農政:世界の食料は今 農中総研リポート
【世界の食料は今 農中総研リポート】「顔の見えぬ」効率農業に波紋 オランダの既存フードシステムに対するオルタナティブの可能性 一瀬裕一郎主事研究員2023年10月26日
「世界の食料は今」をテーマに農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回はリサーチ&ソリューション第2部主事研究員の一瀬裕一郎氏が「オランダにおける既存のフードシステムに対するオルナティブの可能性」をテーマに解説する。
農中総研 一瀬裕一郎主事研究員
ICT等の先端技術を活用し最小の投入で最大の産出を得る、極めて高い生産効率を誇る農業、それがオランダ農業であるというイメージが広まっている。そのような農業によって、オランダが世界第2位の農産物輸出国の地位を築いたことは確かである。効率的な農業で生産された農産物を購入する際に、消費者は、その農産物が誰によって、どこの農場で、どのような方法で生産されたのか、詳細な情報を得られないことが通例である。

こうした既存の農産物サプライチェーンとは異なる特徴を持つ農業生産、農産物流通の仕組みを構築しようと試みる市民運動がHerenboeren(ヘーレンボーレン、和訳すると「紳士農民」、以下「HB」と略す)と呼ばれる農業コミュニティ=協同組合である(表参照)。
HBは Geert van der Veer氏によって2013 年に設立されたヘーレンボーレンネーデルラント財団(以下「HBNL財団」と略す)に端を発する。HBは既存の農業ビジネスや大手量販店のオルタナティブ(代替)として、農業者と消費者が主体となり食料生産およびそのサプライチェーンを再構築することを志向している。その実現に向けた具体的活動として、HBは消費者が組織した協同組合で、農場を所有するとともに、1-3名程度の農業者を雇用して農業生産を行い、組合員向けに農産物の生産を行っている。生産を農業者へ委託するのではなく、自ら行う点が、これまでのCSA(Community Supported Agriculture=地域支援型農業)にないHBの特徴である。HBでは従前のCSAよりも一層深く消費者が農業へコミットしている。
HBの仕組みと運営
HBNL財団設立から3年後の2016年2月に、オランダ南部の町ボクステルで第1号の組合としてHB Wilhelminaparkが事業を開始した。それ以降オランダ各地で新たな協同組合の設立が続き、2023年には18組合が事業を営み、約9000人の消費者に向けて農産物を供給している。
HB1組合あたり平均して、150~200世帯の組合員がおり、組合が常勤の農業者を雇用した約20㌶の農場で、約500人の消費者に向けて農産物を供給している。HBでは複合農業が営まれており、供給品目は野菜、果実、畜肉、鶏卵、乳製品と多岐にわたる。消費者は組合に加入する際に1世帯あたり2,000ユーロを出資するとともに、組合員家族1人・1週あたり14ユーロほどの利用料金を支払って食料の供給を受ける。平均的にHBからの供給量は各組合員の消費量の6割に相当し、組合員は残りの4割をスーパーマーケット等で購入する。
農場で誰を常勤農業者として雇用するか、給与水準はどうするか、農場でどの品目を、どれだけの量で、どのような方法によって生産するか等、HBに関するあらゆる事項は組合員が参加する総会で話し合われ、民主的に決定される。HBでは組合員がボランティアとして農作業に積極的に携わることが推奨されており、消費者は農産物を購入し消費するというこれまでの役割に留まらず、投資家、経営者等、複数の役割を果たしている。さらには、消費者が空き時間に農場の作業をボランティアで行うことを通じて、消費者はプロシューマー〈prosumer=producer(生産者)+consumer(消費者)〉と呼ばれるような生産者の顔を持つようになる。
三つの柱と7原則
HBNL財団はHBが重視する三つの柱と七つの原則を定めている(図参照)。
三つの柱とは、①自然主導②経済的支援③社会とのつながり――である。三つの柱の重複部分から、a. 環境の再生、b. 多様な価値の創造、c. コミュニティーの創造というHBが大切にしている価値が導かれる。

HBが農場を運営する上で従う七つの原則は、①HBは協同組合であること②雇用した農業者にHBは適正な賃金を支払うこと③HBは組合員の必要な栄養を満たす品目を生産すること④HBの生産した食料の供給先は組合員に限ること⑤HBの資金調達は寄付と組合員の出資によって賄うこと⑥HBは自然主導の持続可能な農業生産を行うこと⑦HBは学習の場として組合員の農業や地域に対する理解の深化に貢献すること――である。
多様な組織との連携
HBは三つの柱に掲げる自然主導といった新たな農業や社会の在り方を推進するために、志を同じくする多様な組織と連携している。
一例を挙げると、Aardpeerは低廉な費用で長期にわたって農地にアクセスできる仕組みを作っている農地ファンドである。Boerenraadは自然環境の保全を大切にする有機農業者の団体である。Caring Farmersは農業者、消費者、科学者、NGO等から構成される循環型農業を実践する農業者を支援する団体である。
これらの団体とHBはネットワークを築いて多様な人々を包摂しながら、巨大商業資本が主役の食料生産や消費から脱却し、地域の農業者や消費者が主体となる食と人間、農業と人間の関係性の再構築を進めている。
HBの今後の展望
2013年にHBNL財団が設立されてから10年が経過する中で、HBは着実に拠点数や組合員数を増やしてきた。ちょうど国連がSDGsを掲げ、人々が気候変動、食品ロス、持続可能な食料生産等に関心を持った時期と重なり、それは自然主導の農業を重視するHBにとって追い風となったのかもしれない。
今後の展望について、HBは2030年までにオランダの人口の1%に向けてHBが食料を供給するという野心的な目標を掲げる。オランダの人口は約1,750万人であり、その1%は17万5,000人である。HB1農場あたり500人に供給しているので、目標を達成するためにはこの先7年間で農場数を350農場、現在の20倍程度まで拡大させる必要がある。
達成が容易な目標ではないかもしれないが、既存の食料や農業をめぐる関係性に一石を投じるHBの今後の軌跡について、期待を持って注視したい。
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