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農政:世界の食料は今 農中総研リポート

【世界の食料は今 農中総研リポート】黄昏にあるオランダの施設経営 エネ高騰などに苦悩 一瀬裕一郎主事研究員2023年8月29日

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農林中金総合研究所の研究員が解説する「世界の食料は今」。今回は第3回の「曲がり角のオランダ植物工場業界」の関連で、「黄昏(たそがれ)にあるオランダの施設経営」として、主事研究員の一瀬裕一郎氏に解説してもらった。

農中総研 一瀬裕一郎主事研究員農中総研 一瀬裕一郎主事研究員

新型コロナとウクライナ侵攻が向かい風に

オランダは「九州と同程度の国土面積にもかかわらず、米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国」と紹介されることが多い。主要農業部門の施設園芸が世界的な農産物輸出国の地位を支えている。施設園芸では、高い採光性を誇るフェンロー型ガラスハウスで温室内の温湿度や二酸化炭素濃度、潅水量、施肥量を自動で制御する機器を活用してトマト等の果菜類の生育に理想的な環境を整え、単位面積あたり生産量を極大化させる営農が行われてきた。それは労働力や光熱動力などの農業生産要素を多投する労働・資本集約型の農業であり、安定した経営には安価で豊富な労働者とエネルギーの存在が前提となる。

ところが、最近ではその前提が崩れてきた。まず、2020年に始まった新型コロナ感染症のパンデミックで旧東欧諸国や北アフリカ諸国からの出稼ぎ外国人労働者が減少し、安価な労働力の調達が難しくなった。続いて、パンデミック下でのサプライチェーンの目詰まり等で既に兆していた世界的なインフレに、22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻が拍車をかけ、化石燃料等のエネルギー価格が大幅に上昇した。これらの理由から近年の施設園芸の経営環境は厳しさを増しており、それは統計の数値にも表れている。

図表1オランダ施設園芸主要品目の生産動向(2019年・2022年)図表1 オランダ施設園芸主要品目の生産動向(2019年・2022年)

図表1は、世界を新型コロナ感染症とウクライナ侵攻のダブルショックが襲った22年とパンデミック以前の19年の生産量等のデータを、オランダの施設園芸の主要品目について示したものである。相変わらず施設園芸経営の規模拡大は続いているが、従前とは相違する動きとして、同表から以下の2点が注目される。

第1に、長期的に上昇トレンドが続いてきた10a収がここにきて低下したことである。表に示した4品目とも反収が低下しており、特にトマトでは19年の50・6トンから22年の42・4トンへと▲16・2%の大幅な低下となった。22年の値は97年(42・5トン)と同水準である。トマトに次いでキュウリの反収も▲9・3%と19年から22年へ大幅に低下した。

第2に、大幅な反収の低下によって、トマトとキュウリの生産量が減少したことである。特に、トマトでは19年の91万トンから22年の77万トンへ▲15・4%減少した。対照的に、パプリカとナスでは収量の低下を施設面積の拡大が補い、生産量は微増した。

エネルギー価格上昇が招くトマト生産量減少

図表2 オランダの化石燃料価格の推移図表2「オランダの化石燃料価格の推移」

これらの動きは、収穫作業等に従事する出稼ぎ外国人労働力を十分に確保するのが難しくなっていることに加え、施設園芸経営にとって21年後半時点でエネルギー価格が非常に高い水準となった(図表2)ので、経営者が冬期の暖房を節約せざるをえず、植物体の成長が遅れて、21/22年産の収穫期間が短くなったことで生じたとみられる。また、トマトやキュウリは冬期の温湿度や光量の管理に大量のエネルギーを必要とするため、よりエネルギー効率のよいナスやパプリカへ転換したり、冬期の生産自体を取り止めたりする経営もあった。その結果、22年のトマトとキュウリの生産量が減少した。

図表3 オランダの月別トマト価格図表3 オランダの月別トマト価格

供給が絞られる半面、需要は変わらず堅調だったので、22年のトマト価格は過去5年間平均よりも高く推移した(図表3)。特に、加温が必要な冬期に顕著であり、22年2月にはトマト100キロが343ユーロと過去5年間平均を7割強も上回る価格水準まで高騰した。

生産量の減少は輸出量の減少に

オランダ農業の特徴の1つは、ドイツやフランス等のEU域内向け輸出を前提とした生産を行っていることだ。それゆえ、生産量の減少は輸出量、特に副次的な輸出先であるEU域外向けの減少を招く。図表4にEU域外向けのトマト輸出量を月別に示した22年はすべての月で過去5年平均よりも少ない。22年の年間輸出量は18万4000トンであり、過去5年の値(21万8000トン)を16%ほど下回った。

図表4 オランダの月別EU域外輸出量図表4 オランダの月別EU域外輸出量

今後の施設園芸経営の見通しは

2023年のエネルギー価格は前年よりも低下しており、施設園芸にとっての向かい風が弱まってきた。とはいえ、22/23年産のは種・定植はエネルギー価格が下落する前に行われており、21/22年産と同様に冬期のトマト供給量が限られている。実際、23年2月のトマト100キロの価格は463ユーロであり、前年よりもさらに高い。

オランダ以外でトマト生産が盛んな国に目を向けると、23年にスペインやイタリアは干ばつに見舞われている。また、EU加盟国ではないがEU向けの輸出を推進するモロッコは、トマトの新たなウイルス病であるトマト褐色しわ果ウイルス(ToBRFV)の流行と23年初頭の天候不順に苦しんでいる。このように目下、トマト生産が順風満帆な国は見当たらない。

人の流れは既に新型コロナ感染症以前に戻っており、エネルギー価格が一定水準以下で安定すれば、オランダのトマト生産はおのずと回復するだろうが、依然続くインフレや地政学的リスクによって不確実性が残る。オランダの施設園芸について、今後の動きを注視したい。

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