農政:小高根利明の語ろう日本農業の未来--アグリビジネスの現場から
「たまごだけじゃない企業へ」殻破り新たな事業を JA全農たまご・小島勝社長【小高根利明の語ろう日本農業の未来】2022年8月2日
「物価の優等生」といわれ、食卓に欠かせないたまごだが、今、世界的な資材高騰などの波にもまれている。たまごの流通量日本一を誇る「JA全農たまご」は、「つくる人」「売る人」「食べる人」すべてを支えることを経営の柱に掲げ、たまごの安定供給に努めてきた。資材高騰に人口減少など先行きが不透明な中で、今後、どんな事業展開を目指していくのか。今回の「小高根利明の語ろう日本農業の未来~アグリビジネスの現場から~」は、同社の小島勝社長に今後の事業戦略などを聞いた。(聞き手・小高根利明本紙客員編集委員)(敬称略)
JA全農たまご 小島勝社長
全国的調整でたまごを安定供給する使命
――たまごは長年物価の優等生と言われてきましたが、背景には生産者や流通サイトのたゆまぬ経営努力があると思います。ただ、最近はエネルギー価格や飼料価格の上昇など環境が激変しているのに加えて、鳥インフルエンザも各地で頻発しています。業界も厳しい状況を迎えているのではないでしょうか。
小島 まず「物価の優等生」と言われる点については、一番大きいのは鶏種の改良が進んだことだと思います。それと鶏舎のシステムなど飼養管理や生産技術の向上といった生産者の方々の努力が非常に大きい。現在、国民1人当たりが食べるたまごの量は、日本は年間340個とメキシコに次いで世界2位です。特に日本は生食の文化がありますので、衛生的に効率よく生産流通販売するシステムを生産者の方々に作っていただいたと考えています。
鳥インフルエンザについても、1度発生すると農場ごと処分しないといけなくなるため、まさに生産者が一番注意して管理されていますが、最新鋭の防衛システムを取り入れた農場ですら発生してしまうことがあります。こうした事態に対し、当社は、全国各地の生産者と取り引きしている強みを発揮した、全国調整できる機能があります。例えば関東の大きな農場で発生してたまごの供給がストップしたら東北から、大阪で発生したら中京からなど、こうした全国的調整でお客様になるべく迷惑をかけない形でたまごを安定供給する、これは当社が代々持つ非常に大きな使命だと考えています。
飼料価格の高騰 価格転嫁を取引先に相談
――最近特に大きな課題となっているのが、飼料価格の高騰ですね。生産者が追い詰められ、業界としても対応を迫られているのではないでしょうか。
小島 飼料の高騰には本当に困っています。2年間でトン当たり全畜種平均3万円強上がっています。当社は鶏卵相場を発表していますが、鶏卵相場はコスト積み上げの価格ではなく、需要と供給のバランスなんですね。ですから相場とコストの上昇がアンマッチングしているところがあります。さらに飼料価格が高騰しているときは上昇分を補填する配合飼料価格差補填金がありますが、高止まりしてしまうと補填金が出なくなってしまいます。そうなると全部コストに跳ね返ってきますし、このあたりが一番苦しいと個人的に思っています。当社としては、お取引先さまに価格への転嫁、最終的に売価にも反映させていただこうと昨年から第1弾2弾とお願いをしているところです。
――たまごの需要の動向はいかがなんでしょうか。
小島 やはりコロナの影響で、国内の需要は外出抑制による巣ごもりで外食関係などは相当落ち込みました。逆に家庭内消費はコロナ前に比べ5%ぐらい伸びたと思います。卵の流通は、家庭消費50%、それ以外の加工品や外食などが50%と言われています。その片方が伸びてもう片方が減っている形ですが、やはり全体的には少し減っています。実はコロナ前は需要全体のトレンドは右肩上がりでした。4月以降外食や観光もコロナ前の7、8割まで戻ってきたと言われていますが、それがコロナの第7波でどうなるか、心配しています。
品質管理から「棚割」、食べる人の健康までをフォロー
――続いて経営理念についてお伺いします。会社のホームページを拝見すると、「つくる人、売る人、食べる人を支える」と経営ビジョンに掲げられています。自社以外にまで目を向けて経営ビジョンを語る姿勢に感心させられましたが、具体的にどんな活動を進めているのでしょうか。
