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農政:小高根利明の語ろう日本農業の未来--アグリビジネスの現場から

"現場力"つけ農家ニーズに応じた肥料を 片倉コープアグリ・小林武雄社長【小高根利明の語ろう日本農業の未来】2022年9月14日

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ロシアのウクライナ侵攻や燃料価格高騰などで世界的に肥料原料が高騰し、食料の生産に欠かせない肥料を産地に届ける肥料会社は激しい波にもまれている。さらに「みどりの食料システム戦略」で化学肥料の使用量を減らす流れが加速する中、新たな対応に迫られている。肥料会社の国内最大手「片倉コープアグリ」は、この状況をどう受け止め、打開しようとしているのか。丸紅出身で、2020年6月から社長を務める小林武雄社長に聞いた。(聞き手・小高根利明本紙客員編集委員)(敬称略)

片倉コープアグリ 小林武雄社長片倉コープアグリ 小林武雄社長

――世界的に肥料価格の高騰が続いています。御社の事業にどんな影響をもたらしていますか。

小林 肥料価格の推移を見ますと、この2年間で2倍になっています。2008年にリン安が高騰したことがありましたが、今回は肥料原料の3要素といわれるチッソもリン酸もカリも全部値上がりして大変厳しい状況です。リンは中国が昨年10月から輸出を規制したままで、中国国内の電力不足という問題をみると当分同じ状況が続きそうです。塩化カリもロシア、ベラルーシから買えないのでカナダ一辺倒になり、経費がかかりますし、チッソもこれだけガスの値段が上がると高止まりの状態です。

原料が上がると肥料価格も上昇しますし、農家の方が一番苦労しているのが現状だと思います。農業従事者は10年間で120万人も減って、将来的に従事者や耕地面積がさらに減少しそうな中で、コストが上がっても米価に転嫁できていません。米価は一昨年から昨年の間で相対価格が平均10%近く値下がりしているのに肥料の値段が上がっているわけです。主食米の生産は10年間で100万トンも減って700万トンになっても在庫が200万トン以上もあります。コロナ禍でインバウンドがほとんどなくなって外食需要が減ったことが非常に大きいですね。農家の方に価格上昇分の70%の支援金が出ますけど、全体コストがここまで上がると厳しいと思います。私も長野の田舎の出身で、親戚に農家もいますので農家の方の痛みはよくわかります。

尚、当社の中期経営計画(2021~23年度)では、23年3月期の当期利益を9億円と公表していますが、この計画にはウクライナ情勢等のファクターは入っていません。

――ご指摘のように肥料のチッソ・リン酸・カリをいずれも海外に頼らざるを得ないのが日本の現状です。こうした中で、国内最大の肥料メーカーとして安定供給をしていかなければならない。厳しい状況ですが、日本の農業をどう支えようとお考えですか。

小林 まずわれわれは全農さんから購入した原料をきちんと肥料にしてノンデリを起こさないように、農家の皆さんにきちんと届ける、これが一番の使命です。今は原料にとどまらず、電気など生産コストがすべて上がって厳しいですが、歴史的に100年もやっている会社で全国に6支店7事業所15工場と、多くの地元がありますので、農家の人に愛されて農家に尽くすことをベースに取り組まなければいけないと考えています。工場の設備も古くなってきていますので、自働化に向けてコンサルを入れて千葉工場をモデルに進めていますが、いい結果が出ていますので他の工場への横展開を考えているところです。

原料の多くを海外に頼っている現状では、肥料原料を未利用資源から開発することも非常に大事だと考えています。例えば、今、福岡県の「全農ふくれん」さんなどと連携して、下水から再生リンを取り出して肥料の原料として有効活用する取り組みを進めています。この肥料は子会社の大日本産肥で製造していますが、通常より2、3割ほど価格も低く、今月から農家への販売が始まりました。また、焼酎を搾ったあとの残りかすを濃縮・熟成して肥料化する取り組みも進めています。これは「いいちこ」の三和酒類さんと10年来、開発してきたもので肥料としてどんどん販売しています。当社はつくばにある研究所に30人ほどおりまして、地元から上がってくるニーズに即したものを開発しています。有機への取り組みは簡単ではありませんが、一歩ずつこうした取り組みを進めています。

――まさに再生リンや焼酎の残りかすを肥料化するという、地道な取り組みを1つ1つ積み重ねることが必要ですね。社長の大局的なご判断は正しく、大切だと思います。しかも再生リンなどの活用は価格高騰対策にとどまらず環境への配慮につながっていきますね。「みどりの食料システム戦略」が本格的に動き出しますが、環境という点で力を入れている取り組みはありますか。

