農政:森田実と語る!どうするのかこの国のかたち
カーボンニュートラルは農業にも求められる時代に 山口壯・環境相【森田実と語る】2022年6月23日
政治評論家の森田実氏が、各界のキーマンと語るシリーズ「森田実と語る!どうするのか この国のかたち」。今回は、山口壯環境相にインタビューした。昨年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の合意に一定の役割を果たした日本の環境問題のリーダーは、地球温暖化対策への意欲とともに、環境問題と密接に関連する農業にもカーボンニュートラルの取り組みが求められる時代がくると指摘した。
(敬称略)
山口壯環境相
脱炭素を制するものは次の時代を制する
森田 早速ですが山口大臣が考える環境ビジョンがあると伺っています。まずそこからお話しください。
山口 環境にはたくさんの分野がありますが、まず今大きいのは地球温暖化対策です。私は「脱炭素を制するものは、次の時代を制する。グリーンを制するものは、世界を制する」と言っていますが、日本がこれからいかに世界の中で存在感を高めていくかを考えるときに地球温暖化対策は最も大きな分野の1つと思います。
COP26で、産業革命前からの気温上昇を「1.5度」に抑える努力を追求することの重要性を再確認し、1.5度を目指すことが各国の共通目標になりました。また、市場メカニズムのルール合意に関しては、日本の提案が決定文書に反映される等、COP26の成果に大きく貢献し、COP26全体の取りまとめに向けたリーダーシップという点でも大きな意味がありました。
これを受けて国内の体制を整えて2030年、50年に向けてしっかり実行していくことになります。令和4年度は、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金に200億円、脱炭素化支援機構の創設に財政投融資を活用して200億円と財源を確保しながら地球温暖化対策の推進を進めていく、これは相当大きな動きです。
森田 具体的にどのような動きが進んでいくんでしょうか。
山口 国内に地方環境事務所が7つありますが、70名を増員する「地域脱炭素創生室」を設置しました。地に足のついた、地方と密接につながっている脱炭素とまちおこし、これが連動してこれから実行段階に入ります。脱炭素だけではなくまちおこしに繋げるところがポイントです。
例えば農業関係でいうと秋田県大潟村では、もみ殻を燃やしたエネルギーをまちおこしにつなげていく。北海道鹿追町では、畜産から出る糞尿からエネルギーを取り出していく。地域の脱炭素とまちおこしが両立するように取り組んでいますし、農業関係の取り組みもかなり入ってきています。
森田 日本が率先して地球温暖化対策に取り組んでいく姿勢が感じられます。
山口 対外的には岸田総理が「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を掲げています。日本がアジアの国々と脱炭素の技術を共有し、コラボして脱炭素を進めると同時に産業基盤の整備を手伝って共同体をつくる、これも大事なことです。今、新しい資本主義と言われていますが、自分さえよければいいという資本主義によって二酸化炭素を出し放題にしたことで地球全体で大きな問題となりました。それを変えて環境保全にみんなで取り組む、そこで日本がリーダーシップを発揮していくことになります。
2人の対話の様子
森田 戦後の歴史を研究すると、1970年頃に「ローマクラブの報告書」が出ました。また、シューマッハの「スモールイズビューティフル」がベストセラーになって高度成長が生んだ公害と環境保全の闘いが始まると思っていたらサッチャー革命やレーガン革命に飛ばされてしまいました。その後、ジョージ・ソロスの「世界秩序の崩壊」がベストセラーになりましたが、この副題が「自分さえよければ社会への警告」でした。今のカーボンニュートラル、脱炭素は、まさに「自分さえよければ」という思想の克服に向けた大きな転換点にあると思います。
山口 戦後の新しい秩序をもう1回作らなければいけないと思います。大きく3つ挙げると、武力行使を禁止した国連憲章、自由貿易のWTO、それとドル基軸体制がありますが、今、全部変容を迫られています。
まず国連の機能を回復させる。これは安保理事会を機能させるということで、拒否権の問題をどうするかですが、これをなくそうとしてもうまく進まないでしょう。しかし非常任理事国を増やして安保理事会の3分の2、もしくは4分の3の多数で拒否権をオーバーライド(覆すこと)できるという国連の改革は可能だと思うんです。
非常任理事国を含めて25カ国に増やして拒否権をオーバーライドできる規定を入れると、安保理事会は機能するようになります。まさにこのことを言えるのは日本だと思います。1か国の拒否権で国連が機能不全を起こすよりずっとよくなりますね。
森田 期待しています。ところで山口大臣は農業についても詳しく、「農業イノベーション」を提唱されていると聞いていますが、どんな内容でしょうか。
山口 一言で言うと微生物にもう1度頑張ってもらうという話です。戦後、化学肥料を使いすぎて土の中の微生物が減ってしまったらしいんですね。まず土の中の化学物質を落とす。水を張って根っこが届かないところまで沈殿させればOKだそうで、その土でもう1度微生物を働かせる。こうすることで栄養価の高い野菜が育つわけです。現実的に取り組んでいる方もいて、青森のニンニクの糖度は元々通常より高くて22%位あるそうですが、このやり方で育てると42%まで高められるそうです。こうなると薬と同じなんですね。こうした取り組みを広げて栄養価の高い野菜を食べることで日本人の健康につながる。これが農業イノベーションです。
森田 なぜそうした農業イノベーションを考えるにいたったのでしょうか。
山口 実際に取り組んでいる方から聞きました。私の地元。兵庫県でも取り組もうとしている農家がいますし、日本にとって非常に大事なことだと考えています。実際にこのやり方でトマトをつくってニューヨークに持っていったら飛ぶように売れたと聞きました。米国人は元々安全でおいしい日本のものを買ってくれると言われますが、さらに栄養価の高さが加わることで、より高くても買おうという方が増えてくると思います。
森田 今、農業の世界でもカーボンニュートラルにつながる取り組みが求められていると言われています。環境問題の視点から農業にどんなことを期待しますか。
山口 まず1つはウクライナ情勢を踏まえると自立した食料体制、国産の食料自給体制を整える必要があります。今カロリーベースで自給率が37%まで落ちていますからこれを高めることが大切です。
それと輸出を考えたとき、これからはカーボンニュートラルのやり方で作った農産物というのは多分マストになってきます。例えば皮革産業が盛んな兵庫県たつの市は、昔ながらの製法では排水に問題があるとして市レベルで処理施設を作って水をきれいにして流すことにしました。実は世界各地で皮革は作られていてもここまで取り組んでいるのはイタリアの一つとたつの市しかないそうです。こうなるとメーカーも環境に配慮したたつの市の皮革しか使いませんとなってくるわけです。
同じようにカーボンニュートラルのプロセスで作られた農産物がマストになってくる、いずれカーボンニュートラルで作られたかどうかの表示も求められることになると思います。
森田 環境問題を考えるとき自然環境のよさとともに科学技術力、イノベーション力も必要です。私は日本中を旅行していますが、例えばこの両方を兼ね備えている山口大臣の地元の兵庫県西部あたりで世界環境大臣会議を開いたらいいのではないかと考えています。「赤とんぼ」の作詩者、三木露風の生誕地でもありますし、世界的にもアピールできるのではないでしょうか。
山口 たつの市には、科学技術の発展を支える研究施設が集まるテクノ、播磨科学公園都市というのがあって先端技術と伝統と自然が一体になっている場所です。世界環境大臣会議という発想は私にはありませんでした。すごい発想だと思います。
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