小島 当社のポジションから説明しますと、事業モデルとして、常に食べる人のことを念頭に置きながら作る人と売る人の真ん中ですべてをつないでいくことが大きな理念であり、特徴でいうとやはり安定供給なんですね。そのための独自の鶏卵相場であり、複数の仕入れ産地を持ち、販売流通量日本一のリーディングカンパニーとして、日本全国の卵の流通の調整をして安定供給に努めています。
1つ1つをみると、当社はJAグループですからまず作る人が大切です。生産者を支えながら安定的に仕入する。全国のあらゆる規模・種類の生産者と取り引きをする一方で売り場のトレンドを探り、産地に生産計画などを提案しています。また、年に1、2回、品質管理部門の担当者が現地を訪れて衛生管理の状況などを一緒にチェックしながら、高品質で安全安心な商品供給に向けてサポートしています。一方、スーパーなどに対しては売り場スペースのコーディネート、「棚割」と言いますが、こちらの提案も行っています。さらに、顧客満足度を高めて顧客を確保したいというスーパーなどの思いに応えて親子を対象にした料理教室を開くこともあります。
消費者に対しては、やはり卵を一つでも多く食べてもらうことですね。たまごは健康食品として老化防止につながるのではないかという研究もあります。良質たんぱく質が中心ですので、たまごを食べることで消費者の健康にプラスになり、全体のパイが広がることで業界にとってもプラスにつなげたい。たまごに関する正しい知識を伝えたり、最近はSNSでゆでたまごをたこ焼き風にアレンジするという新しいレシピを紹介したところ、大変好評でした。
――たこ焼き風のゆでたまごが学校給食などで出されたら子どもは大喜びでしょうね。そうしたレシピの研究とともに新商品の開発などにも積極的に取り組んでおられるようですね。
小島 当社の商品としては、国産飼料米を使って葉酸やビタミンEなどの栄養を加えた「しんたまご」が発売開始から昨年で30年となり、感謝の意味を込めてパッケージを変えて今後の販売促進活動を検討中です。新商品としては、全農の農協シリーズの「農協たまご」の全国展開をすすめているところです。生産農場を指定し、60項目に及ぶチェックリストで細かく品質管理した「少し贅沢な一品」をコンセプトに販売しています。さらにJA全農が新しい商品ブランドとして展開している「ニッポンエール」の商品として、「とろとろ半熟煮たまご」を8月から販売します。鹿児島県枕崎産のかつお節を使ったこだわりの味付けで賞味期限は30日あり、店頭廃棄ロスを防ぐSDGsの視点からもPRしていこうと準備しています。
「たまご関連カテゴリ」以外も扱う意識改革で新たな事業モデルを
――大変歴史のある会社ですが、時代が激しく移り変わる中で、今後どんな事業展開を進めていこうとしているのか、社長が胸に秘めておられる将来に向けた展望をお聞かせください。
小島 当社では昨年「中長期事業構想2030」をまとめました。2030年の外部環境の変化を見据えると、人口減少に伴い市場は縮小し、簡便な加工品が多くなり、単品だけの営業力は限界になるのではないかと考えました。そこで今までの殻を破ろうという意味で、「たまごだけじゃない企業へ。健康で豊かな食生活を育むたまごから始まる価値ある食の総合提案を行い社会に貢献します」という新たなビジョンを打ち出しました。
実は当社の事業は90%は、たまごの問屋向けや直販などいわゆる殻付きたまご関連カテゴリの事業ですが、素材供給型の殻を破るビジネスモデルに向けた意識改革が必要だと考えています。品質コンサルや新たな加工食品開発など残る10%の部分を2倍に増やしたいと考えています。例えば物流や資材、それに衛生品質管理のノウハウなど、今までの事業領域の殻を破って新しい事業モデルとして展開できるのではないか。もちろんたまごを捨てるわけではなく、今までのビジネスモデルを大切しながら、その殻をいかに破って新しい発想で次のビジネスモデルを作っていくかということです。たまご関連カテゴリ以外の品目も扱っていいんだという意識改革を進めて視野を広げた事業拡大を目指したいと考えています。
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