小林 農水省の「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに化学肥料の使用量を30%減らして、現在2万haほどしかない有機農業の面積を100万haにすると掲げています。それに合わせて我々がどう動くのかも重要です。

環境面では、例えばマイクロプラスチックの海洋流出が問題となる中で、プラスチック被膜殻が発生しない水稲施肥技術として、ペースト二段施肥技術の全国展開に取り組んでいます。これは省力化・軽労・増収にもつながる技術でもあります。今年度は当社デモ用田植え機14台を活用しながら全国24道県に実証展示圃を設置しました。粒状肥料と違って、ペースト肥料なら雨の日でも、この田植え機で作業できますし、ホースで注入するだけですので、高齢の方にとっても非常に使いやすいと思います。実は私自身も昨年と今年の2回、現地視察の際に田植え機に乗りました。「社長、ここまできたら田植え機運転しないで帰るつもりじゃないでしょう」と言われまして。

――いいですね。社長みずから田植え機に乗るという姿勢こそ社員から頼られ、しっかりやらなければいけないという社員の気持ちにつながると思います。このペースト肥料は、合併前から片倉チッカリンさんが取り組まれていましたが、商品力はあるのになかなか広がらなかった印象があります。それがコープケミカルさんとの合併で水稲へのアクセスを得て全国に広がろうとしているわけですね。両社の合併から今年で7年を迎えますが、 大きく変わった点や、合併効果についてどうお考えですか。

小林 果樹・園芸用有機複合肥料を得意とする片倉チッカリンと米麦向け化成肥料を得意とするコープケミカルという得意分野もテリトリーも重なっていない両社の合併で、全ての営農類型をカバーする国内売上高ナンバーワンの肥料メーカーとなりました。

特に感じるのは現場対応力が強化された点ですね。両社が得意とする銘柄と全国の拠点を活かし、呼ばれればすぐに駆け付け、農家やJAの肥料に関連するお悩みの相談に豊富なラインナップで応えることができます。また、万が一の自然災害等で生産出荷ができない工場が発生しても他工場でカバーでき、安定供給という面でも安心していただけるかと思います。

――コロナ禍や肥料原料の高騰など難しい時代に社長を務められています。社員にはどんな言葉をかけていますか。

小林 我々は農家の皆さんに必要なものを必要な時期にきちんと届けることが一番重要で、これを、当たり前にやることが使命です。社長に就任したときに話したのは、100年も続いている会社ですから、きちんと農家の皆さんの欲しているものを吸い上げ、提案し、地元で我々が持っている工場できちんとつくって届ける。まず、こういう現場力を鍛えなければいけないと話しました。すべての中心は現場にあり、現場のアンテナを高くしないと間違った方向に進んでしまいます。
それと最後の最後まで諦めない、ノーと言わずチャレンジする。こういう気概がないと会社は良くならないと。三つ目に言ったのが、みんなそれなりに夢を持っているはずなので、その夢の実現に向けて走りましょうよと。この3点は折に触れて話しています。

――大変いいメッセージですね。全国に工場を展開し、これだけの拠点をお持ちの会社はほかにありませんから。合併前のそれぞれの会社よりも遥かにアピール力、発信力が高まっていると感じます。最後に改めて合併企業としてどんな将来展望を見据えていらっしゃるかお聞かせください。

小林 農地があれば必ず肥料は必要ですから需要は底堅いと考えています。さきほど触れました通り、農業従事者数や耕地面積は減少の一途をたどっていますが、法人経営体や1農家当たりの栽培面積は増加傾向にありますし、世界的な「持続可能な開発目標(SDGs)」や脱炭素化等の取組みの中で、今後は従来以上に環境に配慮した低コスト・省力化製品、無人ヘリ・ドローン等への機械適合性の高い製品が求められると考えています。
長年培った技術力に開発力をもって、さきほどお話ししたペースト二段施肥技術や高濃度散布が可能で機械適合性の高い窒素液肥「CORON」の推進を進めていますし、「みどりの食料システム戦略」でも取り上げられ、近年世界的にも注目されているバイオスティミュラント資材「ストロングリキッド」も昨年3月に上市しました。農家のニーズに応じて様々な新しい肥料を開発するとともに、環境配慮への取組みも "追い風"としたいと考えています。

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