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農政:世界の食料は今 農中総研リポート

【世界の食料は今 農中総研リポート】拡大BRICSの培うもの 資源と食の安定供給体にも 阮蔚理事研究員2023年10月12日

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「世界の食料は今」をテーマに農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は「拡大BRICSは資源・食料の安定供給の共同体」として、理事研究員の阮蔚(ルアン・ウエイ)氏に担当してもらった。

農中総研理事研究員 阮蔚氏農林中金総合研究所 阮蔚理事研究員

2024年1月1日にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)に6カ国が加わり、11カ国に拡大することが2023年8月にヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議で決まった。サウジアラビア、イラン、エチオピア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)が新しく加盟する。中国、インドを筆頭に「大きな国土と大人口を抱える成長国家群」というBRICSの漠然とした定義は薄れ、曖昧な新興国家の集まりとなったようにもみえる。拡大したBRICSを加盟国の数から「BRICS11(イレブン)」と呼ぶとすれば、日本や世界はBRICS11をどう受け止め、どう対応すればいいのだろうか。

表 BRICS11の食料、エネルギー生産量と世界に占めるシェア(2022年)

巨大人口で市場成長も

米投資銀行、ゴールドマン・サックスのアナリスト、ジム・オニールが2001年にブラジル、ロシア、インド、中国の巨大な新興成長国の頭文字を並べて「BRICs」と呼んだ時、世界は米欧日など先進国と肩を並べる「21世紀の経済大国」の台頭と世界の変化を予感した。その後、2010年に南アフリカが加わり、「BRICS」となってもその本質はほとんど変わらなかった。

その特徴はエネルギーを中心に資源や食料生産能力に恵まれ、同時に巨大な人口を抱え、市場としての成長も期待できるというものであった。結果として、BRICSは有望な投資先として、日本や欧米の企業進出を呼び込み、高い成長を達成してきた。中国のブラジルからの鉄鉱石や大豆の輸入拡大など、BRICS内の貿易も拡大してきた。

BRICSに転機が訪れたのは2018年に米国のトランプ前政権が口火を切った米中対立であった。それに2020年年初からコロナ感染の広がりによるサプライチェーンの分断が加わり、米国は中国への投資、貿易、技術移転などを厳しく制限するようになった。これにより中国は独自の道を歩み始めざるを得なくなった。さらにとどめを刺すように、2022年のロシアのウクライナ侵攻で米欧日の西側はロシアに制裁をかけ、世界の分断が加速された。これらの要因でBRICSは変質するようになった。

食料安保も背景に潜む

では、「BRICS11」の本質とは何なのか。

今回加わることになった6カ国のうち、エジプトとエチオピアを除けば、残りのサウジアラビア、イラン、UAE、アルゼンチンという4カ国はかつてのBRICSと同じく、エネルギーなど資源または食料生産の潜在力に恵まれた国である。そこに注目すれば、実はBRICS11は資源、食料の巨大な生産力を持つ共同体であることがわかる。

表をみれば一目瞭然であるが、2022年にBRICS11が世界の中で占める生産量のシェアが高いコモディティ(商品)を順にあげれば、石炭69・9%、大豆59・7%、米58・2%、小麦51・2%、トウモロコシ46・4%、石油43・1%などとなる。当然ながら5カ国だった時代のBRICSに比べても、シェアは上積みされている。目立つのは大豆で6・8ポイント増、小麦で5・5ポイント増、トウモロコシで4・6ポイント増など農産品でシェアが高まったことだろう。アルゼンチンは世界有数の食料供給国であるためだ。今回の拡大は、実は食料生産力で寡占度を高めたことに本質の一つがある。言い換えれば、「BRICS11の背景に食料安全保障あり」といえるであろう。

一方、インド、中国という二大人口大国がメンバーであるBRICS11の人口シェアも46・1%と世界の半分に近い。日本ではあまり認識されていないが、エチオピアは人口が1億2338万人と日本に次ぐ世界12位で、来年にも日本を抜く可能性が高い。エジプトは世界14位の1億1099万人であるが、人口増加率は高く、2030年頃には日本を追い抜くのが確実であろう。BRICS11への拡大は市場を拡大し、若返らせるという意味も持っているのが確実である。

同時にエジプト、エチオピアは世界有数の穀物輸入国であり、ロシア、ブラジル、アルゼンチンなど穀物輸出国にとっては市場との連携強化という意味もある。ロシアのウクライナ侵攻後、中東・アフリカへの小麦供給ルートが混乱し、アフリカでは飢餓のリスクが高まったが、混乱終息後はむしろ余剰となった農産物の市場獲得競争が展開されるだろう。BRICS11にはグループ内で食料の安定供給の関係を強めるという発想もうかがえる。

影響広がる途上国連帯

もうひとつ見逃せないポイントは、途上国の緩やかな連帯である「グローバルサウス」とBRICSの関係強化だ。エジプトは1960年代のナセル大統領時代に「アラブの盟主」であり、その後も中東の政治をリードしてきた。1976年のサダト大統領時代にアラブ諸国として初めてイスラエルとの和平に踏み切り、その流れは最近になってアラブ全体に広がりつつある。エチオピアは北部ティグレ州解放を求める勢力と政府軍の間で内戦が続いているものの、混乱するアフリカの中では成長が期待され、政治的影響力を持つ国のひとつである。グローバルサウスへの影響力という面ではエジプトとエチオピアは意外な力を発揮する可能性がある。

BRICS11はグローバル情勢の変化が生んだ新たな動きだが、エネルギーと食料の安定供給のための共同体とみれば、今後の展開もみえてくる。日本はBRICS11が資源と食料の囲い込みのための閉ざされた"砦(とりで)"とならないようアプローチをとるべきであろう。

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