農政:森田実と語る!どうするのかこの国のかたち
「大転換の時代 農村が大切にした価値取り戻すべき」 国民民主党・玉木雄一郎代表【森田実と語る】2022年12月6日
政治評論家の森田実氏が、各界のキーマンと語るシリーズ「森田実と語る!どうするのか この国のかたち」。今回は、国民民主党の玉木雄一郎代表にインタビューした。祖父や父が地元農協の幹部を務めた「農協一家で育った」という玉木氏は、長引くコロナ禍やウクライナ戦争を踏まえて日本が見直すべきことや、今後の農業政策のあり方などについて力を込めて語った。(敬称略)
国民民主党 玉木雄一郎代表
コロナ禍が教えた一極集中の脆さ
森田 コロナ禍にウクライナ侵攻、物価高と国内外の情勢がめまぐるしく変化しています。まず、こうした情勢をどう受け止めているかからお聞かせください。
玉木 私は今、まさに歴史の大転換点にあると考えています。特に感染症が蔓延する時代というと、有名なのがペスト(黒死病)が流行した中世ヨーロッパです。ペストによってそれまでの教会と封建領主の権威が落ち、人間中心主義のルネッサンスに大きく変わっていきました。近代的なルネッサンス、そしてその後の啓蒙主義から民主主義へと進んでいった。歴史の大きな転換点のときには必ず感染症がありました。
私はコロナ禍が教えてくれているものは非常に大きいと思っていて、まず一つは中央集権や一極集中がいかに脆いかということです。特に感染は人が密集する大都会で広がります。これまでは大都会こそ効率的で、人が集まるところほど危ないという概念はありませんでした。ところが新型コロナはむしろ過疎と言われている地域の感染者数が少なく、相対的に地方の強みが出てきたことが一つの大きな変化です。
もう一つはグローバリズムです。世界がこれほど繋がっていなければ、中国の武漢で発生した感染症がこれほど短期間に世界を不安と恐怖に陥れることはありませんでした。グローバルなサプライチェーンは効率化を追求するにはよかったんですが、マイナスも一気に広がってしまう。グローバル化一辺倒や自由貿易一辺倒で推し進めてきたことに対する警鐘ではないかと考えています。
生命の安全最優先の「ジャスト・イン・ケース」が大事
森田 改めて課題が浮かび上がったわけですね。政治がこれにどう向き合うかが問われていますね。
玉木 まさにこれを受けとめる政治ができるのか、それとも過去の延長線上を繰り返すかによって、日本が世界で生き残れるかどうかが決まる。私は世界が歴史の岐路に立っていると同時に、日本という国が大きな岐路に立たされていると捉えています。ここにはキーワードがあります。これまでは「ジャスト・イン・タイム」といって、必要なものを、必要な時に、必要なだけ供給する、すなわち無駄なく効率性を高めていくというやり方でした。近代化の一つの結晶と言えます。今回コロナ禍で分かったことは「ジャスト・イン・タイム」で切り詰めると、いざというときの備えや余裕がなく、社会経済の脆弱性が露呈することです。だから、「ジャスト・イン・ケース」、いざというときの備えを国家や社会がどう作っていくのかが、これからは非常に大事になります。ルネッサンスが人間中心の社会への大きな転換になったように、今回は生命の安全を最優先にしていく社会にどう変えていくのか、価値観の転換を伴う時代に来ています。
3つのアンバランス見直すべき
森田 そうした生命の安全を最優先する社会の構築に向けて、具体的にどんな見直しが必要だとお考えでしょうか。
玉木 特に三つのアンバランスをこの際見直すべきです。
一つ目はグローバルとローカルのアンバランスです。特に農業を見るとわかりますが、ウルグアイラウンドからTPPに至るまで、とにかく関税は低い方がいい、自由貿易がいいということが、いざというときにいかに脆弱かがわかりました。私はある程度ローカルな視点、もっと言うと自国の中で戦略的に閉じた方がいい分野をこの際きちんと持つべきだと考えています。例えば食料ですね。食料自給率が40%を割り込んで久しいですが、ウクライナ戦争もあって食料がいくらでも手に入る時代から食料争奪の時代に世界が大きく変わりました。何でもかんでもグローバル化ではなくて、ある程度大切なもの、我々の生活と経済と命を支えるものについては国産化を進める必要があります。
二つ目は、都会と地方のアンバランスです。戦後はとにかくみんな東京へということできましたが、これからは都会と地方がどう有機的に繋がっていくかが重要です。今、岸田内閣は、かつて大平正芳元総理が掲げた田園都市国家構想にデジタルをかぶせて「デジタル田園都市国家構想」を打ち出していますが、少々表層的です。しかし、本質的に地方とは何か、地方の力とは何か、地方が担う役割と都会が担う役割をどう分担したら有機的に繋げていけるかという、次の時代の国家像が語られるべきです。
