農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】安曇野の集落営農 集落間協定がカギに2023年12月11日
集落営農、農協、生協といったさまざまな「協同」の取り組みの現場を訪ね、その息吹を伝える田代洋一横浜国立大学名誉教授のシリーズ。今回は長野県安曇野地域を紹介する。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
任意組織が多い
長野県安曇野地域は北アルプスから信濃川に向けて流れる梓川など数本の河川がつくりだした扇状地で、米、リンゴ、ワサビなど豊かな農業地帯である。JAあづみ作成のリストでは集落営農が任意組織16、法人8ある。1968年設立の安曇野北穂農業生産組合(163人、168ha)のような雇用型の組織もあるが、品目横断的政策(経営所得安定対策)の前後に立ち上げられ、集落の半数程度が参加した任意組織が今日まで持ちこたえているのも多い。
お話をうかがったのは表の4集団(以下は集落名で呼ぶ)。任意組織は「倶楽部(くらぶ)」を名乗るのが多い(表の上二つ)。「学校のクラブ活動のようなもの」の意だそうだ。法人は「組合」を名乗る(下二つ)。
経理一元化しつつ協働
久保田協働農村倶楽部は集落が昭和30年代の開田地帯で、ほ場は未整備で一筆10a程度。2002年に麦転作の補助金を受けるため15戸の集落営農組合を作ったが、品目横断的政策に対応するため別に倶楽部を立ち上げた。
役員は10人、対外面担当の市会議員Aさん、ソフト会社経営者としてパソコン作業を管理(経理一元化)するBさん、30代の後継者を擁し機械作業を受託するCさん(利用権17haを含め20ha経営)のコンビが支える。
集落には認定農業者がCさんを含め数人おり、貸借、受委託は相対で行う。倶楽部では、受託者はBさん開発のプログラムに作業時間をインプットし、協定料金で清算する。最近の決算では「損益分配」(委託者手取り)はa平均5万~8万円になっている。倶楽部は多面的機能支払いの組織と重複し、集落の公園草刈り、通学路ごみ拾い、用水掃除等を非農家と共に行う。
隣の田に迷惑はかけられないという農家の思いを倶楽部が支える。「倶楽部ができて、普段は話さない人とも話すようになった」「ゼニ金を超えた協働」だとリーダーはいう。
地域はほ場整備に取り組む計画で、その後は倶楽部を解散し再出発の予定だ。その中心はCさんの後継者等が担うのではないか。
法人との二重組織
小田多井農村夢倶楽部は1980年代に30a区画のほ場整備に取り組み、機械利用組合を設立、それが利用権設定受けの必要から2004年に農事組合法人になった。しかし品目横断的政策の米「ナラシ」を受けるためには別組織が必要ということで、集落の3分の2の参加で倶楽部を設立した。トップと事務局長はJAのOBだ。
倶楽部は転作の手作業と経理一元化を担う。作業に出てほしいという思いから、役員は20人と多くしている。機械作業は法人が受託するが、そのオペレーター3人は70代以上で、法人と倶楽部の合併は必須だが、まだ話し合われていない。とにかく「若手」オペの確保が不可欠という。久保田とは年1回、交流会をもっている。
法人化も「ゆい」の心
踏入ゆい生産組合は90年代末にほ場整備したが、平均は20a。排水は良好。機械組合等の前身はなく、品目横断的政策での米「ナラシ」の確保を目的に、JA支所長OBが中心になって立ち上げ、集落の半分が入った。転作主体だが、過去実績がないのでタマネギ、白ネギ等の野菜に取り組む。2011年に当時40代の1人がUターンし、作業の中心になっている。
同じ頃に法人化した。そろそろ貸し付け農家がでできたことと、5年後法人化の方針に沿うためだ。それまでの38戸、31haが法人化で14戸19haに減った。恐らく作業に出られないためで、そういう農家は入作者に貸している。法人としては現状がほどよい面積だという。
「ゆい」の精神で、14戸ほどが作業に出るが、通常は10人。うち3人が女性で玉ねぎ作業に欠かせない。手間のかかる水管理と畔草刈りは組合員で分担しているが、条件の悪い田は断っている。転作もタマネギは減らし、加工トマト、小松菜、ホウレンソウはやめた。手間のかかるものは避けながら、「ゆい」でこなしていこうとしている。
集落内に2法人
有明営農組合は富田集落で30a区画が30~40%。再整備の機運はない。同集落の北部には、半世紀も続き2012年に法人化した別組織がある(19名、59ha)。そちらはほ場条件も良く、規模の大きい農家、40代、50代が5~6人いる。
南部の農家は別組織にせざるを得ず、4年遅れで法人化した。安曇野第2位の面積だ。理事は10人、うち2人は女性。利用権設定は38ha、小作料は7000円平均。
オペレーターは4人だが、70代、60代が主、40代もいるが今はトラクター作業のみ。冬場の仕事がないので年間雇用できないのがネックだ。忙しい時は農機に8~9時間乗り、またほ場を覚えるのが大変だという。草刈りと水管理が難儀で、組合は後者だけをやる。小さい田は断ろうかと思っている。北部の組織に参加を申し込んだが、あちらもゆとりはなく、断られた。
多面的機能支払いには四つの組織があったが、2019年に「有明あぐりくらぶ」に統合した。
まとめ
任意組織が「多様な担い手」に支えられて永らえてきたことは、法人化が唯一の道ではないことを示唆する。「倶楽部」、「ゆい」、「協働」を支えに、無理をしないのが秘訣か。安曇野の農家は、機械作業は委託してでも「米は自分で作りたい」気持ちが強い。それに応えたのが転作主体の組織化だ。
各組織とも工夫をこらしてオペレーターを確保してきたが、そろそろ限界だ。雇用するには、冬場仕事がなく、面積的にも足りない。組織統合が不可欠だと誰もが思っているが、集落は集落間の話し合いが必ずしも得意でない。JAあづみは「地域計画」のための調査等に取り組んでいるが、集落間の仲介には羽織紋付がいる。かと言って単純に行政ができることでもない。行政とJAが手を携えて仲介役になる必要がある。多面的機能支払いの集落協定の広域化などが一つのヒントにならないか。
(随時掲載)
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