農政:バイデン農政と中間選挙
【バイデン農政と中間選挙】政争の場となる次期農業法案の議会審議~注視すべき穀物等の『燃料化政策』(1)【エッセイスト 薄井寛】2022年12月14日
2023年1月から始まるバイデン大統領の一期目後半、米国農業界が直面する最大の難題は2023年農業法の成立だと伝えられる。本連載最後の今回は、この法案審議の課題などについて考える。
所得政策の強化を求める野党共和党
現行2018年農業法は来年9月末に期限が切れるため、上下両院の農業委員会は夏前に農業州での公聴会を開き、その後現行法の課題について検討を進めてきた。
法案審議は中間選挙結果を受けて編成される農業委員会へ引き継がれ、来年9月に両院の法案調整という最終局面を迎える予定だが、審議の難航が予想される。主な問題は三つある。
一つは、中間選挙で下院の多数を奪還した野党共和党がバイデン農政の軌道修正を求める動きだ。
その狙いは農務省の看板政策である温暖化防止農業の推進にブレーキをかけ、代わりに作物保険の補助金増や所得政策の充実など、農業所得の「安全網」を強化する方向だ。
「安全網」は価格損失補償(PLC)や農業リスク補償(ARC)の所得政策と作物保険への補助、それに災害補償のセットとなっている。
共和党側にとって重要なのは生産費等に基づき設定される実効参考価格(ERP)の大幅引き上げだ。背景には、市場価格が参考価格を大きく上回り、農家はこれらの補助金をほとんど受けられないという実態がある。なぜなら、PLCの損失補償は市場価格が参考価格を下回った場合にその差額を部分的に補てんする仕組みだからだ。
だが、この参考価格の引き上げは容易でない。農業所得が最高水準に達しているためだ。
農務省が12月1日に公表した2022年農業所得統計によると、販売額等の収入から生産コストなどを差し引いた全米の農業純所得は1605億ドル。20年より49.3%も激増した21年に続き、22年はさらに13.8%増えて史上最高に達している(表1と注参照)。
燃料費の47.4%増や肥料の47.0%増など生産コストは18.8%増えたが、農畜産物の販売額等の収入が市場価格の大幅な高騰で26.5%も増えたからだ。
食料支援強化訴える民主党の都市部議員
二つ目の問題は、コロナ禍で大幅に増えた低所得層への食料支援に対する削減圧力だ。
共和党側が前述の「安全網」を強化するには、農務省予算の7割以上も占める食料支援予算を削らなければならない。
この予算の中心は補助的栄養支援計画(SNAP=スナップ=、旧フードスタンプ)。コロナ禍で困窮者が増え、支給額の特別な増額も行われたため、バイデン政権下の2021年度には受給者(4160万人、月平均)と年間支出額(1138億ドル)がトランプ政権下で減った19年度よりそれぞれ16%、88%以上も増えた(表2参照)。
それでも、SNAPの維持・強化は、受給者が増え続ける都市部の民主党議員にとって譲れない一線だ。
また、SNAPや学校給食支援、フードバンク等への補助は特に民主党支持の中小農家や同農家の組織(全米農民連盟など)にとっても重要だ。
これらの支援策は広範な農産物価格を下支えするとともに、直売所でのSNAP助成金カードの利用や地元産の学校給食利用などを通じて中小農家の販売増に貢献しているからだ。
3月21日、農業メディア(Agri-Pulse)の食料農業政策サミットで全米農民連盟のラルー会長は、「次期農業法案に食料支援の強力な条文がなければ、法案の議会通過は不可能に近い」と述べ、都市部議員と農村部議員の連携を訴えている。
三つ目の問題は気候変動対策だ。
「パリ協定」から離脱した前政権。そのトランプ前大統領の支援を受けて中間選挙に当選した多くの共和党議員は、農務省が来年から着手する温暖化防止農業の大規模な実験事業をやり玉に挙げようとしている。
これに対し、11名の民主党農業議員が組織する「気候・農業グループ」は11月16日、次期農業法による気候変動対策の強化を提案した。
その中身は農地の保全管理計画(CSP)や温室効果ガスの農地貯留、中小農家の有機農業支援など広範囲に及ぶ。
同議員グループは、被覆作物の作付けによる土壌保全や温室効果ガスの農地貯留を補助金付きのCSPの対象に加え、温暖化防止農業の促進を求めているのだ。
さらに、気候変動対策に対する共和党側の攻撃が強まれば、大統領府が農業法案への拒否権発動のメッセージでけん制することも予想され、法案審議が2年後の大統領・議会選挙をにらんだ激しい政争の場になるのは必至とみられる。
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