そして三つ目のアンバランスは富の偏在です。
明らかに一部の偏った人に富が集中し、多くの人が自分の親の世代よりも貧しくなりつつありますが、国家がこれを固定化してはいけない。そこに果たす国家の役割は大きいはずで、人間としての尊厳を持って生きていけるだけの所得補償的な政策が必要ではないでしょうか。ベーシックインカムという議論がありますが、私は尊厳を持って生きていく最低限の所得補償が必要だと考えています。
こうした行き過ぎたグローバリズム、行き過ぎた都市集中、行き過ぎた富の集中、この三つのアンバランスを是正するうえで、一つの象徴的な政策が農政だと私は考えます。
所得を補償し、環境配慮の世界的な流れに乗った農業支援を
森田 社会のアンバランスを農政を通して見直すとは独特の視点ですね。これからの農政はどうあるべきとお考えですか。
玉木 農政には「産業政策としての農政」と「地域政策としての農政」があります。大規模効率化の農業もあっていいのですが、一方で地域に根ざして地域と共にあり、地域とともに死んでいくという覚悟を決めて農業をやっている方もいらっしゃいます。これに対する支援がこの10年20年、切り捨てられてきたのではないでしょうか。特にこれから食料安全保障が大事だと言ったときに、単に予算をつけるだけでは実現できません。生産基盤である土地と人が必要です。農地の維持はこのままでは非常に難しく、耕作放棄地だらけになってしまいますし、担い手も国が相当気をつけて育んでいかないと急速にいなくなってしまいます。
最近、若い人が比較的農業に入ってきてくれていますけど、飼料価格や肥料価格などいろんなものが高くなっていますし、農業は天候に左右されて不安定なところもありますので、変動する収入や所得をある程度補償できる仕組みにしていくべきです。
その意味ではかつての戸別所得補償制度のような岩盤政策を入れていくべきです。ただ、何でも1反当たりいくらではなくて、例えば1反当たり1万円支給し、環境に配慮した農業をやる人にはプラス1万円を環境加算するなど、メリハリをつけることが必要です。ヨーロッパではファームツーフォークといって、農地から食卓まで環境に配慮した形でシステム全体を見直そうとしています。営農継続可能な所得を補償し、そこに環境加算する新しい直接支払制度で、環境に配慮するという世界的な流れに乗った農業支援を進めるべきだと思います。
農業に携わることは「地域、日本を守ること」の意識を
森田 玉木さんのご家族は農協の職員でしたね。農業や農協に対して特別な思いをお持ちと思いますが、最後に改めて今の農政などへの思いを込めたメッセージをお願いします。
玉木 私は祖父が農協の組合長を務め、父も香川県農協で畜産部長を務めた農協一家で育ちました。祖父は、組合長といっても農業相談だけじゃなくて夜中に近所の人が訪ねてきて、結婚から相続の相談、近所のもめ事を全部聞いていました。今は単協の役割が小さくなっていますけど、やはり農業に携わること自体が地域を守ること、日本を守ることという意識を昔の組合長さんや農協の職員の皆さんは大なり小なり持っていたと思うんですね。そういうものを私はもう1回取り戻すべきだと思います。土地や地域とともにある農業や農政、そこに戻るべきだと。日本が古来、ずっと農村で大切にしてきた価値ですね。
こうした価値観の転換を伴う大変革の真っ只中にあることを、政治に携わる者も胸に刻んで捉えなければなりません。今まではどちらかというと金儲けのための資本主義でしたが、生命やそれを育む土地や農地を大切にする、鎮守の森があって地域の皆さんと調和しながらいろんなものを作り出してきた、この日本が持っている大切な生きざまのようなものを、もう一度思い出せと言われているような気がします。
さらに協同組合が持っている良さを最大限生かしていくことも重要です。資本主義はたくさんお金を出した人が株主ですが、協同組合はみんな一株主で所有者なんですね。この協同組合の理念で三つのアンバランスを解消していく。大事な運動体の一つとして協同組合運動は改めて注目すべき価値だと思いますし、国連でも国際協同組合年を定めて取り組んでいますが、まさに日本がその役割を担うべきであり、JAこそその役割を世界的にも担ってほしいと考えています。
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