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農政:バイデン農政と中間選挙

【バイデン農政と中間選挙】米国農政のタブーに挑戦する持続農業の団体【エッセイスト 薄井寛】2022年8月3日

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7月中旬に記録的な熱波に襲われた米国では19日、南中部のオクラホマシティで摂氏43.3度に達し、20日には28州で高温警報が発せられた。また、札幌市とほぼ同緯度の北東部ボストン市も24日、37.8度の高温に見舞われた。

作物保険は今や最大の農家補助

さらに農務省は25日、穀物・大豆の生育遅れに関する情報を発表。7月末現在、ウクライナ産穀物輸出の不透明感と熱波再来の予測も伝えられ、穀物・大豆市場は3~5月以来の高値圏を目指そうとしている。

一方、カリフォルニア州産のコメ価格(短・中粒種)は小麦や大豆をしのぐ勢いで高騰する。2年続きで灌漑用水が不足したからだ。

今秋の収穫面積(約22.3万ha)は昨年比20%減(1958年以来の最低水準)、生産量は25%減(一昨年比37%減)の160万トン(籾ベース)、農家の販売価格は昨年比19%高(一昨年比37%高)と、農務省は予測する。

このため、2022/23年度の輸入量(短・中粒種)は45万トン、前年度比43%増の見込みだ。

このように米国の穀物・大豆市場は、程度の差こそあれ、〝天候相場″の様相をいっそう強め、生産農家の強い関心を引き寄せる。

おりしも、こうした状況のなかで作物保険の掛金補助問題が浮上してきた。そこには次のような事情がある。

〇異常気象による農畜産物の所得減を補うために農務省認可の作物保険会社と契約する農家に対し、その掛金の約60%を農務省が毎年補助する。これを基本とする米国の作物保険制度は約130品目(耕地面積の90%以上)と畜産・酪農部門をカバーし、農家への掛金補助は年間約70億ドル(約9500億円)から95億ドル(2022年度予測、約1兆2800億円)に及ぶ(表参照)。

米国の連邦作物保険制度(FCIP)の下に付保された作物作付面積

〇現行の2018年農業法に基づく農務省の支出のうち、低所得層への補助的栄養支援(SNAP)関係が76%を占めるが、これに次ぐ9%の作物保険補助は農家に対する最大の支援政策である。

〇議会予算局(CBO)は5月25日、2018年農業法の継続を前提とした今後10年間(2023~32年度)における主要政策の収支予測(ベースライン予算)を提示した。2023年農業法案の議会審議ではこのベースライン予算が基準値となるが、支出総額が抑制されるなか、SNAP等の食料支援は微増、作物保険補助は減額後に据え置き、農家の所得政策は微減が提起された。

このため、作物保険に関する下院農業委員会の公聴会(7月20日)で、作物保険会社や穀物等の生産者団体の代表者は同保険の重要性と掛金補助の継続強化を訴えた。

#大規模農家へ集中する補助金支給

ところがこの公聴会の前日、中小の家族経営農家や有機農業、環境保護、農村振興等を支援する全米持続農業同盟(NSAC、100以上の地方組織の団体)が、『作物保険補助の支給上限設定に関する経済分析』と題する意見書を発表。農業関係のメディアがこれを詳しく報じたため、議会や関係団体の強い関心を集めることとなった。

NSACはさらに7月28日、作物保険補助の上限問題に関するオンライン・セミナーを主催し、同保険制度の抜本的な改革の必要性を強く訴えた。そこには主な主張が3点ある。
①農家へ支給される各種の補助金のうち、一戸当たりの支給額に上限設定がないのは作物保険制度だけだ。
②年間約70億ドルに及ぶ掛金補助の60%以上が農家総戸数の10%ほどの大規模農家へ支払われており、不公正な実態にある。
③作物保険の掛金補助に支給上限を設け、節約した財源を農業技術研究や土壌保全、新規参入農家への支援などの優先事業へ振り向けるべきだ。なお、一戸当たり5万ドル(約680万円)の上限設定で政府の掛金補助を25.9%節約できる。影響を受ける農家は3.9%に過ぎない。

NSACの主張をとりまとめたモンタナ州立大学のエリック・ベラスコ教授は、「補助金受給の合法的な抜け穴を放置してはならない」と訴えた。

こうした抜け穴を認めてきた農業法の議会審議には、次のような特徴がある。

(1)低所得層へのSNAP等の食料支援強化を求める民主党の都市議員と、農家への補助政策を守ろうとする民主・共和の農業議員が妥協し、最終調整を図ってきた。

(2)ただし近年は、環境保護や気候変動対策、農村経済の活性化などを重視する議員グループが発言力を増し、穀物・大豆農家の利益を代表する農業議員の影響力は相対的に後退している。

こうしたなかで今回、NSACに結集する各種の地方団体が、作物保険補助への支給上限設定という、米国農政のいわばタブーともいえる課題をワシントンの連邦議会へ突きつけたのだ。

NSACの主張が実現するかどうかは不透明だ。だが、この動きによって中間選挙を前に、農業予算の中身に対するメディアの関心が強まる可能性は高まってきた。

例えば、21世紀に入り米国では各種の収入保険などによる農家所得政策が強化されてきたが、作物保険の掛金補助は農家所得補助の〝二重払い″だとする批判も、NSACの主張に併せてメディアに登場した。

所得政策と作物保険を軸にした米国のリスク管理農政は日本などの先進諸国の農政へ大きな影響を与えてきただけに、掛金補助の上限をめぐる議論が今後の米国農政へどう影響していくのか、注視していく必要がありそうだ。

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