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農政:バイデン農政と中間選挙

【バイデン農政と中間選挙】地方選挙区対策強めるバイデン政権~影響力持続のトランプ氏【エッセイスト 薄井寛】2022年5月11日

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バイデン大統領は4月11日、「アメリカが成功するためには、ルーラルアメリカ(アメリカの地方)が成功しなければならない。・・我が政権はここに〝地方インフラ・ツアー″を開始する」と宣言した。

弱者重視のインフラ投資の広報活動

インフラ投資雇用法(2021年11月)に基づく事業の具体化に向け、関係閣僚等が各州の地方自治体や農業団体などを訪問。地元の指導者たちと協議するのがインフラ・ツアーの目的だ。

同法の予算規模は今後5年間で1兆2000億ドル(新規の5500億ドルと既存予算6500億ドルの合計、約150兆円)。その多くが道路、鉄道、橋梁、空港など運輸省傘下のプロジェクトへ投入される(表参照)。

米国インフラ投資雇用法の事業別新規予算一方、農務省所管の予算は高速データ通信網の農村配備(20億ドル)などの83.7億ドル(全体の0.7%)に過ぎない。

だが、350を超える投資事業計画の実施地域は、その多くが地方都市や農村部と重なり、農産物の生産・流通に不可欠な道路や河川流通・灌漑施設等の修復事業にも多額の資金が使われる。

このため、地方自治体をはじめ多くの農業団体や関連企業は、「年間150万人の(給与の)より良い雇用を創出する」インフラ投資の経済効果に期待感を強めていると伝えられる。

こうしたなか、大統領府が進めるインフラ・ツアーの展開は際立った特徴を見せる。それはルーラルアメリカの低・中所得層をねらったメッセージの発信であり、11月の中間選挙に向けた地方選挙区対策の色彩を強めるものだ。三つの動きを紹介しよう。

一つはハリス副大統領の動きだ。4月に入り、副大統領はミシシッピやルイジアナなど野党共和党の牙城ともいえる南部諸州を次々と訪問。インフラ投資とは無縁とも思える人口数千人の〝寒村″へ足を運び、小規模事業の振興を通じた農村活性化策について地元住民たちと意見を交換した。

二つ目はビルサック農務長官の過疎地訪問。人口減少の選挙区を積極的に訪問して高速通信網の配備や山林火災対策、農村総合病院の経営再建などの投資計画をアピールする。今までの開発事業で忘れられてきた〝弱者″に対し、農務長官は意図的に光を当てているのだ。

中小農家へ訴えるバイオ燃料の増産対策

三つ目はバイデン大統領の中西部訪問だ。大統領は4月12日、アイオワ州の州都デモインから西へ80キロほど離れた、人口400人足らずのメンロ村にあるエタノール工場を訪れ、「(スモッグなどの大気汚染を悪化させるとして夏季の販売禁止が予定されていたトウモロコシ由来の)エタノール15%混合ガソリン(E-15)の販売を認める」と、方針を転換した。

同時に大統領は、ロシア産燃料の輸入禁止でさらに高騰するガソリン価格を抑えるため、バイオ燃料の生産増でエネルギー自給の方針を打ち出したのだ。

ガソリン価格はこれで1ガロン(約3.8リットル)当たり10セント(2%強)ほどしか安くならないが、価格暴騰へ一定の歯止めがかかると期待するメディアは大統領のメンロ村訪問を大きく報道した。

さらに農業関係メディアは、大統領の同村訪問と同時に農務長官が公表したバイオ燃料供給拡大策に焦点を当てた。

その主なポイントは、①8州のガソリン販売店に対するE-15販売補助金560万ドル、②中小のバイオ燃料生産工場への補助金7億ドル、③(主として大豆油由来の)航空機用バイオディーゼルの生産増大投資の43億ドルにある。

農務長官が発したメッセージの主な対象も中西部の中小農家と彼らが組織する農協であった。理由は二つある。

第一は、これによってエタノール用のトウモロコシとバイオディーゼル用の大豆の高値が中長期的に続く可能性が高まるからだ。「2030年までに航空機用のバイオディーゼルの国内生産を30億ガロン以上(20年の18億ガロンの1.6倍)へ増大する」と、農務長官は明言した。搾油用の大豆供給が今後大幅に増えていくのは間違いない。

第二は、中小の農協系エタノール工場にとって経営の安定化と生産増大の可能性が高まるからだ(20年12月現在、米国で稼働する202のエタノール工場のうち農協系は93。その大部分は大手工場の半分以下の小規模工場)。

しかし、バイデン政権のこうした地方選挙区対策が中間選挙までに効果を発揮するかどうかは不透明だ。トランプ岩盤支持層の勢いが衰えていないからだ。

それを強く印象付けたのが5月3日オハイオ州で行われた中間選挙の上院予備選挙だ。民主・共和両党の候補者をそれぞれ決めるこの予備選で、トランプ前大統領の推薦する共和党のJ.D.バンス候補が7名中2位の同党候補者に8.3ポイント差で勝利したのだ。

反トランプの共和党議員を予備選で落選させ、党内での影響力堅持を狙う前大統領の〝政治活動″はさらに強まると予想される。

それを支えるのが巨額の政治資金。3月末現在、前大統領の政治団体が集めた献金は1億2400万ドル(約160億円)。共和党全国委員会の4500万ドルの2.7倍だ。

低・中所得層へ訴えるインフラ・ツアーがトランプ岩盤支持層をどれだけ切り崩せるか。ルーラルアメリカを舞台にした政権与党の中間選挙対策は今後いっそう強まっていくものと思われる。

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