農政:バイデン農政と中間選挙
【バイデン農政と中間選挙】中間選挙が予想外の結果に~地方有権者の投票率低下も一要因【エッセイスト 薄井寛】2022年11月23日
11月8日の米国中間選挙は事前の予想をくつがえす結果となった。一部のメディアに大敗さえ予想された与党民主党が上院の多数を堅持し、下院は多数を失ったものの、州知事選では2議席を増やした。要因として有権者の様々な変化(表参照)が指摘されるが、地方有権者の低調な投票率も共和党の取りこぼしと民主党候補の競り勝ちにつながったとみられる。
中西部12州の投票率
中間選挙の投票率は全米で46.4%(US Election Project推定)。過去100年間で最も高かった4年前の中間選挙の50.0%を3.6ポイント下回る。
それでも、若者や女性の投票増に郵便投票の利用増も加わった今回の投票率は、2002~14年に4回行われた中間選挙の平均投票率(39.4%)を大幅に上回るものであった。
ところが、アメリカ大陸の中央部では多くの州の投票率が伸び悩んだ。例えばアイオワ州など12の農業州が連なる中西部では、2018年の平均投票率54.8%に対して今回は50.5%。4.3ポイントの減だ。
また、2020年の大統領選挙でトランプ候補の強固な支持基盤となった中西部12州の平均投票率は68.9%(全米66.6%)であったのに対し、今回はこれを18.4ポイントも下回った。
特に小選挙区制の下院選では、保守的な有権者が6~7割以上も占める農村部での投票率低下が野党共和党に予想外の苦戦をもたらしたのだ。
中西部オハイオ州の第1選挙区では、トランプ前大統領の支持した共和党候補が勝利を確実視されていたが、5ポイント差で民主党候補が勝った。
この選挙区では投票者数(約28.9万人)が2020年の前回選挙(37.2万人)より22%以上(約8万人)も減るなか、民主党候補の得票は12%減に留まり、共和党候補は30%以上も減って敗北したのだ。
中西部の農業州以外でも、数千票の僅差で共和党候補が敗れた地方選挙区では、投票率の伸び悩みが同党候補の敗因の一つと伝えられる。
こうした選挙区で何が起きたのか。二つのことが考えられる。
一つは共和党のトランプ岩盤支持者と無党派層の一部が棄権したことだ。
棄権者の多くは、①2年前の〝選挙不正″にこだわる極端な「トランプ主義」に距離感を覚えながらも、②民主党政権の中絶支持やインフレ対策などへの不満から投票所へ向かわなかったものと推測される。
二つ目は共和党支持の農家や無党派層の一部が民主党候補へ投票したことだ。
農家の間では、バイデン政権の気候変動対策が補助金の増加や農村活性化につながると期待する者が徐々に増えてきたと考えられる。
また、バイデン大統領が実績を誇示する雇用増大の恩恵にあずかることができた地方の共和党支持者の一部が民主党へ鞍替えしたとも推測される。
実際、9月の州別雇用統計(10月21日発表)をみると、中西部12州における過去1年間の雇用増加率は2.7%。全米の3.7%には依然及ばないものの、トランプ政権下の2020年9月時点の0.4%増を大幅に超えているのだ。
注目される米国農政の方向
与党民主党は今回の選挙で大敗をまぬがれたが、下院の多数を失った。そのため、バイデン大統領にとっては残り2年間の政権運営が困難になると予想されている。大統領府の望む法案や予算案は下院で否決される可能性が高まるからだ。
だが、〝トランプ再出馬宣言″によって共和党の右派と穏健派が亀裂を深め、民主党側は多数派工作で難局を切り抜けやすくなるとの見方もあるようだ。
こうしたなかで農業政策はどう展開していくのか。当面の注目点は二つある。
第1は温暖化防止農業の推進が計画通り進むかどうかだ。
国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で11月12日に演説した米国のビルサック農務長官は、自らが主導する「温暖化防止商品作物パートナーシップ計画」に基づく大規模なパイロットプロジェクトの実施(本連載10月19日号参照)に焦点を当て、「温暖化防止農業を推進するために米国は(国際協力を含め)中心的な役割を発揮していく」との決意を表明した。
一方、共和党の農業議員たちはパイロットプロジェクトを農務省の〝独断専行″と反発しており、同党が多数派となる新たな下院農業委員会が〝横やり″を入れるとの懸念はある。
しかし、共和党支持の大規模農家の多くはバイデン政権の脱炭素農業政策の恩恵を期待し、これを支持しているのが実態であり、農務省の気候変動対策に大きな変化が生じることはないと推測される。
第2は現行の2018年農業法が失効する来年9月末日までに2023年農業法が成立するかどうかだ。
想定される法案審議の主な争点は二つ。一つは温暖化防止農業の推進に関する条項をどう盛り込み、予算措置を確立できるかだ。
もう一つは農務省予算の70%以上を占める低所得層への食料支援だ。従来からこの予算増額を追求し続けてきた民主党都市部議員に対し、作物保険料の補助金増額や災害補償、価格支持政策の充実など、農家のための予算増を求める農業州の共和党議員が強く反発するのは必至であり、法案審議の難航が予想される。
他方、中国への農畜産物の輸出増を含め、海外市場の開拓は引き続き米国農業界の主要な関心事となるが、バイデン政権がTPP復帰などへ方向を転換する可能性は少ないと考えられる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(132)-改正食料・農業・農村基本法(18)-2025年3月8日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(49)【防除学習帖】第288回2025年3月8日
-
農薬の正しい使い方(22)【今さら聞けない営農情報】第288回2025年3月8日
-
魚沼コシで目標販売価格2.8万~3.3万円 JA魚沼、生産者集会で示す 農家から歓迎と激励2025年3月7日
-
日本人と餅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第331回2025年3月7日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
-
(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
-
ラワンぶきのふきのとうから生まれた焼酎 JAあしょろ(北海道)2025年3月7日
-
寒暖差が育んだトマトのおいしさ凝縮 JA愛知東(愛知)2025年3月7日
-
給付還元利率 3年連続引き上げ 「制度」0.02%上げ0.95%に JA全国共済会2025年3月7日
-
「とやまGAP推進大会」に関係者約70人が参加 JA全農とやま2025年3月7日
-
新潟県産チューリップ出荷最盛期を前に「目合わせ会」 JA全農にいがた2025年3月7日
-
新潟空港で春の花と「越後姫」の紹介展示 JA全農にいがた、新潟市2025年3月7日
-
第1回ひるがの高原だいこん杯 だいこんを使った簡単レシピコンテスト JA全農岐阜2025年3月7日
-
令和7年度は事業開拓と業務効率化を推進 日本穀物検定協会2025年3月7日
-
【スマート農業の風】(12)ドローン散布とデータ農業2025年3月7日
-
小麦ブランの成分 免疫に働きかける新機能を発見 農研機構×日清製粉2025年3月7日
-
フードロス削減へ 乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズ発売 農業総研×NTTアグリ2025年3月7日
-
外食市場調査1月度市場規模は3066億円2019年比94.6% コロナ禍以降で最も回復2025年3月7日
-
45年超の長期連用試験から畑地土壌炭素貯留効果を解明 国際農研2025年3月7日