回る)。
大規模農家の利益を代表し、農業労働問題のロビー活動を主導する全米最大の農業団体(ファームビューロー)は、毎年上昇するAEWR(2013~22年度に44.1%アップ)の仕組みに強く反発する。AEWRは畜産農家で働く高賃金の労働者や月給制の農業労働者を含めた多様な労働者の平均賃金であり、単純な収穫作業などの労働賃金を過剰に引き上げていると指摘。仕組みそのものの改善を関係議員等へ強く働きかけている。
米国農業界には肥料や燃料などの高騰に加え、農業労働力のコスト増問題を11月の中間選挙の争点に仕立てようとする思惑があるが、その通りに進むかどうかは不透明だ。
コロナ禍のなかで移民労働者の権利擁護団体の運動は従来にも増して強まっており、この運動を支持する与党民主党議員も少なくないからだ。
3月の失業率は3.6%とほぼ半世紀ぶりの低水準。時間当たりの全米平均賃金(4月1日公表)も31.73ドル(約3800円、前年同月比5.5%高)だ。今後の賃金動向次第では、農業労働力のコスト増が野菜生産の低迷へ拍車をかけることになるかもしれない。
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